461―オルテストの戦い㉔・空中城塞へ
パッと気付くと、スドラとエリガラード達は街の門を抜けた先にある中央街道に転移されていた。
「スドラ様!!エリガラード様!!皆さんッッッ!!!」
手に分厚い書物を抱えたトヴィリンが、皆の方に目に薄っすら涙を抱えて駆け寄ってくる。
「ああ、良かったぁ・・・。皆さん無事で・・・。」
「心配をかけました。あなた達二人も、大変だったみたいで。」
トヴィリンの後ろで身を潜めるリセに、エリガラードは視線を移す。
「勘違いするな。妾が貴様らと手を組むのは・・・」
「❝アクメルを倒すまで。❞ですよね?勿論そのつもりです。その後は、いくらでも相手になってあげますよ?」
「我らが勝つのは目に見えておるがな。でもまぁ、ともに戦場で支え合った仲だ。ミラならいくらか寛大な決着を望むだろう。」
「妾も此度のことで生への未練ができたのでな。そうなることを願おう。」
鋭い眼光で睨み合った後、スドラはトヴィリンに目をやった。
「お前が新しい所有者か・・・。」
「リセさんが、❝自分はそんな物に興味がないからもらっておけ。❞って・・・。」
「ほう・・・。若人に贈り物など、随分と粋なマネをするではないか。」
「深い意味はない。要らぬ物を押し付けただけだ。」
「なるほどぉ?」
ニヤニヤするスドラにリセはムッとした表情をした。
「それで!?これからどうするつもりだ?朽鬼どもは妾の魔能で全て灰になった。残った魔能士でも片付けるか?」
「いや。オルテストは最早捨て置いてもいいでしょう。」
「何?敵国の首都を野放しにするというのか?」
「この国の政権を担っていた魔首十客は、全員私達が閉じ込められた異空間で死にました。奥の手だった黎明の開手の2人も敗死。相手がこれ以上の手駒を用意しているとは考えられません。認めるのは癪ですが、例の2人は私、スドラ、そしてリセ・・・❝始まりの戦い。❞と❝第一次アルスワルド大戦❞を生き残った者達ですら苦戦したのです。何よりオルテストには・・・二度目であり、真の幻想大厄災を起こせるだけの魔能の気配を一切感じない。つまりあの男は、最初からここのことなど重視していなかった・・・ということです。」
「エリガラード。ではやはり・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私達も向かうべきです。❝空中城塞・ヒメールシタデル❞へ。」
エリガラードの言葉を受け取り、その場にいた全員が覚悟を決めた。
「だがエリガラードよ。空中城塞があるのはアドニサカ魔政国の最西端。今から早駆けで向かっても一日は要すぞ!」
「そこが唯一の問題です。どうしたものか・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ、あの・・・!!」
「どうしましたか?トヴィリン。」
「この本の中に、一瞬で軍を遠くに行かせられる門が入ってるかもしれません!!」
トヴィリンは急いで魔導書のページをめくって、その門とやらを探し始めた。
「あっ、ありました!!❝遠行きの大門・パルティアーノ❞!!これならここから空中城塞に行けるかもしれません!!」
「トヴィリン!今すぐそれを出して下さい!できますか!?」
「やってみますッッッ!!!」
トヴィリンがページに手をかざして念じると、高さ10mほどの、扉の代わりに鏡が張られた門が、オルテストの中央街道に姿を現した。
「皆さん!!全員門のガラスの前に立って下さい!!」
トヴィリンを先頭に、皆が門のガラスの前に立つと、とある光景が映された。
それは・・・無数の軍蟻種で埋め尽くされた、ヒメールシタデル城下だった。
「エリガラード様・・・。」
少し不安な表情でトヴィリンはエリガラードの方を振り返る。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「行きましょう。全てに決着を着けに。」
トヴィリンは大きく頷き、先陣を切って門をくぐった。
それに続いて、エリガラード、スドラ、リセ、森精人軍、岩削人軍、児鬼種軍、魔族軍が一斉に門に向かって飛び込んだ。
◇◇◇
(ミラお姉様!!)
外で戦ってるリリーからいきなり通信が入った。
「なに!?悪いけど今取り込み中なんだわ!!」
(その・・・アドニサカの首都に向かわせていた別動隊が、リセと正体不明の竜種とともに瞬間移動してきましたッッッ!!!)
・・・・・・・。
・・・・・・・。
は?
え?
おいおい。
あたし等の知らない間に、一体何があったんだよ?




