7―卑怯者の救い
グレースちゃんが、あたしを、差し出しに・・・?
グレースちゃんが、人間たちと、繋がってた・・・?
あたしを、裏切った・・・?
「ちっ、違うよね!?グレースちゃんはあたしを仲間のところまで案内しようとしたんだよね!?こっ、これってさ、なっ、何かの間違いなんだよね!?」
「・・・・・・・。」
「ねっ、ねぇ!何か言ってよ!ぐっ、グレースちゃんなんか怖いよぉ~!じょ、冗談キツいなぁ!会ったばっかのあたしをビビらすなんて!!」
「・・・なさい・・・。」
「えっ!?」
「本当に・・・ごめんなさい・・・。」
「うっ、ウソ・・・じゃ、じゃあ・・・ホントに・・・?」
・・・コクン。
「どう・・・して・・・。どうしてこんなことしたの!?あたしグレースちゃんのこと信じてたのに!!ねぇ!どうして!!?」
「仕方なかったんですッッッ!!!」
「ッッッ!?」
「私、話しましたよね。住んでた村が人間にやられたって。実は、襲ったのはコイツ等なんです。仲間はみんなやられて、私も、一緒に住んでいた父も殺されるのを待つばかりでした。その時コイツ等が私に言ってきたんです。“逃げている仲間を連れて来ればお前たちだけは助けてやる”って。私はあの場所に置かれ、父は近くの拠点に人質として監禁されました。私は父を助けるために、あそこを通りかかった逃亡中の仲間をコイツ等のいるこの駐屯地まで運んで、そして・・・売り渡しました。」
「そんな・・・」
「いけないことだと、愚かなこと分かっていました。ですが、父を守るために私は必死に罪悪感を押し殺しました。“この人たちが犠牲になってくれるおかげで父さんは助かる。”、“この人たちだってきっと分かってくれる。”って。ですが、やはり私のしたことは間違ったことだったみたいです。私は・・・父を救ってくれたあなた様まで売ろうとした・・・本当に・・・最低な・・・吸血鬼です・・・」
「グレースちゃん・・・」
「しかし、運がいいことに・・・まだ間に合うみたいですね。」
「え?」
「約束しましたよね。あなた様をお守りするために、命なんか惜しまないって。」
「それって、どういう・・・」
「おいおい、いつまで長々と話してんだよ!さっさとそいつこっちに寄越して、持ち場に戻・・・」
「ガァァ!!」
「いぅ!!?」
バシュ!!
ブシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
「こっ、コイツ・・・首吹っ飛ばしやがった・・・!!」
「おいグレース!!お前どういうつもりだ!?」
「悪いけどアンタ達との付き合いは今日で終わりよ。私が生きている限り、この方には絶対に触れさせないから。」
「てっ、てめぇ・・・」
「地級第三位魔能・血操師・剣錬成!」
バッ!
ビチ・・・ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!!
「血だまりの血が・・・剣に・・・?」
「ミラ様、ここは私が抑えるので、あなた様は拠点に。ここから東に真っ直ぐ進めば、じきに着くと思います。」
「でっ、でも・・・」
「私に構わず行ってください!!これが、私にできる唯一の罪滅ぼしなんですから。」
「グレース、ちゃん・・・くっ!」
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ・・・
「まさかお前が最後の最後で仲間を本当に助けるなんざ・・・」
「何?意外だった?」
「いや、別に。ただ命を粗末にしたなぁって思ってよ。」
「粗末になんかしてないわ。」
「はぁ?」
「父の恩人の・・・吸血鬼の希望のために使えるのだから、これ以上に誇らしいことなんかないわ。卑怯者の私には、勿体ないくらいよ。」
「何ワケ分かんねぇこと抜かしてんだ。じゃあそろそろ始めようぜ。お前殺して、その血はオレ達のポーションの材料かなんかに使ってやるよ。」
「いいわ。でもタダで殺されないわよ。アンタ達の数は、私が動けなくなるまでできるだけ減らしてみせるから。」
「できもしねぇこと言っちゃってよぉ。いいから早く来いよ。」
ザリ・・・ダッ!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
◇◇◇
はっ、はっ、はっ、はっ!
ズザザァ・・・!
「はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!」
どうしよ・・・
このままじゃグレースちゃんが・・・!
助けにいかないと・・・
でも、本当に助けにべきなのかな・・・
グレースちゃんは、あたしを騙して、人間に売り渡そうとした・・・
あとちょっと遅かったら、あたしはまた人間に捕まってた。
そんなヤツのことなんか、助けにいく必要なんて・・・
そうだ。助けにいかなくたっていい。
グレースちゃんが、勝手にあたしを助けただけなんだから。
今まで散々仲間を騙してきた最低なヤツなんだから・・・
そんなヤツのために、あたしが危険を冒すことなんか、ない。
大丈夫。これで合ってる。
あたしは正しいことをしてるんだから。
正しいこと・・・正しいことを・・・
グレースちゃんだって、きっと分かって・・・
“私が売った吸血鬼たちだって、きっと分かってくれる。”
ッッッ!?
あたし今・・・グレースちゃんとまんま同じこと・・・考えてる?
でも・・・でも・・・
“あなたは他の者を助けるためなら、決して恐れることはない、勇敢で、慈悲深く、強い人。”
ッッッ!!?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ああ!!もうッ!!
ミラのヤツ!
あたしをあんな風にベタ褒めしやがってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
◇◇◇
「がはっ・・・!?」
バタッ!!
