42―謎多き最強
救血の乙女・ミラが誇る近衛兵集団、『奉救遊撃隊』。
そのメンバー全員が、ミラのところに集まった。
だけど異世界からミラの身体に転生したあたしにとっては全くの初対面。
だからここは、残りの2人にちょっとでも好印象を持ってもらえるようにしなくっちゃ!
「あうう〜・・・。」
ローランドさんにグルグル回されて、目の前がまだ若干ぐわんぐわんする中で、あたしは地面に着いた尻を上げて立ち上がった。
「よっ、よく集まってくれましたね。えっ〜と、アウレルさん!」
「“さん”付けなど不要でございます。以前と同じく呼び捨てで構わないのですよ。」
「そっ、そんなワケにはいかないですって!記憶がないだけとはいえ、初めて会う人にはやはり礼儀正しくしないと!」
「作用でございますか?分かりました。ミラ様が望むのであれば、そうして頂いても結構です。」
なんとか分かってもらったみたい・・・。
にしても、アウレルさんってカッコいいよなぁ〜。
なんだかハリウッドスターみたい!
あの人と若干似てるんだよなぁ〜。
えっ〜と何だったけ、オーランドなんちゃらって人。
その人に似てて超絶イケメンさんなんだよなぁ〜!!
ヤバっ、なんかドキドキしてきた・・・♡
「ん?如何なさいましたか?」
「えっ!?いや、これ言うと失礼かもしれないんですけどぉ・・・。」
「どうぞ遠慮なくお申し付けください。」
「その・・・。アウレルさんってカッコイイなぁって・・・。」
「ぼっ、僕・・・!!あっ、いや、私がですか・・・?」
「アウレルは森精人と見紛うほどに顔立ちが整っておるからな。にしても、ミラ様からそのように言って頂けるなんて、羨ましいのぉ。」
「わっ、私なんて、ミラ様の美貌に比べたら、まだ・・・。」
止めてッッッ!!!
あたしの言ったコトでその非の打ち所がない完ペキなイケメン顔をはにかませないで!!
見てるだけで心臓バクハツしちゃいそうだから・・・♡♡♡
「・・・・・・・。」
「どうしたのですかリリーナ?そのような怖い顔をして・・・。」
「あ?いっや別にぃ〜。ただ生まれて初めてアウレルをブッ殺したくなってるだけだから・・・。」
「“だけ”で済まされる話じゃないでしょ。絶対にしてはいけませんよ。」
リリーがおっかない顔でめちゃくちゃヤバいことを言った気がしたので、あたしは急いでローランドさんに視線を変えた。
「ろっ、ローランドさんも来てくれてありがとうね。あと、記憶が失くなっちゃって、ホント、ごめんなさい・・・。」
「そのような憂いの御言葉など、どうか仰せにならないで下さい!我輩は、ただ貴方様のお隣で再び戦場を駆けることのみが至上の喜びと感じますゆえ。」
ローランドさんも、さっきはいきなし抱きつかれてブン回されたけど、こう話してみたらキリッとしたカンジがして好きだなぁ。
「ところで、ミラ様。」
「ん?」
「そのお隣の者はどちらでしょうか?」
「あっ、この子はグレースちゃん。あたしの親友!」
「親友、ですとな?」
あたしから紹介され、グレースちゃんは立ち上がってビシッ!!真っ直ぐになってまるで微動だにしなかった。
「ろっ、ローランド様!!アウレル様!!お初にお目にかかります!!ただ今ご紹介に預かりましたグレースですッッッ!!!吸血鬼の英雄たる皆様とは遠く及びませんが、親友として、ミラ様のことを最後までお側でお守りいたしますので、どうかよろしくお願いいたしますッッッ!!!」
「・・・・・・・。」
なっ、なんかマズかったかなぁ・・・?
リリーほどではないけど、乙女の永友って呼ばれる彼らにとっては、やっぱグレースちゃんって嫉妬の的になっちゃうんじゃ・・・。
「くっ、くく・・・。あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
へっ?
どうしたんだろ、ローランドさん・・・?
