360―亡国の女王
私が・・・吸血鬼最大国家の、正統王位継承者・・・?
「えっ、エリガラード様・・・!」
「はい?」
「お言葉ですが、それは何かの間違いですよ!!だって私、平民の生まれですし、この指輪だって!これは私の家で女の子が成人を迎えた時に渡されるってだけの、どこにでもあるただの装飾品です!!」
「いいえ。その指輪は確かに吸血鬼の❝源証❞。森精人の国・マースミレンから分派した、始まりの吸血鬼・・・祖王の一族に代々伝わる品です。これの偽物を作ることなど・・・不可能です。」
必死に否定したが、エリガラード様は意見を曲げなかった。
「エリガラード様。吸血鬼の王国・ラトヴァールが滅びた際、王家の血筋の者は幼い子どもに至るまで死に絶えたと記録にあります。ですからグレースがその生き残りというあなたの所見にはご納得できません。」
私よりも聡明なヒューゴ様がこう言ってるのだから、さすがのエリガラード様も考えを改めるかもしれない。
そうだよ・・・。
いくら何でも話が大きすぎるよ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「私の意見が間違っているかどうか、そこの御仁に聞いてみるのが一番でしょう。」
エリガラード様は、ルイギ様の方へ視線を移した。
「ルイギ様・・・。これって、何かの誤解ですよね!私なんかが吸血鬼の始祖の血を引いているワケなんか・・・ない、ですよね!?」
「・・・・・・・。」
ルイギ様は、黙ったまま俯いている。
「なっ、何か言ってくだ・・・!!」
近づいて気付いた。
ルイギ様が・・・泣いてる・・・。
「せっ、先生・・・?」
トヴィリンが不安な顔をした。
「其方の指の指輪と、その顔を見た瞬間・・・儂は白昼夢でも見ているような気分じゃった・・・。しかし、これは断じて夢ではない。若かりし頃の陛下と瓜二つじゃあ・・・。グレース。其方こそ、ラトヴァール王家最後の生き残り・・・。儂ら吸血鬼にとって、光輝く満月・・・!!陛下は確かに、未来に向けて、希望を・・・託して下さったッッッ!!!」
指輪がはめられた手を握り、ルイギ様はおいおいと泣き出してしまった。
かつてのラトヴァールで、女王の側近だったというルイギ様がこうなってる以上、最早疑う余地なんて無くなってしまった。
私は・・・吸血鬼王家の、最後にして唯一の女王後継者なんだ・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ルイギ様、教えて下さい。ラトヴァールが滅んだあの日、一体何があったのですか?」
「そっ、それは・・・。」
「それについて説明するには、理由を明らかにしてからの方が良いでしょう。何故キイルがグレースの命を執拗に狙うのか?」
エリガラード様がルイギ様に唐突な指摘をした。
「どういうことですか!?」
私達に向けて、ルイギ様はポツポツと語り始めた。
「儂もこの目で見るまでは、誠に信じられなんだ・・・。正直今でも受け入れ難い。じゃが奴は・・・確かに、生きておった。儂らの・・・敵として・・・。儂は奴を・・・決して許さぬ。儂らを裏切った・・・罪深き女・・・!!!」
「裏切った?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「今はキイルという名じゃったかの?奴はな・・・吸血鬼だったんじゃよ。」




