324―第二次ミラ討伐戦㉟・活陽
深い息を吐きながら、ミラは辺りを見回している。
奴は目にも留まらぬ速さで4人の仲間を仕留めた。
大方、次の獲物を探しているのだろう。
ならばなってやろうではないか。
私は挿している剣を鞘ごと腰から取ると、ミラの許へと歩いた。
私の気配を察して、ミラが感情の籠ってない目でこちらを見てくる。
死など決して恐れない。
しかして死ぬつもりも毛頭ない。
私は必ず見届ける。
あの方が創り出す新たな世界を。
それが、我が一族が、3000年も前から心待ちにしていた悲願なのだから・・・。
鞘から剣をゆっくりと抜き、私はミラを見据えた。
「勝負といこうではないか。ミラッッッ!!!」
◇◇◇
「お~い!!誰かいねぇかぁ~!?」
瓦礫の山と化したエボルの街で、ラリーザは仲間を探し回っていた。
彼女は幸運にも、アクメルの“黒宙の禍”を生き残るができた。
だが彼女が率いていた北方吸血鬼軍の応援部隊は全滅してしまった。
悲嘆に暮れるラリーザであったが、それでも精神を懸命に振り絞り、生き残っているかもしれないであろう仲間達を探すことを選んだ。
その時、瓦礫の隙間の中から見える微かな影。
急いで向かって瓦礫をどかすと、両膝を抱えていたセドヴィグがいた。
「セドヴィグ!!おい!大丈夫か!?」
ラリーザの呼びかけにセドヴィグは反応しなかった。
「イヴラヒムは!?お前んとこの執将はどうした!?」
「執、将・・・?ううっ・・・。ああっ・・・!」
イヴラヒムの名を出した途端、セドヴィグは頭を抱えて悲痛な声を喉から搾り出した。
「マジ、かよ・・・?」
セドヴィグの目も当てられない様子から、彼が目の前でリーダーを失ったのは察しが付いた。
「ここに居たら危険だ!!急いで他の奴らと合流しねぇと・・・ッッッ!!!」
ラリーザがふと辺りを見渡すと、自分達を高貴な身なりをした5人の魔能士達が取り囲んでいた。
「誰だよテメェら?」
「我々はアドニサカ魔政国の国政を担う魔首十客の地院である。」
リーダー格と思われる一人の男がラリーザに名乗った。
「何の用だよ?」
「聞かなくたって分かるでしょ!?狩りに来たんのよ!吸血鬼をね。」
5人の中の若い女が苛立ちを見せながら答えた。
答えなど、聞かなくても最初から分かりきっていた。
ラリーザは瓦礫の中で丸くなってうわ言を呟いているセドヴィグを見た。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「狩れるモンなら狩ってみろよ?生憎今の俺はなぁ、今までで最高に腹立ってんだよ!!」
5人の実力を推し量るに、勝つ見込みは2割程度といったところだった。
だがここで引き下がるワケにもいかない。
今まともに戦えるのは自分だけ。
ならば百に一つ、千に一つの可能性でも賭けるしかない。
覚悟を決めたラリーザは、斬れない血の剣を錬成して、構えの姿勢を取った。
「中々いい度胸しているじゃないか。」
「ねぇ。アイツ活きが良さそうだから生け捕りにしない?」
「ダメだ。ミラを含め、吸血鬼は全て排除せよとのお達しだ。」
「ちぇ~!!でも仕方ないか!仕事なんだし。」
地院の5人はラリーザの覚悟とは裏腹に余裕に満ちた態度で魔能の発動準備に入った。
そして、両者が戦闘を開始する・・・といった瞬間だった。
突如として、周囲一帯に炎と熱風、そして衝撃波が走った。
何事かと思った双方は向こうを見たが、原因は全く分からなかった。
しかし確かにいた。
身を焦がすような熱さの中で、戦いを繰り広げる二つの影が・・・。
「天級第五位・堕ちる紅焔!!」
ソールがミラの頭上に日輪を落とした。
「地級第一位・頼もしい反撃。」
しかしミラはそれをものともせず、逆にそれの100倍近くはありそうな光輪をソールにぶつけてきた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
激しい熱によって、ソールが纏っていたマントは瞬時に炭化した。
「まだ・・・!!これしきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ソールは熱による痛みを必死に堪え、剣をミラに向けて何度も振り下ろす。
「天級第三位・陽爆の劫斬!!」
ソールが剣を振るうごとに、山を一撃で破壊するばかりの爆発が放たれる。
ミラはそれに対して回避行動を取るが、方向転換して爆発を掻い潜りながらソールに迫る。
そして6本の腕を使ってソールの全身に激しい殴打を浴びせる。
一撃一撃を浴びるごとにソールは全身の骨が砕ける感覚がして、意識が飛びそうになる。
だが強靭な闘気でそれに耐え抜き、剣でミラの上半身と下半身を真っ二つにした。
「全回復。」
ミラが呟いた瞬間、泣き別れた半身が勝手に寄り合い、瞬きする間もなく接合した。
「くっ・・・!!!」
やはりミラの持つ魔能が怒りによって全て強化されていることを痛感したソールは、ミラの近くで剣を高く掲げた。
「天級第二位・小陽の裁き!!」
ソールの剣の切っ先に、バレーボールサイズの幾千もの小さな太陽が出現する。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ソールが剣を豪快に振り下ろした瞬間、小さな太陽は全てミラに放たれ、一斉に爆発した。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!こっ、これで・・・がふぅ・・・!!!」
やったかと思った次の瞬間、爆風の中から無傷のミラが現れ、ソールの横面に強烈な一打を与えた。
山肌にめり込んだソールの左の顔半分は、骨が粉々に砕け、完全に陥没してしまっていた。
「ぬっ・・・!!ぬああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
怨嗟の叫び声を上げ、ソールは剣を地面に突き刺した。
「天級第一位・太陽への誘いッッッ!!!」
ソールの剣を中心に、眩いオレンジ色の地面が広がっていく。
これは今までのように魔能で作った物ではなく、正真正銘本物の太陽の一部。
効果範囲は100mほどだが、周囲の環境を現実に存在する太陽と入れ替えるのは、太陽系魔能を極めた者しか扱えぬ御業。
まさに絶技だった。
太陽の表面で起きている幾つもの爆発と、4000度を超える熱が空を焦がしながらミラに迫ってくる。
しかし・・・。
「天級第五位・逆転魔能。」
ミラが時間系魔能を発動し、ソールの魔能の効果範囲100mが、一瞬にして発動前の状態に戻された。
「くっ・・・かはぁ・・・。」
膨大な魔力を消費したこと、ダメージが蓄積しながらも戦闘を続行したことが災いし、ソールはその場に倒れ込んだ。
ソールにトドメを刺すべくゆっくりと歩み寄るミラ。
「絶空」
その時、空間を斬断する一刃がミラの6本ある腕を全て吹き飛ばした。
ミラが後ろを振り返ると、そこには得意げに指を構えたアクメルが立っていた。
「どっ、導主、様・・・。」
「よく頑張った、ソール。お前のお陰でみんな助かったよ。後は僕に任せてゆっくり休んで。やっぱりお前は、僕の期待を裏切らないね。」
「あっ、有難きお言葉・・・身に余る光栄・・・です・・・。」
与えられた役目を全うし、満足げになりながらソールは気を失った。
アクメルはソールを、他の仲間と一緒に自分が作った空間に避難させた。
「さて、いよいよ僕とだね。思う存分楽しませてもらうよ。ミラ。」
アクメルに視線をやるミラは、無表情ながらその目には今までにないほどの憎悪が込められているように感じられた。




