478―空中城塞攻略㉕・終雄
「エリガラード様!!どうしてここに!?」
「あなた達に手伝ってほしいことがあってね?それで城内のあなた達の気配を頼りに踏み込んだのですが・・・。」
集まった乙女の永友4人の顔を、エリガラードはまじまじと見つめる。
「まさか近衛全員が共醒に至るなんて・・・。これもミラの、周りの者を愛し、そして愛される才の賜物・・・といったところなのね。それはそうとミラは?一緒じゃないのですか?」
「ミラ様はお一人で、アクメルの許へ・・・。」
「そうですか・・・。あの男から勝利宣言がないということは、ミラはまだ生きているわね。」
「ならば悠長に構えてはおられん!!すぐにミラ様に合流せねば・・・!!」
「待ちなさいローランド!」
螺旋階段に向かおうとしたローランドを、エリガラードが厳しい声色で制止した。
「あなたの気持ちは重々承知しております。ですが先程も申したように、あなた達には手を貸してほしいことがあるのです。」
「エリガラード様、それは一体・・・。」
ヒューゴが質問しようとしたその時、エリガラードが飛び込んできたと思われる天井の穴から、スドラが2体のキネ・ヴァラードに襲われているのが目に入った。
「なっ、何なのよアレ!?」
「本来の力を取り戻したソル・ヴェナ様を圧倒している・・・!!エリガラード様!あの2頭の竜種、どこから湧いて・・・!?」
「あれは竜種なんかじゃないわ。キネウラよ。」
「ええっ!?!?」
エリガラードはこれまでの経緯と、スドラを押す存在について語った。
「なんと・・・!!!」
「手足を斬り落としたら、そこからもう一体出てくるなんて・・・冗談でしょ!?」
「ご覧の通りスドラ・・・いや、彼はキネウラが作った蟻の竜に押されつつあるわ。彼がその気になればあんな化け物、一瞬で消し炭にしてしまえるでしょう。ですがそれではキネウラが死に、この城が崩壊してしまいます。アレを止めるには、体躯の大きい方に籠っているキネウラを引きずりだして行動不能にするしかありません。お願い。力を貸してちょうだい。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「分かりました。」
「ドーラ!?」
他の3人の視線がドーラに一斉に向く。
「あのような恐ろしい存在を放置していては、アクメルとの戦闘で大きな障害になり得ます。だったらここで叩く他に道はないでしょう。」
「でもミラお姉様は!?私達がキネウラの相手をしている間、一人でアクメルと戦わせる気!?」
「まさかリリーナ、疑っているのですか?本体がたかだか人間一人に敗北すると・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「まさか!!負けるはずがないじゃない!!」
「然り!!主君が敵の本丸を叩いている間、近衛が露払いをするのは戦において定石!!ならばこれは、我らに相応しきお役目!!」
「キネウラ無力化の要は私です。参加するしかないでしょう?」
皆の賛同を確認し、ドーラはエリガラードに向かって頷いた。
「感謝・・・恐悦至極です。❝救血の乙女・ミラ❞の懐刀達よ。」
◇◇◇
「がはっ・・・!!!」
体躯の大きいキネ・ヴァラードに殴られ、スドラは体制を大きく崩して倒れる。
「頑丈ですね。ですがいつまで持つのやら・・・。」
「粋がるなよ・・・!!我は手加減しておるのだぞ!?その気になれば貴様など・・・!!」
「でもそれができない。竜種王たる者が、自分より脆弱な存在の背中を預けて戦うとは、何とも滑稽ですね。」
「この者達は我が兄弟の大切な友だ!!愚弄は断じて許さんぞッッッ!!!」
這いつくばってキネ・ヴァラード達を睨みつけるスドラを、トヴィリンは胸に両手を当てて案じた。
「スドラ様・・・。」
❝誰か助けに来て。❞
彼女のその切なる願いは、轟音とともに届いた。
「ッッッ!!!」
リリーナ、ヒューゴ、ローランド、ドーラ、そしてエリガラードの5人が空中城塞から飛び出してきた。
「おっ、お前達・・・!!」
「待たせましたねスドラ。まだ死んでないようで何よりです。」
加勢してきた4人を見て、キネウラは纏う竜の身体で笑った。
「乙女の永友・・・ですか。一人見当たりませんね。どうしたのですか?」
キネウラの挑発に、4人はドキっとした。
「勿論いるわよ!!」
「ッッッ!!!」
下の階層から突然グレースが飛び出してきて、乙女の永友が5人全員揃った。
「グレース!?ノイエフは!?」
「倒し・・・ました。」
暗く沈んだ表情でグレースは答えた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「しっかりしなさい!!コイツを倒して、私達はミラお姉様のところに行かなくちゃいけないんだからッッッ!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「はいッッッ!!!」
グレースは涙を拭って、毅然とした表情でキネウラに目をやった。
「ソール様とノイエフ様は倒れましたか・・・。いいでしょう!!望み通り、あなた方全員、このキネウラがお相手致しましょう!!この城の管理者として!!黎明の開手最後の英雄としてッッッ!!!」
空を飛び向かってくるミラの手の者に、❝母蟻雄・キネウラ❞は敢然と戦う覚悟を見せた。




