4―魔能と脱出
あたしは今、檻の中に閉じ込められた沢山の吸血鬼から、平服して拝まれている。
え、何?
『救世主』?
『救血の乙女』?
あたしをこの世界に寄越したミラ、いや、ミラってそんな凄いのだったの?
これじゃまるで、某ロボット映画に出てくる将来人類救うせいでムッキムキの殺人マシンに命狙われる男の子みたいじゃんか。
かもしくは、仮想世界で戦うグラサンかけたアレか・・・
確かあの映画の主人公も『救世主』って呼ばれてたっけ・・・
って、何の話してんのあたし!?
今しなきゃなのは、この人達をここから逃がすことでしょ!!
でもこんなんなっちゃ動かないだろうなぁ。
まずはあたしに注目させないと。
でもなんて声かけるぅ?
こういう時、世間一般的な救世主様だったら、なんて言って意識向けさせるよ?
ん~~~
参った・・・
・・・・・・・。
取り敢えず、ありきたりなセリフで試してみるか。
なんかちょっと、恥ずいな・・・
おっ、おほん・・・
・・・・・・・。
「みんな、わっ、ワタクシが来るまでよく頑張りましたね。さぁ、力を合わせて、こっ、この難局を乗り越え、ましょう・・・」
ヒャ~~~!!
何これぇ~!?
何、ワタクシ!?
そんないかにもお姫様みたいな口調する救世主がいるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
めっちゃサブい~!
顔面バーナーであぶられたみたいに熱いよぉ~!!
「お、おお・・・!!」
へ?
「ミラ様にそう言って頂けるなんて夢にも思いませんでした!!」
わ?
「ミラ様がついて下さるとなると、もう私達に恐れるものはございません!!」
ん、んん・・・
「みんな!俺達で力を合わせてミラ様とともに、ここから絶対脱出するぞぉ!!」
な、なんかさっきのセリフで一気に一致団結モードに入ったみたいで良かったぁ!
救世主の言葉って、やっぱ重みが違うのかも・・・
じゃ、じゃあ、そうと決まれば早くこの檻から出してあげないと!
「い、今から檻を開けるから待っててね!」
フン!!
ふぬぬ・・・
う~~~!!
くはぁ!!
何この錠前!?
引っ張っても全然ビクともしないんだけど!!
確か吸血鬼って、人間より遥かに腕力が強いんじゃなかったんだっけ!?
それなのに、何で、こんな、かったいワケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?
「み、ミラ様・・・」
「待ってて・・・あとちょっとで、バキっていくと、思うから・・・!!」
「その錠前を壊すことは、残念ながら、できないかと・・・」
「え、何で?」
「この檻の金属は竜種の化鉄から作られていますので、吸血鬼の身体能力が阻害されるのです。」
竜種?
ネーミング的に、なんかドラゴンっぽいけど。
えっ!!
この世界ドラゴンいんの!?
まぁでも、そりゃ異世界なんだから、ドラゴンがいるのはちょっと予想ついてたけどさ。
でも『化鉄』ってのが、なんか気になる。
なんていうか、こう・・・
化石、みたいな・・・
「それに・・・」
それに?
「この檻には、どうやら魔能防ぎの術も施されているみたいで、破るのは不可能です。」
『魔能』?
それっていわゆる魔法的な?
「見てて下さい。地級第四位魔能、消失!」
ブォン・・・
バリンっ!!
な、なに今の!?
この人の手から出たエネルギーの流れを、錠前が、弾いた?
「御覧の通り、自力でこの檻から出ることは不可能です。」
じゃ、じゃあどうすればいいの!?
「ですのでミラ様は救援をお呼びに行って下さい。半日ほどあれば、吸血鬼軍の拠点に辿り着けると思います。」
半日!?
そんなにかかったら、ここの吸血鬼たちの助かる可能性が一気になくなっちゃうじゃん!!
ほ、ホントに効かないの、その魔能っての?
