353―無間館の戦い⑤
「くっ・・・!!」
また防がれた!!
キイルに振り下ろされた斬れない血の刃は、彼女が身に纏う黒い風の渦にいとも簡単に弾き返された。
「そんなんじゃ全然足りねぇぞ!!!」
キイルが展開する風の鎧を大きく広げたことで、私は背中から壁に激突した。
「かはぁ・・・!!!」
身体中を鈍い痛みが襲う中、私は片膝を付きながらもどうにか顔を上げた。
ここで集中力を保つのを止めてしまったら、キイルの次の一手に対処できなくなる!!
「天級第三位・不絶風鎌!!」
キイルが手をかざした瞬間、大振りの鎌と同じ規模の風の斬撃が無数に迫ってきた。
「球形防壁・三重展開ッッッ!!!」
咄嗟に私は三重の防壁魔能を同時に展開し、キイルの攻撃を防いだ。
木材が裂ける音なんて生易しい程の轟音とともに、無限に広がる館は崩壊していき、それと同時に再生していく。
三重に展開した防壁魔能が、一層目、二層目と風の鎌で破壊されていく。
そして、最後の風が三層目の防壁を破壊し、それは私の半面を斜めに斬った。
「あっ・・・!!ああっ・・・!!」
私は激痛を感じながらも、斬られた半面がずり落ちないように気力を振り絞って押さえた。
「ふっ・・・全回復・・・!!」
詠唱すると切断された半面の接合面は綺麗にくっつき、痛みもあっという間に引いた。
「ホントしぶとすぎアンタ・・・。ゴキブリかよ。」
ヒューゴ様と分断されてからというもの、私はキイルから殺意全開の攻撃を浴びせられ続けた。
私はどうにか反撃の隙を見計らってはみたがそう易々と行かず、ドーラ様が遺してくれた魔能で命を食つなぐのがやっとだった。
「ミラの紛い物の魔能さえなかったらとっくに殺せたのに・・・。ああイライラする!」
もどかしい怒りを感じたキイルが地面に向かって吐き捨てる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
どうして?
どうしてキイルは、こうも私の命を奪おうと執着する?
私に一体、何の怨みがあるっていうんだ?
私はふと薬指にはめられている、ミラ様から頂いた、私の家に代々伝わる指輪を見た。
あの日、エボルでの戦いでキイルはこの指輪を見た途端、私を付け狙うようになった。
これに一体、何の価値があるっていうの?
「気になる?指輪が。」
私のことに気が付いて、キイルが聞いてきた。
「ねぇ?一つ教えて。アンタの母親はどうしたの?」
「私がまだ小さい頃に、病で・・・。」
「そう?その様子だと、アンタの母親は最期まで自分の生まれについて言わなかったようね。いや、そもそもその母親も聞かされたかどうかだけど?」
生まれ・・・。
家柄・・・。
そうだ。
あの時、キイルは言った。
“恨むなら自分の家柄を恨め。”と。
「お願い教えて!!私の一族はあなた・・・いや、あなたのご先祖様にどんな罪を犯したの!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ご先祖様も何も、この私に罪を犯したんだよ。」
え・・・?
言ってる意味が解らないでいると、キイルは舌打ちを織り交ぜて語り始めた。
「その指輪は本来だったら私がもらうはずだったのにアイツ等・・・私のこと除け者にしやがって。一体私がどれだけ尽くしてやったと思ってるんだ・・・。お前らが今まで生きてきたのはこの私のおかげだろ?しかも私はお前らの・・・。ああ!!今思い出してもイライラするッッッ!!!」
髪を掻きむしりながら、キイルは私の先祖と思しき人達への罵詈雑言を言い続けた。
それより、さっきの話は一体どういうこと?
私のご先祖様がキイルの先祖ではなく、キイル本人に何かをしたって・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あなたと私って。どういう、関係・・・?これは・・・この指輪は一体、何なの・・・?」
「知りたい?」
キイルの問いかけに、私は大きく頷いた。
「それはね、言ってしまえば、お・・・ッッッ!!!」
キイルが答えを言いかけたその瞬間、天井をブチ抜いて頭上からキイルに斬りかかる者が突如として現れた。
「ちっ・・・!!」
風の護りに妨害されたその者は、私の前にスタっと華麗に降り立った。
隻腕の老吸血鬼・・・。
まさか・・・!!
この人・・・!!
「駆けつけた先で、まさか貴様と出くわすとはな・・・。」
「相変わらずの老け顔ね、ルイギ。」
「貴様も昔と同じく可憐だが意地汚い顔をしておるの。アマリア・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「もうとっくに捨てた名前で呼ばないで。殺すぞ?」




