404―優しさという毒
「はぁ~!!疲れたぁ・・・。」
かれこれ一ヵ月近く経つけど、船旅は慣れない。
お尻辺りの筋肉痛が半端ない・・・。
このまま行ったらエコノミー症候群になるんじゃないか?
「ん~!!あっ、やべっ!」
腰に手を置いて反り返ると、みんなに食事を出すのをハッと思い出した。
「みんな~!!ご飯出すからこっち集まって~!!」
砂利の上に大きな風呂敷を敷いて、あたしは指を鳴らしてみんなの分のご飯を出した。
元いた世界でコンビニで売ってたスープご飯系のインスタントを、そのまま木のお椀に移し替えただけなんだけど・・・。
それでもみんな、喜んで頂いてくれたけど・・・。
「救血の乙女様!これ絶品です!!一体どこでお見知りに?」
「え!?えっ~とねぇ・・・ず~っと東の国の食に書かれた本・・・かな?」
「なるほど~!!世界にはまだ、我々が知らない食文化で溢れておられるのですね~。」
ほっ・・・。
何とか誤魔化せた。
「それじゃああたしも・・・ん?」
あたしの分のお盆を取ろうとした時、岸辺に突き出た岩に誰かが座っているのが見えた。
「イスラルフさん。」
あたしはもう一個のお椀を持って、岩の上であぐらをかいているイスラルフさんに持っていってあげた。
「ミラ・・・。」
「食べないのですか?」
「私は見張りがあるからな。」
「でも少しはお腹に貯めておかないと。」
「前にも行っただろう。私は食事を必要としない。」
「あっ・・・。」
イスラルフさん達の種族、❝司魔人❞は体内で魔力を生成して、それを栄養に変換してるから飲み食いや睡眠の必要がないって、前に言われた。
若くてイケメンなのに、名前の通りマジで仙人みたいな力持ってんな・・・。
「そう、でしたね・・・。じゃあ、失礼しま~す・・・。」
両手にご飯を持って静かに退散しようとしたら、イスラルフさんに背を向けたあたしの足が止まった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ、あの・・・!!」
「何だ?」
「祖王会議の時は、ありがとうございました!!イスラルフさんがいなかったら、あそこの混乱を鎮めることはできませんでした!」
「大したことはない。会議に列する者として当然のことをしたまでだ。むしろ私は、お前に迷惑がられると思っておったぞ?」
「え?何でですか?」
「私は他の祖王を差し置いてミラ、お前に全ての決定権を押し付けた。さぞ混乱したであろう?」
「確かに最初は、頭がいっぱいになるくらい緊張しました・・・。ですけどそのおかげで、こうしてみんな一緒に戦うって話になったんですから・・・まぁ!結果オーライですよ!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「お前は優しく、純朴な奴だな。吸血鬼の救世主・ミラ。」
「そっ、そんな大したことは~・・・!!」
「お前くらいに前向きであれば、奴も救われたのかもしれんな・・・。」
「え・・・?」
ボソッと言ったことが聞こえて焦ったのか、イスラルフさんは咄嗟にそっぽを向いた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あの・・・良かったら教えてくれませんか?なんであたしに全部託したんですか?」
「何だ?やはり根に持っておったのか?」
「いえいえそんなことは!!ただ純粋になんでかなって・・・。」
「そうだな・・・。弟に似ていた。とでも言うか・・・。」
「おっ、弟さんがいらっしゃるんですね・・・。」
「ああ。お前と似て、純朴でいい奴だった。」
だったってことは、その人はもう・・・。
「ごめんなさい。立ち入ったことを聞いちゃって・・・。」
「別に構わん。優しくあったが、それでいて愚かな奴だったからな。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「何があったんです?」
神妙な顔で聞くと、イスラルフさんは「ふぅ・・・。」とため息を吐いて遠くを見つめた。
「ミラ、お前は司魔人についてどれくらい知っておる。」
「すみません。皆目・・・。」
「私達司魔人はな、森精人と同じ世界から、こちらに移り住んできた余所者でな。私を含め全部で7人いた。私達は血縁者で一種族・・・。つまり皆兄弟なのだ。」
「そうなんですね・・・。」
だから森精人の事実上トップのエリガラードにも、強気な態度で出れたんだ。
二人は昔からの腐れ縁ってワケね。
「最初の調定者・・・つまりエリガラードの夫が竜の王を打倒し、私達はこの世界で平穏に過ごすことにした。件の弟は、我らの末子だった。奴はこの世界において、全民平等・・・要するに生きとし生ける者は全て平等に世界の恩恵を享受する権利があると主張した。それは地を這う魔物も同様に。だが奴の主張は認められず、それに失望した奴は愚かな選択を取ってしまった。」
「どんな・・・?」
「この世界の支配よ。そして奴は、大戦を起こした。」
「ッッッ!!!まっ、まさか・・・!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「3000年前の大戦を引き起こした❝冥王・ヘルヴェ❞。奴は・・・私の弟だった。私は思い知らされた。優しさはというのは、この世で最も人を蝕む毒だとな。」




