384―ラトヴァール奪還戦⑬・歪極
「どうあっても引かないというか・・・。ならば・・・!!」
我輩と同じく、ジョルドも拳に地波エネルギーを纏わせ、それを構える。
「本気で貴様を殺そうとしよう。」
獅子の如き殺意に満ちた眼だ。
先程のまでと明らかに違う面構え・・・。
こやつ・・・。
今までは手を抜いていたな!?
こちらは既に手負いの身・・・。
この余力で本気を出されれば・・・命などない!!!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
いや、落ち着け。
落ち着くのだ。
ミラ様ではなく我輩に本気を出すということは、それほど奴も焦っている証拠。
武人において、焦りは隙の源・・・。
決して表になど出してはならぬ。
相手がそれを見せた以上、それに乗じるより、他に手はあるまいて!!!
「貴様も功を焦っておるのだな?ならばその全力・・・遠慮なくぶつけてみよ。」
奴を挑発すべく、我輩は構えた拳を下ろして、両腕を広げた。
「俺も舐められたものだな・・・。よっぽど死にたいらしいな?だったら、望み通りにしてくれるッッッ!!!」
我輩の目論見通り、挑発に乗って奴は突っ込んできおった。
「天級第三位・地粒空破!!!」
これは!!
報告にあった拳から地波を放ち、地を塵にする魔能!!
奴め!!
それを至近距離から放とうというのか!?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
これは何と好都合か!!!
「なっ・・・!?」
我輩は直線状に突き出された奴の拳を掴み、地に向かって背負い投げた。
「がっ・・・!!」
これで・・・決まりだ!!!
「天級第五位・歪極の拳!!!」
地波で守られたジョルドの腹に、我輩は強烈な一撃を見舞った。
凄まじい衝撃波により、地に亀裂が走る。
「ぐっ・・・!!ぎっ・・・!!」
やがてジョルドの見えざる鎧に歪みが生じた。
「さすがは自慢の鎧だ!!しかしそれも、いつまでもたせるつもりか!?!?」
この魔能の一撃を食らった対象物には、ある種の空間の歪みが生じる。
それを世界の理は修復しようとする。
しかし、歪みと修復の理。
二つの相反する力がぶつかることにより、それは形を保つことがままならなくなり・・・膨大な双方向の力を放出とともに・・・崩壊する!!!
ジョルドは黎明の開手の中でも指折りの強者。
これを以っても殺すことは不可能だろう・・・。
だが、確実に勝利を掴むことは叶う!!!
根気よく奴に拳を当て続けていると、歪みが徐々に大きくなり、やがて奴の身体をも飲み込んだ。
もう少しだ!!
世界の修復力がまもなくぶつかりに来る!!
我輩は必ず・・・ここで奴を倒す!!
アウレルの仇・・・この戦いで取らせてもらうぞ!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「惜しかったな。」
「なっ・・・!!!」
笑みを浮かべた奴の言葉を聞いた刹那、我輩は足元から生えた巨大な何かに飲み込まれた。
これは・・・蕾か・・・!?
息が・・・できん・・・。
身体が・・・潰れそうだ・・・。
「俺としたことが・・・。キイルの窮地を前に冷静さを欠いてしまった。おかげで貴様のような格下の相手にこれを使うことになろうとは。」
これが・・・奴の絶技か・・・?
薄れゆく意識の中で目にしたのは、柏手をするかのように、手を打ち鳴らす奴の姿。
「天級第一位・咲き誇れ地の大華よ。」
我を捕らえていた蕾は、巨大な大輪の花と咲き、我の身体は、力なく宙を舞った。
「ミラ・・・様・・・。申し訳・・・ご・・・ざ・・・。」
◇◇◇
地波エネルギーで形作られた大華が消えると、後に残ったのは、全身が砕かれたローランドの身体のみ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「死んだな。」
冷徹に言い放たれたその言葉をかき消すように、横殴りの雨は激しく降り続けた。




