6―裏切りの後悔
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザリッ!
うおっ!足滑らせちゃったっ。
「大丈夫ですか!?ミラ様。」
「え、ええ。ごめんなさい。山道歩くの慣れてなくて・・・」
「あれ?確かミラ様ってこれ以上に険しい岩山を、お手の者とご一緒に幾度も行軍していたはずでは・・・」
マジで!?
あたし山なんて歩いたの中一の自然学習以来よ!?
そん時の道もほとんど整備されていたし!
「やっ、山道ってさ、歩くのに他とはちょっと違うやり方が必要なんだよね。頭ン中じゃ分かってんだけど、どうやって歩くか細かいのは記憶がなくって・・・」
「そうなのですね。失礼なことを聞いてすいません。」
「気にしないで下さいっ。今のあたしなりにグレースさんについてけるように頑張りますから!」
ふう・・・
ボロが出そうになると、記憶喪失のフリをしなくちゃいけないのは大変だなぁ。
でもそうしないと、あたしが中身は本物のミラじゃないってことがバレちゃうし・・・
ああでもいつまでこれでごまかせるかなぁ~
「ミラ様?」
「ぅはい!?」
「どうかしましたか?お顔が優れないようですが。」
「えっ、ううん別に。ちょっと考え事してただけで。」
「少し休みましょうか。どうもお疲れのようですし。」
「あっ、はっ、はい。」
なんか余計な気遣わせちゃったな~
自分がどういう風に見られてるかもうちょっと気にした方がいいのかも・・・
「ふぅ・・・だいぶ進みましたね。」
「ここからあとどれくらいかかるんですか?」
「そうですね。ここから休憩を挟みながらとなると・・・夜明けまでには着くことができると思います。」
「そうですか。分かりました。」
しかし吸血鬼の軍の拠点って一体どんなところなんだろ?
みんな優しい人たちであってほしいなぁ。
もしかして、首切られて逆さ吊りにされてバケツで血取られてる人間とかいたらどうしよ~!?
あたし人間がそんなことされてる光景とか見るのヤだな~
なんせ、元人間だから・・・
「ミラ様、よかったらこちらをお飲み下さい。」
え、このボトル何入ってんの?
まっ、まさか!?
「あの、コレの中身って、ひょっとして、血・・・?」
「いいえ。ただの川から汲んだ水ですが。」
そっ、そうなの?
「でも吸血鬼って血を飲まないと生きていけないんじゃ・・・」
「私たちが血を吸うのは、あくまでも他の生物から魔能を奪う時だけですよ。まさかそれもお忘れに?」
「あっ、そっ、そうなんだ!」
「もしや魔能を回復させたかったのですか?すいません。血を持っていなくて。」
「いやいや、謝らないで下さい!ちょうど喉が渇いてたんで、いただきますっ。」
そっか~
この世界の吸血鬼って、わざわざ血を飲まなくても生きていけるんだ。
だったら今から行くところの人たちも、案外普通の生活送ってんのかも。
ちょっと安心したぁ~
でも、グレースさんってホントしっかりしてるよなぁ。
見た感じ、あたしと大して歳離れてないように見えるけど・・・
「あの・・・」
「はい?」
「グレースさんっておいくつなんですか?」
「私ですか?一月前に96歳になりました。」
きゅ、96!?
めっちゃおばあちゃんじゃん!?
あ、でも、吸血鬼って長生きするんだから、変な話でもないか・・・
「ちなみにさ、あたしっていくつって聞いてます?」
「確かミラ様は・・・134歳と聞いたことがあります。」
134!?
あたしホントは17よ!?
見た目変わってないけど117歳も年とっちゃったんだ・・・
「そっか。グレースさんってあたしより年下なんだ・・・」
「そういうことになりますね。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あのさ、グレースちゃんって呼んでもいいかな?」
「ええ!?」
「あっごめん!やっぱ悪かったよね。」
「そっ、そんなことは!ただ、私たちの救い主であるミラ様からそんな親しみ深く呼ばれるのは私には相応しくないかと!」
「気にしないでよ!あたしのことも別に様付けしないでミラって呼んでもいいからさ。」
「そっ、それはさすがに不敬が過ぎると・・・!」
「いいからいいから!年上の言うコトは素直に聞いちゃいなさいよ!」
「はぅぅ・・・でっ、では・・・ミ、ミラ、さん・・・」
「んん、まだガチガチだけど、とりま良しとするか~じゃあさ、そろそろ行くとしよっか!グレースちゃん。」
「はっ、はい!」
なんかようやく素で話せることができてリラックスできたなぁ~
◇◇◇
「おい、今日はもう来ないんじゃないか?」
「いい加減中に戻ろうぜ。こうも寒いと風邪引いちまうじゃねぇか。」
「いや、夜明けになるまで待つべきだ。連れて来たのにオレ達がいなかったら逃げられるかもしれないだろ?」
「へいへい。仕事熱心でお偉いですこと。」
「しっかし、あそこを通るヤツもツイてないよな~」
「だな。まさか助けくれたヤツのせいで人間に捕まるなんてよ!」
◇◇◇
なんかだいぶ森の木が少なくなってきたな。
「ねぇグレースちゃん。もしかしてあとちょっとで着く?」
「ええ。もう少ししたら吸血鬼軍の拠点が見えてくると思います。」
良かった~
もう歩き疲れてヘトヘトだよぉ~
「そういえばミラ・・・さん・・・」
「えへへ・・・なぁ~に?」
「何故そのような格好をされてるのですか?確かそれは、人間の査官のものでは?」
「さかん?」
「私たちの身体を調べて血を採取する者たちです。」
「ああ!だからアイツ等あたしの血を全部抜こうとしてたのか。」
「どういうことです?」
「実はさ、あたしが生き返った時にその査官っていうのに血を搾り取られる寸前だったんだよね!でもって、まあ、殺しちゃったんだけど、そいつらからこの服取って捕まってた人間の建物から逃げてきたの。」
「人間の建物から・・・まっ、まさか!西の草原に建っている拠点のことですか!?」
「え?あんまりよく分かんないけど、そういえば原っぱの中にあったな。」
「そっ、その中にっ、こ、この人はいませんでしたか!?」
写真?
「ん?ああ、この人なら檻の中に閉じ込められてたよ。あたしが逃がしたんだけどさ。」
「に、逃が・・・した・・・?」
「聞いてよぉ~!ホントは檻だけ消そうとしたんだけどさ、間違えて建物ごと消しちゃったんだよね。ホントビビったよ〜で、その人にあたしが囮になるからみんなを連れて逃げてって言ったの。多分、今頃もう拠点に着いてるんじゃないかな~?ってあれ、グレースちゃん?」
「あ、ああ・・・私は・・・何て・・・ことを・・・」
「ちょ、ちょっとどうしたの?あとちょっとで着くんだから早く立ってよ~もしかして、どっか具合悪い?」
「ミラ様!早くお逃げ下さい!!ここは・・・」
「おうグレース!今日は連れて来られたな。」
え?
に、人間!?
それもこんなにたくさん・・・
もしかして待ち伏せされてた!?
「最近めっきり少なくなってきて白けてたが、久しぶりに網にかかって良かったな!」
「網に、かかった?」
「しっかしお前も運がないね~助けを求めたヤツに騙されるなんてよ。」
「騙された?」
「お前、コイツに“拠点まで案内する”って言われてついてきたんだろ?コイツはそう言ってオレ達が駐屯するこの場所までお前をここに誘導したんだよ。分かんねぇかぁ?つまり、グレースはお前を差し出しにきたんだよ!!」