ここの人にだったらできないけど、あたしにだったら・・・
「そっ、そんなのイヤだ!!」
「え、ミラ様?」
「そっ、外からだったら効くかもしれないでしょ!!急いでここから出ないと、ここで待ってたらみんな、どんな目に遭うか・・・」
「しっ、しかし・・・」
「でももしかしもないって!!モノは試しなんだからやってみないと!!ええっと・・・確かこうやるんだっけ?地級第四位魔能・消失!」
ブォン・・・
ビュン!!
「そっ、そんな・・・」
やっ、やった!!
檻の錠前が消えた。
見よう見まねだったけど、上手く動いてホント良か・・・
バァン!!
へ?
「こっ、これは・・・!」
「なっ、なんと!!」
ん?
ん?
え・・・
え・・・
え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?
ちょ、ちょっと何これぇ!?
あたしただ檻の鍵を消そうとしただけだよ!!
なに建物ごと消失しちゃってんのぉ!?
消し過ぎでしょ!!
やり過ぎでしょ!!
強力過ぎるでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
この建物が一階しかなかったのが良かったけどさぁ・・・
もし二階とかだったら、全員転落〇してたよ!!
「みっ、ミラ様・・・」
はっ!!
うっ、うわ~~~
みんな口開けてポカンとしてるよぁ・・・
そりゃ無理もないよ。
こんだけ盛大にやっちゃったんだから・・・
正直ドン引きしてるだろうなぁ・・・
「おっ、お見事です!!」
おっ、お見事・・・?
「檻だけでなく、敵の拠点ごと消失させるとは!ミラ様の魔能は、やはり神の領域に達するほどの強大なものだったのですね!」
「わっ、私初めてみましたっ。ミラ様の魔能の力を。まさかここまで凄まじいなんて。」
「ミラ様って、とってもカッコいいのですね!!」
なっ、なんか今のあたし、何やっても褒められる気がする・・・
「まっ、まぁね!!どうせみんなを助けるんだったらさ、敵の拠点消しちゃったほうが手っ取り早いと思ってさ!ほら、みんなここでヒドイ目してたんだろうし、そう思ったらムカついてきちゃってさちょっとギャフンと言わせようと思って・・・」
「私達のことを想って・・・やはりミラ様は慈悲深い方なのですね。」
「とっ、当然!!こんなの朝飯前のおちゃのこさいさいだって♪」
「ん?オチャノコサイサイ?」
あれ・・・?
何かあたし変な事言ったっけ?
「いや、まぁ・・・要するに何にも困らないで色々とできるってこと。」
「あっ、そうですか。いやぁ普段しない言葉遣いで、聞いたことのない言葉を口にするものなんで、つい・・・」
あっ、アブねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
緊張が解けると、すぐ素が出て来るから気をつけないと。
「おい!これは一体どうなっている!?」
「拠点が、消えた?」
あっ、あれってここにいた人間たち?
あっ!!
よくよく考えたらあたしたち、ここで丸見えだ!
まさか外がだだっ広い草原だったなんて・・・
「ッッッ!?お前たち!!一体何をした!?」
みっ、見つかった!!
どうしよ・・・
どうしよ・・・
そっ、そうだ!
「みんな。あた・・・イヤイヤ、ワタクシが囮になってあっちに行くからみんなは反対側の森まで逃げて!」
「みっ、ミラ様を置いていくなんて・・・」
「あたしのことは構わないで。ほら!早く行ってっ。お~いそこの人間たちぃ~!!あたしを捕まえてごらぁん!」
「あっ、あれは!?救血の乙女・ミラ!そんな馬鹿な・・・ヤツは打ち倒されたはずでは・・・」
「だが今ここにいるということは・・・まっ、まさか・・・!?全兵に告げる!!ミラが復活した!総力を挙げてヤツをもう一度殺せ!他の吸血鬼は捨て置いて構わぬ!!」
うわ、向かってきた!
やっぱあたしって人間にめっちゃ嫌われてる・・・
でもこれで引き付けることができた。
あとは全速力で逃げるだけ!!
ふぅ・・・
救世主ってのも、中々に疲れる・・・