「おいおいどうした?もうへばったのか?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「さっきは“できるだけ殺す”って言ってたのに、一人も倒せてねぇじゃねぇか。」
「はぁ・・・よくよく考えたら・・・はぁ・・・ちょっと・・・無謀だった・・・かも。」
「ホントバカじゃんお前www」
「全くな。で、誰がトドメ刺すよ?」
「オレがやるよ。ちょうど殺す練習したいって思ってたから。」
「まぁいいさ。ここは隊長として可愛い部下の意力向上に付き合ってやるよ。」
「へへ、ありがとよ。そんじゃ、さよなら!」
(ああ・・・どうやら私はここまでみたいね。でも良かった。最後にみんなの、ミラ様のお役に立つことができた・・・ごめん、父さん。一緒にいてやることが、できなくて・・・)
ガシッッッ!!
「なっ・・・」
「ああ!?」
「え、何?」
ゴロゴロゴロゴロ!!
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ミラ・・・様・・・?」
「グレースちゃん、あたし言ったよね。“もっと自分を大事にして”って。でも今どう?グレースちゃんすっごく自分粗末にしてんじゃん。あたしさぁ、ウソつきは嫌いだけど、言うこと聞かないヤツはもう大っっっ嫌いなんだよね!!!!」
「しっ、しかし、私の犯した罪を償うためには、ミラ様を命に代えてお守りするしか・・・」
「誰がそんなんでチャラにしろって言ったよ!?反省したかったら死ぬんじゃなくて傍に居て守ってよ!!これ年上からの命令だかんね!イヤって言わせないから!!!」
「ミラ・・・様・・・」
「何ゴチャゴチャ言ってんだよ・・・いいからその抱きついてるヤツから離れろよ!!」
「ッ!!ミラ様!逃げ・・・」
え?
ヤバ!!斬られ・・・
パキィィィィィィィィィィィィン!!
「ッッッ!!?」
「おい・・・」
「何・・・だよ・・・」
くぅぅ・・・
って、あれ・・・痛くない?
「剣が・・・折れた・・・?」
え、ええ!?
「おいお前!ちゃんと手入れしたのかよ!?」
「吸血鬼の頭で剣折れるなんてありえねぇだろ!!」
「そんな、バカな・・・おっ、おい!誰か代わりの寄越せ!!」
「おっ、おう!」
パシっ。
「さすがに腹は、柔らかいよなぁ!」
ひっ!
いっ、イヤ!!
グシャ!!
「ぐぼぁ・・・!」
え?
ちょ、ちょちょ!!
なんでこの人の胸にあたしの腕が貫通してんの!?
ただ単に「やめて!!」って突き出しただけなんですけど!?
「なっ、なんだよコイツ!?」
「ばっ、化け物・・・!!」
ばっ、化け物って・・・
年頃の女子にそれ言っちゃあダメでしょ・・・
ガチで傷つくんだけど・・・
「ッッッ!?おい、コイツの、髪の色・・・」
「まっ、マジかよ!?まさかコイツ、あの・・・吸血鬼の親玉・・・救血の乙女・ミラかよ!?」
あっ、バレちゃった・・・
「どっ、どうするよ!?」
「逃げるに決まってんだろ!!こんな段違いのヤツに勝てるワケねぇだろ!!」
マズっ、逃げちゃう!
はっ、早く抜けろ!
ぐぬぬぬ・・・はぁっ!抜けたぁ~
でもどうしよ。
このままじゃ、逃げられて仲間呼ばれちゃう・・・
そっ、そうだ!
「地級第三位魔能・血操師・ゆっ、弓矢作成!」
ビチビチビチビチビチビチビチ!!
ジャキン!
「おいウソだろぉ・・・」
「やっ、やめ・・・」
「いっ、行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ズドドドドドドドドドドドド!!!
「ぐっ・・・ぐはぁ!!」
「がっ・・・!?こひぅ・・・」
ドサ・・・ドサァ・・・
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うっ!?オエエエ!!」
「みっ、ミラ様!」
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
あんま・・・見たくなかったなぁ・・・
胸に穴開いたのと全身に矢ブッ刺さってる人って・・・
グロ耐性ないから・・・ホント・・・キツい・・・
「すっ、凄まじかったです!私が苦戦したあの連中をいとも簡単に・・・」
「え・・・へへ・・・まぁ初っ端から、やぶれかぶれだったんだけどね・・・」
「あっ、ありがとうございます!!」
「え・・・?」
「私なんかの命を救ってくれて・・・私なんかあのまま殺されていた方が良かったのに・・・ミラ様に拾って頂けたこの命、尽きるその時まであなた様をお守りするためだけに使います!!」
「そっ、そんな大げさにしなくたっていいのに~ただ単に傍についてるだけでいいんだって♪ああそれと、グレースちゃん!またあたしのことミラ様って呼んでるぅ!まずはそっから治すのを頑張りなさいっ。」
「ぜっ、善処いたします!」
「よろしい!じゃああたしの背中に乗ってよ。その傷じゃ歩けないでしょ?」
「そっ、そんな恐れ多い!!」
「年上の厚意には素直に甘えるもんだって!さっ、早く!」
「でっ、では・・・失礼します。」
「よっ!あれ、グレースちゃんなんか軽いねぇ。ちゃんとご飯食べてる?」
「すいません。あまり・・・」
「そっかぁ。じゃあさ、今度なんか作ってあげるよ!あたし料理結構得意だから。」
「覚えてるんですか?料理のこと。」
「えっ!?ああ、いや・・・感覚ね、感覚。実際やってみたらどうなるか分かんないけどさ!」
「そうですか。では、よろしくお願いしても?」
「オッケー!だからさ、そん時まで、自分のこと、粗末にしたらダメだかんね。」
「・・・・・はい。」