407―軍蟻種(ハーレンメイル)奇襲②
遠くの方でガサガサと音が聞こえて、それがどんどん近づいてくる。
まるで、この森自体がブルブル激しく痙攣しているみたいだ・・・。
「ミラ様、来ましたね・・・。」
「だね。ウリヤドさん、そっちどう?」
(配置についた・・・。いつでもいいぞ・・・。)
「了解。奥にいるみんなどう?」
「こっちも準備万端です!!ミラお姉様!!」
「取りこぼし分、逃がさない。」
「よし!!それじゃあ作戦開始!!敵の残存数とみんなの様子はこっちで常に見てるから!」
あたしの目の前には、この辺りの現在のマップとみんなの目線、そして敵の数がカウントされたモニターが宙に浮いていた。
ヒューゴ君の立てた作戦はこうだ。
まず、自然攻撃が得意な森護種達を外側に配置し、彼らの包囲網を突破した残りのアリ達を吸血鬼達で倒す・・・というものだ。
あたし達は一番奥で待機し、何かあった時の場合に備えて戦況をリアルタイムでモニタリングする。
北方の吸血鬼軍本部で、あたしが作ったシステムの改良型を使って・・・。
マップに敵を示す赤のアイコンが現れたのと同時に、森護種達の目線カメラにこげ茶色の人間サイズのアリが押し寄せてくる様子が映った。
「うひゃあ!?!?来たぁ!!!」
気持ち悪ッッッ!!!
これ全部軍蟻種!?!?
「やるぞ・・・。兄弟達よ・・・。」
ウリヤドさんが、ぬぼ~っとした声で指示を出すと、森護種達は地面にそっと手を置いた。
次の瞬間、地面から所狭しと木の根っこが生えて、軍蟻種の軍団を絞め上げながら地土の中に引きずり込んだ。
「すごっ!!何アレ!?全員無詠唱でやったよ!?」
「❝原在異能❞だ。」
「イスラルフさん、何ですかそれ?」
「我々が伝えた魔能と異なり、この世界に始めから存在していた超常的な力だ。かつての種族達はそれを息を吸うかの如く普遍に扱ってきた。魔能の台頭で今となってはすっかり廃れてしまったがな。」
自由自在にあんなことができるなんて・・・。
さすがは森護種・・・。
この世界が誕生してから生き残っていた太古の種族だけのことはある・・・。
「お前と親しい者の中にそれに精通したのがいたはずだが?」
「え?それって一体・・・。」
「それについては後だ。見ろ。新手が来たぞ。」
モニターを見ると、森護種達の包囲網を上空から切り抜けて、羽が生えて腹がでっぷり膨れたアリが内側の吸血鬼軍達に迫ってきた。
「アレってもしかして・・・!!!リリー!!内側に大規模防壁展開!!急いでッッッ!!!」
(わっ、分かりましたッッッ!!!)
リリーが急いで巨大な球形防壁を展開すると、羽アリ達は急下降して防壁に突っ込んで爆ぜた。
羽アリが爆発した箇所に、ドロドロに溶けたような穴ができた。
「やっぱり・・・!!ありゃ特攻要員だッッッ!!!」
聞いたことがある。
アリにはギ酸っていう、ハチの時に持ってた毒が変化した液体をお尻から出して、それはすごく強い酸性だって。
あの羽アリの腹部が黄金色に膨らんでたからイヤな予感がしてたけど案の定だったか・・・!!
「急いで防壁魔能を張り直して!!念のため二重三重に・・・」
「ミラ、地上でも動きがあったぞ。」
「え!?」
見ると、森護種達の目線カメラに、普通のアリより5倍はデカいと思うくらいのサイズで、巨大なアゴを持った大きなアリが出現した。
大半が根っこに捕まったが、何匹かは大アゴで強引に引き千切って、森護種達に迫ってきた。
「あれは、兵隊アリか・・・!!!」
バラエティーに富んだタイプによる多方面な狩りの仕方・・・。
❝軍蟻種❞。
名前の通りグンタイアリそのものだな!!
あたしはふと、モニター内の敵の数に目をやった。
現在の敵の残存数:8,239
まだ5分の1も削れてないのかよ・・・。
こりゃあ・・・かなりハードな予行練習になりそうだなッッッ!!!




