388―ラトヴァール奪還戦⑰・三望
どっ、ドッペル、ちゃん・・・。
この子が・・・?
見た目が変わってるから?
それとも語彙が違うから?
理由ははっきりしないけど、あたしはグレースちゃんが作った女の子が、死んだドッペルちゃんとは信じられなかった。
「ッッッ!!!」
女の子があたしの方を向いて、ゆっくり近づいてきたモンだからビクッとした。
「なっ、ナンデスカ・・・?」
「一人にさせてすまなかった。本体。」
あたしの目をしっかり見て、謝った後、女の子はあたしを抱きしめた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あたしこそ・・・ごめん・・・。あん時・・・守れなくて・・・。」
涙を堪えきれなくて、震える手で抱きしめ返すあたし。
機微がない表情だけど、目の奥を見ればはっきり分かる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
この子は、ドッペルちゃんだ。
間違いない。
自信を持ってそう言える。
どうしてグレースちゃんの中にいたドッペルちゃんが、新しい身体で出てきたのか。
多分あたしとグレースちゃんがシンクロしたせいで、魔能にバグでも起こったからなのかもしれない。
だけどもう、細かい理屈なんてどうでもいい。
死んだドッペルちゃんが生き返った。
それだけで、十分嬉しすぎることじゃないか。
「ドーラ様・・・!!」
感極まったグレースちゃんも、あたし達に抱きついてきた。
しばらくの・・・だけども二度と来るはずがないと思っていた再会のひと時を、あたし達は噛み締める。
「ドーラが・・・復活した!?そっ、そんなことあるかよ!?あの時確かに導主様が殺したはずなのに・・・!!!」
「あの時は要らない邪魔が入って残念だった。今度こそ倒す。キイル。」
驚愕するキイルに向かって、ドッペルちゃんは厳しい声色で凄んだ。
「やっ、やれるモンなら・・・やってみろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
激昂したキイルが、高速でドデカイ風の刃を発射する。
「天級第四位・解魔の令。」
ドッペルちゃんは、何とそれを片手をかざすだけで消滅させてしまった。
「どっ、ドーラ様・・・!!」
「グレース。」
グレースちゃんはドッペルちゃんとしばらく見つめ合い、互いに頷くと手を繋いだ。
「ミラ様。お手を!」
「うっ、うん!!」
あたしも急いで手を繋いで、あたし達はヒューゴ君を取り囲む形になった。
「「天級第一位・三つ祝の安息領域!」」
ヒューゴ君達の周りを、桜色の結界が囲む。
「グレースちゃんこれは!?」
「防壁魔能の中でも最高峰の術をかけました。三人分の膨大な魔力量が必要だったのですが、今ここには、ミラ様と同等の力を持った者が三人います。これでヒューゴ様達は、何人にも破れない最強の守りが施されました。」
「それってつまり・・・あたし達がどんだけ暴れてもオッケーってこと?」
グレースちゃんが、たくましい笑顔で大きく頷く。
なるほどね。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「じゃあ遠慮なく、派手に行かせてもらいましょうか!!!」
あたし達三人は、キイルと同じ高さまで急上昇して、彼女を三角に取り囲むようなフォーメーションを取った。
「粋がるのも大概にしろよ?今の私の実力・・・知ってるでしょ?」
「ほぉ~この状況でまだそんなデカいこと言ってられんだね?よっぽど頭がお花畑と見える。」
「あぁん?」
「今のこのシチューエーション理解してる?アンタ・・・ミラ三人分に囲まれてんだよ?」
「ッッッ!!!」
たじろぐキイルに、グレースちゃんは斬れない剣の切っ先を颯爽と向けた。
「これで最後よ、キイル!!ご先祖様の・・・吸血鬼の故郷・・・絶対にこの手で取り戻してみせるわ!!!」