「これはこれは頼もしい娘っ子ではないか!!其方の決意、しかと心得たぞ!」
「ローランド、様・・・。」
「僕達に何かあったら、ミラ様のことを頼んだよ。グレース。」
「アウレル様・・・。承知いたしました!!精一杯、頑張りますッッッ!!!」
良かった・・・。
グレースちゃん、みんなに受け入れられたみたいだね。
だけど・・・。
リリーがさっきから怖いような、悲しいような顔してこっち見てんのがめっちゃ気になる・・・。
「ちょっ、ちょっとぉ。リリーどったの?あたしなんかしちゃった?」
「いえ、別に。“長い生の中で、戦う前に勝てない存在というのは見つかるのだなぁ。”としみじみ思ってるだけですから。」
「なっ、何の話?」
「お気になさらないで下さい。私の戯言なんて。」
はぁ・・・。
ぎゅっ。
「ふぇッッッ!!?」
「そうどんよりしたカオしないでよ。あたしは笑ってるリリーが好きなんだからさっ。」
「みっ、ミラ、お姉様・・・!!」
「ほら、みんなのトコ行こ?あたしもっと、リリー達がお話ししてるの見たいから。」
あたしは、リリーの両腕の付け根をホールドしてる自分の両腕を離そうとした。
が、リリーに左手をがっしり掴まれて、動かすことが出来なかった。
「あっ、あれ?りっ、リリー?」
「ミラお姉様ったら、ズルいなぁ。荒みかけた私のハートをいとも容易く引き寄せちゃうんですから・・・♡ニヒヒッ!!“笑った顔が好き”だなんて、やっぱりミラお姉様は私を魅力的に感じているのですねぇ♡♡♡」
あたしを離さないまま、首だけをグリンと回してニヤけるリリーに、あたしの鳥肌は総立ちになってしまった。
「ミラ様、元気付けるのは素晴らしいですが、誤解される表現はお控えになった方がよろしいかと。」
そうだねヒューゴ君・・・。
これからは、気をつけマス・・・。
「あれ?」
「どっ、どうしたの?リリー。」
「そういえば、アイツは?」
あっ、アイツ?
「ドーラか?貴様らと一緒ではなかったのか?」
「違うわよ。ヒューゴ、彼女にも召集かけたの?」
「ええ。ですが、東方での遠征に手が離せなくて駆けつけるのに二月を要すると言ってました。」
「そうなんだ〜。どうしてるか気になってたんだけど。」
「グレースちゃん、そのドーラってどんな人か知ってる?」
「いえ、私も初めて聞く名前です。」
「ミラお姉様が最近連れてきたんですよ。“新しい仲間だから。”って。」
ミラが最近連れて来た?
「どんなカンジの人なの?」
「暗〜い雰囲気であんまり喋らない性格でしたね。でもミラお姉様の言うことは全て完璧に応えてみせて、悔しいですけど私達の中で一番強かったですね。」
「そうなの!?なんかめっちゃ気になってきたな〜。」
「ミラお姉様・・・。やはり他の女に目移りを・・・。」
「だから違うって言ってんでしょッッッ!!!」
「ですよねぇ〜♡♡♡」
「そう案じなくともいずれ近い内に会えますよ。」
「ありがと、ヒューゴ君。」
気になるな〜!
“乙女の永友最強の戦士・ドーラ”。
果たしてどんだけ強いんだろう・・・!?
◇◇◇
「こちらの敵は全て掃討されたようです!!ドーラ様!!」
自分達を取り囲んでいた敵の屍が転がる地面に、吸血鬼の少女は握る剣の切先をカランと落とした。
「みんな、無事?」
「負傷兵は出ていますが、死者は確認されません!」
「ケガ人、手当て、急いで。ドーラ、周囲、見てる。」
「りょ、了解しました!!ドーラ様がお付きになって下さって、本当に助かりましたッッッ!!!」
ドーラは兵士にペコっと軽く会釈すると、見渡しの良い上方に突き出た岩の上に上った。
「・・・・・・・。」
岩の上に上がったドーラは、一面焼け野原になった戦場の、北の彼方を見据えた。
「・・・・・・・。すぐ、行きます。お待ちを。マスター。」
この地の遥か先にいる、死より甦った主人に想いを馳せるドーラであったが、その表情は目深に被ったフードと、顔の下半分を覆う鉄の黒いマスクのせいで伺い知ることはできなかった。




