426―決着、かくて掟と王は流転する。
それから1週間後、ついにヴァリエルとスドラは決着の日を迎えた。
これまでの戦いとは比べ物にならぬほどの竜種と森精人が集結した。
「どうやら俺達は・・・やっぱり馬が合うらしい。同じことを考えていたか。」
「ここまでくると・・・もはや笑けてくるわ。」
どういうことだ?
「エリガラード、頼む。」
なっ、なんだ!?
ヴァリエルとスドラの周囲に、巨大な吹雪の渦が・・・!!!
「スドラ様ッッッ!!!これは森精人の罠でございます!!直ちに脱出を・・・!!」
「ヴァリエル!!エリガラード!!どういうつもりだ!?我らを締め出すなど・・・!!」
「おっと。双方その渦に手を入れない方がいいぜ。あっという間にカチコチになるからな。」
「「ッッッ!!!」」
入ろうとした竜種と森精人が、慌てて距離を取る。
「恐れ入った。この間お前と夜を過ごした娘にこれほどの力があろうとは。ん?その髪・・・。」
雪の結界を維持するエリガラードの髪がプラチナブロンドに変わっておる・・・!?
そうか!!
これが・・・!!!
「どうやら一時的だが俺と同じになったようでね。婚約したのがきっかけかな?」
「そうか。貴様ら夫婦の誓いを・・・。ならば夫として見せ場を作らなければな。そうだろう?」
「ああ。嫁を前にカッコ悪い姿は見せられねぇ。」
そう言うとヴァリエルは結界の外の森精人軍の方を向いた。
「今から俺とスドラで一対一の勝負をする。そして宣言する。俺はここで・・・スドラを殺して、この戦争を終わらせる。」
「なっ、何だと!?ふざけるなッッッ!!!耳長虫風情がッッッ!!!」
当然竜種達から激しい野次が飛ぶ。
「黙れッッッ!!!」
それをスドラは一吠えの下黙らせた。
「貴様らは関係ない。これは我と、ヴァリエルの問題だ。口出しは決して許さぬ。そして、万が一我が討たれた場合の復讐もだ。我の死を以って、森精人どもをこの世界の住人と認めよ。それが出来ぬとあれば、我は貴様らを皆殺しにする。良いな!?」
「俺からも。竜種達の隷属とかは止めろよ?その約束ができないんだったら、俺はスドラと結託して、お前達を殺す。」
圧倒的強者の凄みを前に、両種族は首を縦に振るしかなかった。
「結構。では精々見届けよ。」
「この不毛な戦争の終わりを、な?」
両者、神妙な面立ちで向かい合う。
「で、どうする?いつもみたいに、戯れるか?」
「いや。こういうのはビシッと決めたいから、お互いのとっておきでケリを着けようじゃないか?」
「フッ・・・。それもそうだな。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
スドラの胸が青く光り、全身が熱を帯びる。
まさかコイツ・・・己が命を放つつもりか!?!?
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「天級第一位・友よ安らかに眠れ。」
命を糧とした力の波動をヴァリエルは物ともせず、スドラの胸に『トン。』っと軽く触れた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「嘘つきめ。❝とっておきを放て。❞と言うたであろうが。」
「俺にはとっておきが沢山あるんだ。迷った結果これにしただけだよ。」
「フン!たわけが。」
身体が灰のように崩れてゆく。
だが痛みはない。
あるのは草原で横になった時に感じる、強烈な安堵と眠気・・・。
「痛いか?」
「いや。全くだ。むしろ眠い。最期までふざけた技を・・・。」
ヴァリエルと同じ大きさになって、スドラは奴の横につく。
「呆気ない結末だな。」
「そんなものさ。因縁なんて。」
最期まで宿敵ではなく、友として語る2人の男に、我は身がつまされる思いになる。
胸が、張り裂けそうだ・・・。
そして何故だ?
頭から、何かがせり上がってくるような、この感覚・・・。
「❝命を賭した戦いであるのは勝利か死のみ。❞・・・。我が考えた掟であるが、改めると、あまりいいものではないな。」
「何でだよ?」
「分かり合えた敵と今生の別れなど・・・。酷ではないか。」
「そう、だな・・・。だったらよ、これからのために、俺が一工夫付け加えるよ。」
「何だ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「❝命賭けの戦いで救われたらそいつのために尽くせ。❞これなら恩返しになるし、長い付き合いになってもっと仲良くなれる。どうよ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「悪くない。」
ヴァリエルのニカっとした笑みが、スドラが生涯で見た最後の光景になった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
我が何故、竜種の掟にこだわるのか?
我が何故、天涯孤独の身で生まれたのか、今はっきりとした。
我は、スドラの・・・生まれ変わりなのだ。
あの時塵となったスドラの身体が、無精卵に宿ったことで誕生したのが、この我・・・ソル・ヴェナなのだ。
これは記憶。
スドラと、ヴァリエルの・・・。
ッッッ!!!
何だ!?
また場面が変わって・・・。
あっ、あれはテト・カドル!!!
まだ生きておったのか!?
エリガラード達を追い詰めておる!!
我は・・・我の身体は・・・!?
辺りを見渡すと、心臓とあばらのみになった我の肉片が転がっていた。
なっ・・・!!!
やはり我は、死んだのか!?
あの者らを残して・・・。
クソッッッ!!!
何とかならんのか!?
彼らを、守らなくては・・・!!
我はまだ、死ぬワケにはいかんのだッッッ!!!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
いや、どうすればいいか分かっておるではないか?
あんな傷、大したものではない。
何故なら我はスドラ。
竜種の・・・王なのだから。
◇◇◇
「ソル・ヴェナは死んだ。次は貴様らだ。」
「そんな・・・ヤダ・・・。」
目の前の現実に、トヴィリンはカタカタと震える。
「クックックッ・・・。恐怖に歪む人間の顔は実に愉快!!さてどう炙ってやろ・・・ッッッ!!!」
只ならぬ気配を感じ、テト・カドルは後ろを向く。
見るとなんと、死んだと思っていたソル・ヴェナの肉片が、信じられない速さで再生していた。
しかもそれは、テト・カドルの倍はあるかと思うくらいの巨躯までに大きくなっていく。
そして、顕現したのは・・・。
「そんな・・・馬鹿な・・・!!!あなっ、あなた様は・・・!!!」
50mほどはある身体、2対の翼と腕、青黒い鱗とズラリと並ぶ背びれ、額に大きな眼、王冠の如き角を持った、二足歩行の竜・・・。
それは紛れもなく、竜種の王。
❝界竜王・スドラ❞その者だった。
「一度だけ言う。ひれ伏せ。」




