416―炎冠竜討伐戦①
ソル・ヴェナの鱗によって付けられた頬の傷から出た血を、テト・カドルは舌でベロりと舐めとる。
そして・・・。
「くっ・・・!!ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
天を仰いで大笑いするテト・カドルを前に、エリガラードとソル・ヴェナ以外は金縛りにあったかのように動くことができない。
それほどに、かの竜が放つ威厳は凄まじかった。
「貴様のような魔能も使えぬ四足獣如きがこの俺を殺すだと!?己を随分と過信しておるようだな!!しかもそれに酔いしれていると見える・・・!これはまっこと滑稽なものだッッッ!!!」
「今の我には慢心も高揚もない!!我が魂の中にあるのは・・・怒りと憎悪。それはこの地に流れる溶岩よりも沸々と煮えたぎっておるわ。これほどの怒りを味わったのは・・・4000年振りくらいになるか?いや。そんなことはどうでもいい。貴様の血と肉・・・我が鋼銀の身の錆びにしてくれるわッッッ!!!」
怒りを露わにするソル・ヴェナに、テト・カドルは熊のような荒い息を吐いてニヤリと笑った。
「よかろう。どうしても俺と遊びたいようだな?だが・・・周りの虫共が些か邪魔だな。行き掛けの駄賃だ。どの道生かして返さぬつもりだったからな。ここで全員、死んでもらおう。」
「あなた一人で私達を相手にするつもりですか?」
「それもいいが、まとめて相手にするのは面倒だからな。俺の手下に任せるとしよう。」
テト・カドルは、息を大きく吸い込んだ。
「天級第四位・劣りし者共への命哮!!」
天高く響いたテト・カドルの咆哮が、彼の住まう地を揺れ動かした。
「いっ、今のは一体・・・ッッッ!!!」
地面が下から突き上げられるような衝撃とともに、天井や地中、マグマの川から魔獣どもが溢れ出してきた。
どれも竜種の派生種に当たる種族だった。
「テト、あなた・・・出口で待ち構える手勢をここに招き寄せましたね?」
「言っておくが、これはほんの序の口。もうじきここは俺の配下の魔獣どもが埋め尽くすだろう。」
「貴様・・・!!数で我らを押し切ろうとは・・・!!どれだけ腐れば気が済む!?」
「命がかかった勝負だ。なりふりを律儀に構う馬鹿がどこにいる?安心しろ。お前の相手は俺だけだ。」
テト・カドルの全身を覆う羽毛が、発火し始め、その身は炎に包まれた。
「さて、始めよう。愉しい遊戯を。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ソル・ヴェナは電光石火の速さで、テト・カドルとの間合いを一気に詰めた。
そしてその顔を爪で裂こうと殴りかかった。
「速い。だが読める!!」
テト・カドルは牙がズラッと並んだ顎で殴ろうとしたソル・ヴェナの腕に食らい付くと、10mもの巨躯を持つソル・ヴェナを首の力だけで投げ飛ばした。
「がはっ・・・!!」
「ほらほらどうしたぁ!?寝ている暇などないぞぉ!!」
テト・カドルはかぎ爪のついた前脚で、ソル・ヴェナの顔面を踏み潰そうとした。
その一撃を、ソル・ヴェナは右の翼で防ぎ、左の方の翼でテト・カドルの胴を貫こうとした。
「甘いわッッッ!!!」
テト・カドルが全身を激しく燃え盛らせた瞬間、なんとソル・ヴェナの剣の如き翼が溶けた。
「なっ・・・!?」
一撃を不意にされたソル・ヴェナの顔を、テト・カドルは前脚を使って殴り上げた。
地鳴りとともに、ソル・ヴェナの身体は地に伏した。
「なんだ?もう疲れたのか?もっと俺を愉しませてみせよ。」
ソル・ヴェナにアッパーを食らわした方の腕のかぎ爪を、テト・カドルは笑みを浮かべて舐め回した。
まるで、獲物を前にした猫が舌なめずりでもするかのように・・・。




