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【完結】吸血鬼の救世主に転生した陽キャ女子が異世界で無双代行する話。  作者: ハニィビィ=さくらんぼ
最終章:無双代行の結末
460/514

460―オルテストの戦い㉓・一分間の涙

ルクイヴとの勝負に決着をつけたスドラとエリガラードは、とりあえず一息ついた。


「ひとまずこれで、あとは外にいるトヴィリンかリセ、どちらかが本の新しい所有者となって私達を出すだけですね。」


「ああ。だが二人が事を把握しているかどうかまだ分からぬ。それに・・・我らがここに入る前に相対したヘルヴェのことも気がかりだ。奴は・・・本当に復活したのか?」


スドラに問われたエリガラードが神妙な顔つきで首を捻った。


その時だった。


(外の嬢ちゃん達のことならもう大丈夫だ。)


二人の脳内に、聞き覚えのある声が響く。


「ヴァリエル!!」


(この中が急に静かになったのを見れば・・・やっぱお前らならやってくれるって信じてたぜ。)


「トヴィリンとリセは無事か!?」


(あの二人も中々骨があるじゃねぇか!勝ってたぜ?ヘルヴェ・・・まぁ厳密にゃ、奴の死体を操ってたルクイヴの仲間にな。)


「外面だけで、中身はルクイヴと同じく黎明の開手(ひらきて)の者だったということか・・・。卑劣なマネをしおって。」


(だがそのおかげで、リセは冥府のお姫さんとして復活を果たしたぞ。次の戦いからは、期待以上の戦力になってくれるはずだぜ?)


「そうか。閉じ込められた他の者達は?」


(エリガラードがインクを凍らせてくれたおかげで、お前らが離れてた間に犠牲者は出てない。あとは嬢ちゃん達のどちらかが、新しい持ち主になってお前らを外に出してくれるだけだ。まっ、それは魔歴書院(ここ)に切れ目を作って教えてあげた俺の手柄だな!)


「フン!!ちゃっかりしおるわ。」


そう言いながら、スドラは横目でエリガラードの方を見た。


ずっと昔に亡くした夫の声を聞き、彼女がどんなリアクションをするか心配だったからだ。


(エリガラード。俺・・・。)


「何も言う必要はありません。あなたのことを、私の夫とは認めていませんから。」


「ッッッ!!!」


「ヴァリエルは・・・私の夫は3000年前に死にました。あなたはこの空間内で造られた、あの人の()()に過ぎません。ヴァリエルの死は、とっくの昔に受け入れました。あるのはアド・・・アクメルへの復讐心だけです。未練がましい女とは思わないで下さい。」


あくまで記録に過ぎないとはいえ、ヴァリエルに冷徹に言い放つエリガラードに、スドラは心を痛める。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


(お前・・・やっぱ俺が惚れただけの女だけはあるわ♪)


「え・・・?」


(感情があるとはいえ、()()()()()()になびかれると、ちょっと凹むな・・・。❝あっ、声や姿が一緒だったら誰でもいいのか。❞ってな。でも違った。お前はいつまで経っても、夫一途な最っ高の女房のままだったよ!!エリー。)


「あっ・・・あな・・・。」


エリガラードが何か言いかけた瞬間、全ての階層が猛スピードで上昇し始めた。


(おっ!新しい持ち主が決まったみたいだな?あと一分もすれば、外に出られるだろうよ。)


「色々と・・・助けてくれてありがとうございました。」


(なぁ~に気にすんな!!じゃあな!愛してるぜエリー♡もっとも、偽物の俺が言えたセリフじゃないけどよ!)


あっけらかんとしたその言葉を最後に、ヴァリエルの声は聞こえなくなった。


「スドラ。」


「何だ?」


「外に出るまでの間・・・後ろを向いていてはくれませんか?」


「良かろう。」


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「ふぇ・・・ぐすっ・・・ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・。」


まるで小さな幼子、しかし聞かれまいと懸命に押し殺したむせび泣きを、スドラは背中越しに聞いた。


地上に帰還するまでの一分間・・・。


その一分間で、エリガラードは今まで溜め込んでいた感情を、蛇口をゆっくりひねるかのように吐き出した。


旧き友人に気をかけ、スドラがそれを目にすることは、決してなかった。

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