424―来訪、そして羞恥を見る。
それからというもの、ヴァリエルとスドラは戦場で幾回の対峙をした。
スドラ率いる竜種が森精人を押すと、どこからともなくヴァリエルが現れ、両者の一騎打ちが始まる。
初めの内はヴァリエルはスドラを打倒せんと容赦が無く、スドラも宿敵たるヴァリエルの存在を疎ましく思っていた。
しかし、幾度の戦いを経て、両者との間に奇妙な関係が生まれた。
「此度は頭を抉りおったか!!やりおるが惜しい!!」
「そっちは俺の防御魔能を貫通したな!?ついヒヤッとしちまったぜ!」
殺し合いをしておるのに、2人は技のぶつけ合いを楽しんでいた。
互いに本気を出せる好敵手と見込んでおるのだろう。
ヴァリエルとスドラはいつの間にか、切れようにも切れぬ、腐れ縁というもので結ばれていた。
傍から見ると良からぬが、なんだか微笑ましく思ってしまった・・・。
そして両者が邂逅を果たして1000年の月日が経過し、森精人側が優勢になり、小さな村落まで作るに至った。
「スドラ様!!これでは奴等がのさばることを許すばかりでございます!!何としても手を打たねば・・・!!」
「然れども、あの森精人の導き手は、王自らが挑んでも敵わぬ難敵!!我ら如きに何ができようか!?」
ねぐらで竜種は、激しい議論を繰り広げていた。
「静まれッッッ!!!」
スドラが一喝すると、同族達は黙り、ねぐらに静寂が訪れる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「我が奴の許へ出向こう。すでに当たりはつけておる。」
ッッッ!!!
どういう腹づもりだスドラ!?
まさか・・・奴の寝首をかこうというのか!?!?
危険だと止める配下の制止を無視し、スドラはヴァリエルがいるであろう森精人軍の拠点へ飛んだ。
山の麓の森に、数多くのテントが設営されている中で、離れて一つだけ立派なものがある。
あれが奴の寝床か?
人間大の姿のスドラが、気配を消し、そのテントの近くへと降り立つ。
夏の森の夜、虫の鳴き音だけが響く中、スドラは灯りがついているテントの中を覗き見た。
「ん゛っ・・・!!あ゛あ゛っ・・・!!」
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!ん゛ん゛っ・・・!!」
何ということだ・・・。
ヴァリエルの奴、森精人の娘とまぐわっておるではないか・・・。
影が映らぬようなのか、灯りは薄めにされていたが、それがベッドで交わりに興ずる男女の熱気をより際立たせる。
というより何故スドラはそれを食い入るように見ておるのだ!?
こういうことは、興味本位で見るものではないとミラも言っておった!!
ああっ・・・止めろッッッ!!!
そんな・・・。
激、しく・・・!!
「ッッッ!!!誰!?」
スドラに気付いたらしく、森精人の娘が魔能で灯りを大きくした。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
エリガラードだった・・・。
多少のあどけなさがあるが、間違いなく彼女だ・・・。
既知の者だったとは・・・。
まぁ、将来は夫婦になる2人だ。
有り得なくもない、か・・・。
「スドラッッッ!!!何故ここに・・・!?」
若きエリガラードは、血相を変えて剣に手を伸ばした。
それをヴァリエルが止める。
「どうやら殺り合いに来たってワケじゃなさそうだ。そのつもりなら、とっくに皆殺しにされてる。」
「でっ、でも・・・!!」
「ここは俺に任せて、お前は帰ってて。ああそれと、このことは他言無用で頼んだよ?」
「わっ、分かったわ・・・。」
ヴァリエルの言うことを聞くと、エリガラードは服をささっと着てテントを出て行った。
あっ、貴様!!
今一瞥しおったな!?
くぅぅ・・・。
覗いていたのは我ではないのに、『悪いことをした。』と思ってしまうのは何故・・・?
「随分と盛んだったな?」
「お前も趣味が悪いねぇ~。覗きなんてさ。」
「場が悪かったのだ。それで、あの娘は?」
「よく一緒に戦ってたんだが、ついこの間告白されてしまってよ。実は俺も好きだったから、そのまま・・・ってワケ。」
「大戦の只中だというのに色恋とは。相変わらずふざけた奴よ。」
「どの時代でも恋愛は自由だろ?で、何の用だよ?初めてお前から殺気が感じられないんだが?」
「何てことはない。お前と話がしたくてな。」
「ふぅん・・・。まぁいいや。上がれよ。せっかくだから酒でも飲もうぜ?なんせこんなに気持ちいい夜なんだからよ!」




