504―最終決戦㉒・類対の冷怒
イスラルフさんの話を整理すると、あたしとアクメル。
その両方が死なない限り、幻想大厄災はできなくなっちゃったってコト・・・?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「うっ・・・!!うおっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
興奮を抑えられずあたしは、ガッツポーズしながら腹から豪快に叫んだ。
(きゅっ、急に叫ぶなミラ!驚くぞ。)
「これが叫ばずにいられますか!?これってほぼ勝ち確ですよイスラルフさんん!!!」
(勝ち確?)
「だってそうでしょう!!コイツの野望が達成されるにはあたしとコイツの両方が死ぬ必要がある!!だけどコイツには自分を殺すことなんかできないし、頼みの綱だった全能者の灯も効かないときた!!ってことはですよ!?もうアクメルには、あたしを殺す手段がないってことと同じじゃないですかッッッ!!!もうコイツの・・・クソったれな夢が叶う日は、永遠にやって来ない!!すごい!!すごいですよイスラルフさんッッッ!!!あなたが今回のMVPですよッッッ!!!」
(M、V、P・・・?何だ?それは。)
おっとあたしとしたことが。
興奮しまくって、我を忘れてしまっていたか・・・。
「すっ、すいませんつい気持ちを抑えきれなくて・・・。とっ、とにかく!もうこれであたし達はほぼぼぼ勝ったことになりますよね!?」
(まぁ、そうなるな。)
「じゃあ、あとはコイツを・・・。」
あたしは項垂れてボーっと立ってるアクメルに、剣を向けた。
「アクメル。この戦い、あんたの負けだよ!それを認めて、自分のした罪の重さにしっかり向き合うんだったら、命だけは助ける!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「黙ってないで何とかいったらどうなんだよッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「・・・・・のか?」
「ええっ!?」
「お前もこうだったのか?ミラ。」
「なっ、何がだよ!?」
「自分の守りたかったもの、生まれてきた理由、存在意義・・・。それを目の前で壊され、穢され、踏みにじられた時、お前はこんな気持ちをしてたのか?」
なっ、なんだコイツ?
明らか様子が。
でもなんか・・・覚えが・・・。
「なぁ教えてくれよ?僕は今・・・。」
「うっ・・・!!!」
顔をこっちに向けてきたアクメルを見た瞬間、あたしは息を飲んだ。
「僕は今・・・お前と同じ顔なのか?」
・・・・・・・。
似てる。
エボルでコイツにボロ負けして、こっちの世界でできた大切な人達を、大勢失った時のあたしと・・・。
焦点が定まってない眼で泣いて、悲しんでるように見えるけど、心の中じゃやけっぱちになって、すごく怒って、自分がこれまでしてきた行いに、どんなことをしてでも意味のあるものにしようとする・・・冷酷な怒りに染まった顔・・・。
「僕にお前は殺せない。そんなことをほざいていたな?ミラ。確かにそうだ今の僕にはお前は殺せない。だがなぁ・・・お前が自分からその命を差し出した場合はどうだ?」
「え・・・?」
「守るべき者も、生きる意味を失い、完全な闇に堕ちたお前が、この僕に❝いっそ殺してくれ。❞と乞い願ってきたらどうだ?僕は優しいからな?喜んでその願いを聞き入れよう。その後で、穢された夢を再び取り戻す方法を考えるとしよう。」
「なっ、何をしようってんだ!?!?」
アクメルはあたしに向かって不気味な笑みを浮かべると、浮遊魔能で一気に空まで上がった。
ッッッ!!!
ヤバいッッッ!!!
全身から血の気が一気に引くのを感じて、あたしは急いでアクメルを止めに向かった。
「ミラお姉様!?」
「一体どうしたのいうのじゃ!?」
「今のアクメルは今までで一番ヤバいッッッ!!!このままじゃみんな・・・殺されるッッッ!!!」
◇◇◇
雲の上まで上ったアクメル。
目の前の太陽は自分と同じ目線にあって、それが夕暮れに確かに向かっていることを実感させる。
頬に涼しい風を感じ、アクメルはゆっくりと口に開く。
「❝完全なる闇。それは光はおろか生命の息吹も、陽の温もりも、風の囁きも、大地の抱擁も無く、一度足を踏み入れれば二度と出られぬ、禁足にして絶足の世界。天地が存在せず、命を繋ぐことが叶わない虚無なる死獄にて、我が夢を穢した憎むべき愚か者共に、生きる者の想像が及ばぬ苦しみを以って罰を。顕現、祖級第零位魔能・無望獄。❞」
アクメルの手中から広がった闇は、周囲を取り込む巨大で、暗黒の牢獄となった。




