34―冥王ミラ④
眩しい・・・
痛い・・・
苦しい・・・
誰?
あたしにこんなひどいことすんのは・・・
せっかく気持ちいい思いしてるっていうのに・・・
めんどうだからまとめて薙ぎ払っちゃおうっと・・・
痛っ・・・!!
ちょっと何?
後ろから不意打ちなんて卑怯なんですけど・・・
ああもうっ、イライラすんなぁ・・・
「〜〜〜!!」
誰かが、なんか叫んでる・・・
声、バカデカくない?
耳に響くんだけど・・・
あれでも、これって・・・
あたしの名前を呼んでる?
ん?
あたしの、名前ってなんだっけ・・・
あたし、あたしって・・・
「ミラ様ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
いっ・・・!?
押し倒された!?
いきなり何すんのさコイツッッッ!!!
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!ミラ様ッッッ!!!」
女の子?
ん〜どっかで見覚えあるんだけどよく思い出せないなぁ。
でも、思い出せないってことは、あたしにとって、あんま大した関係じゃないってことだよな。
「ミラ様ッ!!ミラ様ッ!!」
ちょちょちょ。
コイツあたしを誰かと勘違いしてない?
あたし日本のJKよ。
そんな外国人みたいな名前のはずないじゃん。
じゃあ、あたしの名前って、何?
・・・・・・・。
とにかく、日本にいるフッツーのJKであるあたしが、そんな西洋チックな名前持ってるワケがないのは確かだよ。
「ミラ様、もう止めにしましょう。」
ま〜だ勘違いしてるよこの子。
だからあたしミラじゃないってば。
それに『止める』って何?
何を止めるっていうの?
あたし今、めちゃくちゃ気持ち良くって、すごくノッてるんだから邪魔しないでくれる?
「お願いです・・・どうか私達のところに戻ってきて下さいッッッ!!!」
なんか段々ムカついてきたんだけど・・・
もう面倒だから殺しちゃおうか、コイツ。
「きゃっ!!」
はい、形成逆転〜。
今度はあたしが押し倒す番になっちゃったね。
翼脚で押さえてるから大丈夫だと思うけどあんま動かないでね。
今からあんたの首、炎で作った剣で飛ばすから。
いくよぉ〜。
せっ〜の。
「ミラ、様・・・」
ん?
頬っぺたを撫でた・・・?
なんで?
あんた、今からあたしに殺されるんだよ?
なんでそんなに穏やかにしてられんのさ?
「大丈夫です・・・ミラ様は、何も悪く、ありません・・・」
悪く、ない?
あれ?
これと似たようなセリフ、どっかで聞いたような・・・
あっ、思い出した。
小1の頃、気の弱い男子をヤンチャな上級生から庇った時だ。
あの後、上級生の頭を、レンガで思いっきり殴りつけてケガさせたあたしを、クラスのみんなが揃って仲間外れにしたんだよね。
「アイツはヤバい。」
「一緒にいると何されるか分かんない。」
そんなヒソヒソ話もするようになって、誰ともあたしと関わろうとはしなかった・・・
だけど、あたしが守った男子があたしに言ってくれたんだよね。
「○○ちゃんは悪くないよ。助けてくれて本当にありがとう。」
そう言われてあたしは、嬉しくて嬉しくて、ついその場で泣いちゃったっけ。
そこから、2年に上がってあの時の出来事をみんなが忘れてくれるまで、その子が仲良くしてくれて、寂しい思いをしなずに済んだ。
上級生を殴った時、みんなのことをどうでもいいと思ってしまったけど、本当は違ってた。
みんなあたしにとって、どうでもよくなんかないし、向こうにとっても、あたしはどうでもよくなんかない。
だから、みんなを悲しませることは、絶対にしてはいけないんだ。
もしかしたらこの子も、あたしにとって大切な誰かなのかもしれない。
でもゴメン・・・
あたし、どうしてもあなたのことが思い出せないの。
ねぇ、教えて。
あなたは一体誰なの?
「グレースッッッ!!!」
ッッッ・・・
グレース・・・グレース・・・
そうだ。
あたしにとって、この子は・・・
ダメだ・・・
喉の奥まで出かかっているのに、この子があたしの何なのかが、どうしても出てこない。
しっかりしろ!!あたしッッッ!!!
この子はあたしにとって、かけがいのないものだったはずでしょ!?
そう。この子は、あたしの・・・。あたしのッッッ・・・!!!
◇◇◇
「ギッ・・・ガガア・・・」
「えっ・・・?」
「グッ・・・ア、タシノ、シン、ユウ・・・。」
「ッッッ!!」
「グッ・・・グレース、チャン・・・」
「ミラ、様・・・。くっ・・・!!」
その時、ミラの翼脚で両肩を押さえられ、地に倒れていたグレースは血操師で手に一振りの短剣を作った。
「ミラ様。グレースは、あなたの傍に、いつまでも一緒にいます。」
そして、自らの血で生み出した刃の切っ先を、ミラの心臓に突き刺した。
「グッ・・・!?カハアアアアアア・・・」
ミラの身体から生えた翼や角、二本の尾が燃え尽きた灰のように崩れ去ってゆく。
冥王の全ての部位が崩壊し、元の姿に戻ったミラは、しゃがみ込んだまま仰向けに倒れそうになった。
そんなミラの身体を、グレースは何も言わずに支えた。
「ミラ様・・・。良かった・・・。私、ミラ様を、救うことが、できた・・・。ううっ・・・ああっ・・・。」
感涙の声を上げる吸血鬼の少女は、寝息を立てながら安らかに眠る吸血鬼の救世主を、冥府の炎が全て消え、月光が照らす瓦礫の山の中央で、時を忘れて抱きしめ続けた。




