477―空中城塞攻略㉔・落陽
共醒状態になったドーラを前にソールは怯えを隠せないでいた。
しかしそれは、徐々に怒りに満ちた表情へと変わっていった。
「何故だ・・・?何故貴様らだけ皆・・・!!何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ソールは激昂して叫び、ドーラへと一気に踏み込んだ。
そこから両者のの間で、目に見えぬほどの凄まじい剣戟が巻き起こる。
「天級第二位・脈動の叡智者」
ドーラは先読みの魔能を発動し、ソールのが繰り出す剣技を涼しい顔をしながらいなす。
ソールの怒りの炎が、彼の魂の中で更に激しく燃え上がる。
「天級第三位・劫地の陽波!!」
ドーラから距離を取ったソールは、大地を一瞬で灰塵に変えてしまえるような炎と爆発の波をドーラへとぶつけようとする。
「天級第一位・救済神の涙!」
しかしリリーナが巧みな魔能操作によって、ソールの魔能のみを敵と見なした光玉を作り、それをぶつける。
それによりソールの放った陽炎の波は跡形もなく消え去った。
「おのれぇ!!!」
怒り狂ったソールはリリーナに狙いを変える。
「させぬわ!!」
ソールとリリーナの前にローランドが割って入ってきた。
「地級第一位・先ゆく連撃者!!」
ローランドはソールでも対応できない程の速度で、彼に拳の応酬を浴びせる。
そして締めとして、強烈な蹴りを炸裂させ、ソールをアリーナの壁に飛ばした。
「ゴホッ・・・!!ガハッ・・・!!ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
壁にめり込んだソールは悪鬼羅刹の如き形相で、血反吐を吐いて壁から出ようとする。
「地級第一位・全意喪失。」
「くはっ・・・!?!?」
ヒューゴによって全ての感覚を断たれたソールは、出かかっていた壁から力無く床へと落ちた。
共醒状態になった乙女の永友4人の前では、ソールの方が分が悪いことは明白だった。
だが師であり、主君であるアクメルへの異常なまでの忠誠心が、彼を奮い立たせる。
「・・・めぬ。認めぬぞぉ・・・!!!」
剣をぬぐいながら、ソールは血をボタボタを落として立ち上がる。
「貴様ら如きが私を・・・導主様を打ち破ることなど、有り得ぬ!!他の種族を淘汰し、人間だけの世界を創造することは、あの方の、我らレクト一族の3000年の悲願!!貴様らのような凡庸で、矮小な者共に邪魔立てされることなど、あってはならぬのだ!!群れて歯向かうことができぬ・・・腰抜け共がぁ!!!」
「泰陽雄ソール。あなたの主君への忠義は賞賛に値します。ですが薄々察しているのでしょう?あなたの忠義は・・・一方的なのだということを。」
「なっ・・・!?」
「これだけ苦戦していても、これだけ主君のために立ち上がろうとしても、あなたは共醒には至っていない。それが何を意味するか解ってますか?結局あなたは、使える駒だとしか思われていないのです。賢いあなたのことです。薄々それを察しているのではないのですか?主に自分の努めが認めてもらえない無情・・・心からお察しします。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ドーラの慰めに、ソールは慟哭を以って答えた。
「貴様に同情される必要などないわッッッ!!!導主様が御力を恵まないのは、私一人で貴様らを殺せると信用なされているということ!!今からそれを・・・お見せして差し上げねば!!」
ソールは剣を床に突き立てる。
「天級第一位・太陽への誘い!!」
ソールを中心に、本物の太陽の表面がアリーナ全体へと拡がってゆく。
4人は急いで浮遊魔能で空中に避難したが、太陽が持つ凄まじい重力によって地上へと引き寄せられる。
「塵も残さず消してくれる!!乙女の永友ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
ソールにまだ、これほどまでの余力があったことに、4人は驚愕した。
狼狽する4人を見て、ソールは自身の勝利を確信した。
「やはり貴様らでは力不足だったな!!導主様!ご覧になってますか!?ソールは・・・ソールはミラの配下を葬り・・・がっ!?」
勝ち誇るソールは、背骨に何かが突き刺さる感触を覚える。
「天級第五位・心霜の一刺剣。」
「エリ、ガラード・・・。」
「憐れな忠臣・・・。寿命が尽きるその日まで、凍てつく身で生きなさい。」
アリーナに出現した太陽の表面は消え、エリガラードに背中を突かれたソールは全身が紫色に染まって倒れた。
か細い呼吸をするその口は白い息を吐き、身体からも冷気が立ち昇っていた。
「えっ、エリガラード様・・・!!」
間一髪で乱入したエリガラードは、面食らう乙女の永友4人に優しく微笑む。
「よく奮闘しました。あなた達の忠義の勝ちです。」




