332―救血戦争
「消失。」
護送車を消すと、アドニサカ魔政国の連中に捕まっていた吸血鬼が出てきた。
案の定、といったところか。
みんなガリガリに痩せていて、身体の所々に暴行されたような痕が見られる。
あたしが彼等の傷を全回復でまとめて治すと、森の方からあたしと行動をともにしていた吸血鬼の部隊が姿を現した。
「ミラ様!」
「あっ、やっと追いついたか。何とかみんな助けた。とりあえずこれを全員に配ってあげて。」
あたしは魔能で毛布や食事を出してあげると、兵士の人達はせっせとそれを捕まっていた人達に配り始めた。
一通りの仕事を終え、あたしは深呼吸をした。
あの“第二次ミラ討伐戦”から、今日でおよそ半年を迎えようとしていた。
今この異世界、アルスワルドは大きな戦火に巻き込まれている。
第二次アルスワルド大戦・・・通称“救血戦争”が始まったのだ。
自分の通り名が、そのまま世界大戦の名前に使われていることに、あたしは甚だ憤りを覚える。
全種族・・・厳密にはアドニサカ以外の人間の国家も含まれているが、彼等が全員揃ってあたし達吸血鬼の味方に付くと発表したら、アドニサカは宣言通り彼等に対して戦争を仕掛けてきた。
戦争が始まる前は、“団結すれば乗り越えられる。”と楽観にも似た希望を持っていたが、その期待は見事に裏切られた。
北方の旧ヴェル・ハルド王国に蔓延っていた朽鬼は、大規模な群れを形成して東方の人間の国・ローマン公国に到達。
西方の森精人の国・マースミレンには、リセの支配下の魔族軍が南方から侵攻。
吸血鬼・・・いや、あたしの側に付くと表明した者達には、もはや安全な場所などほとんど残されていなかった。
敵が一つの国だけになったということで、吸血鬼軍は東西南北に分担していた指揮系統を全て一本化。
それに伴って、各地方の各拠点もまとめて統合することになった。
一つの場所に固まってた方が安全だからだ。
しかし、大移動の隙をついて、避難中の吸血鬼達を襲撃する事案も多く発生した。
今夜あたしがした任務も、その一つの救出だ。
「ミラ様。全ての備品の配給が完了しました。」
「ありがとう。じゃあ本部まで転送するから全員一か所に集まって。」
「かしこまりました。」
あたしに促された兵士達は、一般民を誘導しながら一か所にまとまり始めた。
それを確認するとあたしは、全員を北方にある吸血鬼軍の総本部まで転送した。
「ふぅ~!これで一安心。さて。次はどうするか・・・。」
すると突然、脳内に通信が入った。
(本部よりミラ様へ緊急入電です。)
「どうした?」
(ローマン公国防衛ライン・第三が突破されそうです。)
「詳しい情報を!!」
(群体型朽鬼が14体出現。リリーナ様とグレース様が交戦中です。)
「分かった!!二人にはあたしがすぐそっちに着くって連絡して!!」
本部との通信を切ると、あたしは急いでローマン公国へと続く“道”を開いてそこに飛び込んだ。
これが今の、あたしの日常だ。




