501―最終決戦⑲・紡がれる詠唱
「なぁなぁ妃花ぁ~。」
「なんだいミラちゃん?」
「あんたってアニメとかで見る詠唱についてどう思う?あたしアレ、別にいらないかな~って思うんだよ?長ったらしい呪文唱えるより、無言で技出す方がカッコイイ気がしない?」
「聞き捨てなりませんなぁ・・・。」
「なっ、なんか顔怖くなってね・・・?」
「魔術師の詠唱こそがファンタジー作品の鉄板にして一番の見せ場ということをまるで理解していない!!厨二心をくすぐるカッコイイ詠唱!そしてそこから引き出される威力が底上げされた技!剣と魔法が舞台の世界の中で、これ以上に勝る見せ場はないッッッ!!!はい!これ親友兼アニヲタ先輩からの教えだよ~ん。」
「そっ、そっすか・・・。」
力説する親友に若干引きつつ、あたしは窓枠にもたれかかって缶ジュースを飲んだ。
◇◇◇
リリーとリセ・・・。
どう考えても相性が悪すぎるコンビだ。
イスラルフさん・・・一体何を考えてんだ?
「まさかお前らが相手なんて・・・全然勝ち目ないよぉ~♪」
2人に対して、アクメルがコケにした含み笑いを浮かべた。
「ミラを愛する者とミラを憎む者が、よく協力する気になったね?」
「私だってコイツと手を組むなんて冗談じゃないわ。何せコイツは、父親をミラお姉様に殺されて、復讐を誓っているのだから。」
「妾とて、ミラを盲目に慕い、劣情とも取れる爛れた想いを抱くこの娘に力を貸すことなど愚行の極み。」
ギラついた視線で互いに睨み合って火花を散らすリリーとリセ。
だけどその厳しい目は、同じタイミングでアクメルに向けられた。
「だけど特に理由なくミラお姉様に危害を及ぼすお前の方が、よっぽど性質が悪いわ。」
「貴様を葬り、我が臣下の未来を守る。父上の仇を討つのはそれからでも遅くはない。」
利害の一致・・・ってワケじゃなさそうだ。
この2人はアクメルを倒すために、本心から協力し合おうとしてる。
ラスボス戦で、絶対に協力しないと思ってたキャラ同士が共闘するのがこんなにもアツいなんて・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「やっぱりつまらないな。自分の感情に正直にならず、大義や仲間のために戦う奴を見るのは・・・。」
アクメルがめちゃくちゃ不機嫌そうな顔をした。
「貴様は己が心に正直になり過ぎじゃ。」
「同意見ね。少しは大人になったらどうなのガキ。」
「凡夫風情が。穢い口でほざくな。」
アクメルが全能者の灯発動準備に入った!!
「リリー!!リセ!!その魔能はあたしでも防げなかった!!だから早く逃げてッッッ!!!」
「安心してミラお姉様。」
「え・・・?」
「妾に殺される前に死なれては困るゆえ守ってやる。」
「ちょっ、ちょっと・・・。」
2人は全く逃げる素振りを見せず、アクメルの手から全能者の灯の波動が撃たれた。
「いっ、イヤ・・・!!」
「❝我、父の仇を守る愚者なり。❞」
「❝我、その仇に恋焦がれる乙女なり。❞」
「❝しかして我ら、志ともにする友である。❞」
「「❝相反する魂の垣根を超え、魔球の守りよ顕現せん。球形防壁!!❞」」
2人が展開した球形防壁は、なんと天級第一位魔能ベースの全能者の灯を弾いた。
「やっ・・・やったできたッッッ!!!」
「たった一聞しただけでこうも上手くいってしまうとは・・・。認めたくないが、妾と貴様は足並みを揃えることがよほど上手いようじゃな?」
「自分と肩を並べるほどの技量の持ち主がミラお姉様の命を狙っているんじゃ、油断できないわね。」
不本意ながらもお互いの実力を褒め合ってるリリーとリセを尻目に、アクメルは怒りながら困惑していた。
「なんだよ・・・!!どうして僕の作った、新しい魔能が、たかだか地級第三位の魔能に防がれてんだよ!?!?」
「だから言ったであろう?❝度が過ぎる傲慢❞だと。」
瞑想していたイスラルフさんが、片目だけパッチリ開けてドヤ顔をした。
「イスラルフ・・・!!お前・・・コイツ等に何をしたッッッ!?!?」
「ただ入れ知恵を吹き込んだだけだが?だが見込み以上であった。さすがは吸血鬼随一の魔能士と我が弟の娘だ。」
「イスラルフさん!!さっきの詠唱って・・・!?」
「えいしょう?何だそれは?」
驚くあたしに、イスラルフさんはきょとんとした。
「ほらさっきの・・・!!」
「ああ式文のことか?」
「式文?」
「魔術能式・・・つまり魔能に更なる力を与える詞だ。今じゃすっかり廃れてしまったがな。」




