411―炎獄の入口にて
フラトーム。
岩削人語で❝炎の牢獄❞を意味するその地は、その言葉通り、一度入れば出られないとされる壮絶な場所だった。
幻想大厄災を生き残った強力な魔物達が跳梁跋扈し、更には数多くの溶岩の池が点在しており、常人であれば熱気に当てられただけでも命を落とすと噂されている。
かような地に足を踏み入れようとする者達がいた。
「着きましたね。」
エリガラードが文字通り涼しい顔をしている背後で、他の森精人や岩削人達は、額から滴る汗を拭う。
見渡す限り荒れており、しなびたように枯れている木が所々にあるのみ。
しかしこの地点で、既に30℃を超えていた。
兵士達が暑さにやられるのも無理はなかった。
目の前に広がる火山地帯を背にし、エリガラードは皆の方を向いた。
「皆様、いよいよ私達はフラトームの地へと足を踏み入れます。ですがここからは、最低でも50℃を上回る、灼熱などという言葉なんて生ぬるく思うほどの過酷な場所です。ですからあなた達に、私の加護を授けます。」
一行からざわめきが起こった。
❝世界の観察者❞の異名を持ち、最高位の森精人に座するエリガラードの加護を与えられることは名誉なことではあるが、それでいて当惑もする。
「私に意識を集中して。」
まるで一陣の吹雪のような荘厳さを感じさせるエリガラードの声に、皆ピタッと静まった。
「天級第四位・|我が友らに冬神の祝福を《ギフト・オブ・スノーゴッズ》。」
兵士達の心と身体を、得も言われぬ感覚が包み込む。
まるで、粉雪がつらつらと降る場所に立っているかのような、少し肌寒いが、どこか安心するような・・・。
「これが、エリガラード様の、力・・・。」
「私はただ、この場所でも生き残れる力を与えたに過ぎません。戦うのは、あなた達自身なのですよ?」
見惚れるトヴィリンの気持ちを見透かしたエリガラードが、彼女の元へと歩み寄る。
「です、よね・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「大丈夫。誰もいなくなったりしないわ。あなたも、私も、みんなも。」
不安がるトヴィリンの頭を、エリガラードは優しく撫でる。
まるで子どもを勇気づける母のように。
トヴィリンは俯きながらコクっと頷いた。
「子がいたのか?お前。」
トヴィリンを励ますエリガラードに、ソル・ヴェナが話しかける。
「いいえ。夫が森精人の子を元気づけるのを真似しただけです。」
「そうか。随分いい男だったのだろう・・・。」
エリガラードの事情を、ソル・ヴェナはミラから聞き及んでいいた。
同情する素振りを見せるソル・ヴェナを、エリガラードはジッと見つめる。
「何だ?何か気に障ることでも申したか?」
「いえ別に。ただ少し気になることがあって・・・。」
「何だ?」
「あなた・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「前にどこかで会ったことがありますか?」




