422―蹂躙、しかして救世主現る。
我がスドラであることと、今目の前に広がるこの惨状・・・。
ここは・・・太古に起きたとされる竜種と森精人の大戦の只中だというのか!?
かつてこの世界は、我々竜種の手中だった。
そこへ森精人と司魔人という、滅びた別の世界からの来訪者が現れ、奴等を異端だと見なし、排斥・・・この場合は駆逐と言うべきか。
それに動き出した竜種と、それに抗う森精人達により、戦が巻き起こった。
❝始まりの戦い❞。
知られた名は・・・❝竜精大戦❞。
そして竜種を率いていたのは、全ての竜の王・・・。
❝界王竜・スドラ❞。
ということは、これはかの竜の記憶か?
何故我は、そのような物を見ている?
当惑する我の背後から、我・・・いや、スドラの命を受けた同族達が、我先にと森精人軍に襲い掛かった。
地を割り、稲妻を降らし、炎を巻き起こし、竜種は森精人を蹂躙し尽くした。
それはさながら、巨躯を持つ獣が、地を這う小虫を蹴散らす様に似ていた。
「此度の戦いも、竜種の勝ちのようですな!!」
「そうだな。いずれ奴等を最後の一匹まで殺し尽くす日も近いやもしれんなぁ?」
心苦しさとは裏腹に、口から笑みが零れる感触が確かにする。
叶うならば、今すぐ奴等にこの虐殺を止めさせたい。
しかし、これはあくまで記憶。
即ち遠い過去に起きたこと。
今の我には、どうすることもできぬ。
ただ事の顛末を、見送るしかない・・・。
クソッッッ!!!
このような惨憺たる光景を見せたりして、一体何が望みだ!?!?
「ッッッ!!!スドラ様!!あれは・・・!!」
傍らで控える配下の者が、突如として慌てたのでスドラは視線を下にやった。
見ると先程まで優勢だった竜種達が、悉く斃されている。
奴等の相手をしているのは・・・たった一人の、森精人だった。
弧を描きながら空を駆け、己よりも遥かな巨体を持ち、無慈悲たる竜を屠るその姿には、そこはかとない美を感じた。
あの森精人・・・まさか・・・!?
「これは面白い。」
「スドラ様?」
「耳長虫にあれほどまでの力を持つ者がいたとは・・・。どれ。我が直接出向いてやろう。」
「スドラ様ッッッ!!!」
配下に全く耳を傾けず、スドラは地上へと降り立っていった。
さすがは他の同族を上回るほどの、山のような身体だ。
地上に降りただけで地響きがする。
「初陣で敵の総大将と出くわすとはね。運がいいのか悪いのか・・・。」
「これが今日初めて戦場に出向いた者の芸当か?洒落も大概にした方が身のためだぞ?」
「生憎、俺は洒落が苦手でね。笑えない冗談を言っては親をよく怒らせたよ。」
飄々と自嘲するこの男に、我は好感を持てた。
それはスドラも一緒だったか・・・いやまさかな。
「不本意だが、興味がそそられる奴だ。虫の名など気にしたことはないが特別だ。貴様の名だけ知っておいてやる。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「俺はヴァリエル。覚えていてくれると嬉しいね。竜の王様?」
真ん中で束ねたプラチナブロンドの長髪を風になびかせ、若き森精人の男は名乗った。




