427―界竜王復活・破壊と創造
両目と額の単眼で鋭い睨みをきかすスドラ。
それに思わず、テト・カドルは猫の如くしゃがみ、顔を地面に擦りつけた。
「よろしい。」
地を鳴らしながら、スドラはエリガラード達に近づき、身長を彼らに合わせる。
「ソル・ヴェナ・・・。やはり・・・あなた・・・。」
「己が何者かようやく思い出した。おかげで頭の中が晴天の如く澄んでいる。」
「ソル・ヴェナ、様・・・?」
「トヴィリン。気を揉ましてしまいすまなんだ。我はこの通り無事だ。もう何も恐れることはない。」
豪胆さが失せ、威厳が増したソル・ヴェナの語り口調に、トヴィリンはポカンとした。
「唖然とするのも無理もない。姿形や声音が違うのだからな。もう我はお前の知る銀武竜ソル・ヴェナではない。だが魂は同じ。だからあまり気にするな。」
トヴィリンの気持ちを落ち着かせると、スドラは平伏するテト・カドルの許へ向かった。
「テト・カドル。」
「ヒッ・・・!?」
テト・カドルの名を呼ぶスドラからは、威厳こそ残ってはいたものの、先程までの慈愛は一切失せていた。
「よくも我の友を殺そうとしたな。」
「もっ、申し訳ございませ・・・ッッッ!!!」
頭を垂れるテト・カドルを踏みつけにするスドラ。
人と同じサイズだが、力は桁外れで、踏みつけたテト・カドルの頭が地面にめり込んだ。
「ガッ・・・!!ガァァ・・・!!!」
「我が宿敵にして友、ヴァリエルが立てた掟に背いた貴様に死を与えてやりたいところだが、選択の余地を与える。今ここで、我らの軍門に下るというのなら、全て不問にしよう。どうだ?聞き入れるか?」
沈黙するテト・カドル。
しかし突然、スドラを振りほどき、翼を広げ飛んだ。
「ほう?死を選ぶか?」
「ここで貴様らを足止めできぬと知れたらどの道アクメルに殺されるッッッ!!!貴様はかつて、森精人の救世主に殺された身!!ならば、同等の力を持つ者に与するのが道理だろうがッッッ!!!」
「どこまでも愚かな・・・。我に勝てると本気で思っておるのか?この・・・❝界竜王・スドラ❞に!!」
「お前達ッッッ!!!やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
テト・カドルの命令に従った派生種たちが、スドラに一斉に襲い掛かる。
「有象無象に物を言わせるなど・・・笑止!」
「いけないッッッ!!!」
エリガラードが最大レベルの結界を張った瞬間、スドラは全身から衝撃波を放った。
それを浴びた派生種たちは、瞬く間に息絶えた。
「1万年の間に勘が冴えたようだな?エリガラード。」
「前もって言ってくれないと困りますね。スドラ。」
「生意気になりおって。あの時のあどけない生娘はどこへやら・・・。」
一瞬で配下を殺したスドラに、テト・カドルは愕然とした。
「さて・・・。かつての記憶と力を取り戻したが、やはりまだ思うように動かん。よって罰を与えるついでに、肩慣らしに付き合ってもらうぞ。臆病な雄鶏よ。」
テト・カドルと同じサイズまで大きくなったスドラが、翼を広げ襲い掛かった。
反撃しようと自慢のかぎ爪で立てるテト・カドルだったが、呆気なく腕を吹き飛ばされ、鮮血が噴き出す。
「地級第一位・溶滅の尖槍!!」
地面から伸びるマグマの槍。
それはスドラの身体を貫けず、小枝みたいに折れてしまった。
「なっ・・・!?」
「無駄だ。」
スドラがテト・カドルの頭に一発お見舞いすると、剛速球でテト・カドルは地面に落下した。
「あ゛・・・!!あ゛あ゛・・・。」
全身がバキバキに折れたテト・カドルに、スドラがゆっくり近づく。
「弱すぎて児戯にもならん。ヴァリエルはもっと楽しませてくれたぞ?」
「くっ、来るなッッッ!!!」
全回復で治癒したテト・カドルが熱線を吐くが、スドラはそれを、片手で受け止めた。
「止めろ。既に貴様の運命は決した。潔く死を受け入れよ。」
「そっ、そんなことできるかッッッ!!!俺は絶対生きる!!どんな手を使ってでもなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
テト・カドルの魔力が爆発的に上昇する。
先程ソル・ヴェナを吹き飛ばした、噴焔の劫爆をもう一度放つつもりだ。
「竜種の掟に則り、命惜しさに魂を下賤な人間に売った貴様を断罪する。炎冠竜テト・カドル!!」
スドラの胸の甲殻がパカッと開き、周囲の空気を取り込む。
❝界竜王・スドラ❞の能力は、宇宙の始まりとなった元素、即ち水素エネルギーを操るもの。
最も特徴的な武器は、胸部から体内に取り込んだ水素エネルギーの、口腔からの放出。
これが❝大地を一瞬で変える吐息❞の正体。
その一撃は、まさに・・・破壊と創造の権化。
「死ね!!」
「いっ、イヤだッッッ!!!俺はまっ・・・」
テト・カドルは骨すら残らず蒸発し、フラトームの地の天井はぶち抜かれ、噴煙の雲が薄れ、晴天が露わになる。
「やはりヴァリエル相手でないとつまらん。寂しいものだ・・・。」
刹那的な表情を浮かべるスドラに、彼の仲間達は得も言われぬ顔をするしかなかった。




