391―贈り物、そして忠誠。
あの時の私は、導主様の透き通るような微笑みと、そのプラチナブロンドの髪色に見惚れて呆然としてしまっていた。
だけど何故か、それとは裏腹に心臓の鼓動は高まっていく・・・。
「アマリア。僕は君にすごく感謝しているんだよ?」
「感・・・謝・・・?」
「君はこの国を滅ぼした。それはただ単に、君の欲望・・・怒りからの行ないだったと思う。だけど結果として、君は思いがけず、僕の長年の夢を叶えるための計画のスタートラインを切ってくれたんだ。本当にありがとうって思ってる。だから僕は君に、何か贈り物がしたい。」
「贈り物・・・ですか・・・?」
「僕にできることだったら何でも。もっとも、僕にできないことなんかないんだけどね。」
はにかむ彼に、私の胸はまたしても熱くなった。
贈り物。
贈り物・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私を・・・人間にして下さい。」
「人間に?」
「私はこの国の王女で、王位を継ぐべき者でした。だけど愚かな王である母は、私のことを認めず、出来の悪い妹に王位を譲りました。だから私は!!復讐のためにこの国を滅ぼしました!!目的を達成した私は、吸血鬼として、不老の時を生きるでしょう。あんなバカな母親と妹と同じ種族のままで時を過ごすなんて耐えられません!!どうか私を・・・あなたと同じ、人間にして下さい!!!」
彼に対して、私は頭を垂れて頼み込んだ。
そして返ってきたのは、意外な返事だった。
「そんなことで良かったら、望み通りに。」
「そんなこと・・・?」
「言ったでしょ。僕にはできないことなんかないって。君を人間にすることなんか簡単だよ。それにその方が、僕の性に合ってる。」
「性・・・ですか?」
「僕は人間至上主義なんだ。僕の計画を始めてくれた君が森精人の派生種如きに収まってるなんてもったいないよ。」
「でっ、では・・・!!!」
「うん、いいよ。君を人間にしてあげる。」
彼は濡れた地面に膝を付く私に向かって手をかざした。
「祖級第零位・新種生。」
光に包まれるとともに、自分の身体が徐々に作り変えられていくのを感じる・・・。
「終わったよ。」
目を開ける私に、彼は鏡を手渡した。
鏡に写った私は、耳は尖ってなく、肌は青白くなく、そして牙もない。
私・・・本当に、人間になったんだ!!!
「固生魔能の一部と不死性だけは残したよ。君にはこれからも、僕のために働いてもらいたいからね。」
「えっ、え・・・?」
驚きと嬉しさが同時にきた。
「こっ、これからも・・・!!私をお傍に置いてくれるんですか!?!?」
「これからやることがないんでしょ?だったらこれからの人生、僕のために使ってくれない?」
「はっ、はい!!これから、身命を賭して、あなた様のお役に立つことをここに誓います!!!」
跪く私の肩に、彼はそっと手を置いた。
「だったら君に、新しい名前を付けてあげる。そうだな・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「キイル。」
「キイル・・・?」
「キイル=デンセ=ウスキル。僕の国の言葉で、❝天を舞う乙女❞。これからも、よろしくね?キイル。」
こうして私は、導主様の手によって人間にしてもらい、新しい名前と人生を与えられた。
そして、導主様の計画の口火を切ったことにより、お気に入りとして認められた私は、あの方から計画の全容をお教えして頂けることができた。
それを聞かされた時、私はあの方の偉大さを思い知らされた。
あの方は・・・ミラなんかより遥かに優れたお方だ。
私はこれからも、導主様のために戦うことを約束されたはずだった。
それなのに・・・。
それなのに・・・!!
グレースが現れなかったら、こんなことにならずに済んだんだ!!
全部・・・全部アリスの子どもが生きて、子どもをこしらえ続けたのが悪いんだ!!
フン!!
でも、まぁいい。
全ては束の間の平和よ。
あの方の夢が叶えば、ラトヴァールも、吸血鬼も、ミラも・・・全部消えて無くなってしまうんだからね!!!




