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【完結】吸血鬼の救世主に転生した陽キャ女子が異世界で無双代行する話。  作者: ハニィビィ=さくらんぼ
第五章 : 救世主と英雄
319/514

319―第二次ミラ討伐戦㉚・解放

「おうよく来てくれたなお前ら!!」


ソウリン達が各拠点からかき集めた援軍を出迎えに、イヴラヒム、セドヴィグ、ラリーザがエボル第一階層・都市区域の入口に集まった。


「これは一体どうなっているのですか!?」


街を襲っている魔獣達に、ソウリンは取り乱して三人に事情を求めた。


「全てワナだったんだよ。黎明の開手(ひらきて)とアドニサカのお偉い方がミラを殺しにここにやってきたんだよ!」


「それ本当ですか!?して、ミラ殿の安否は!?」


「黎明の開手達と現在交戦中とのことだ。永友の方々も街に散らばった魔獣を討伐しに向かった。ただ・・・。」


「ただ?どういうことですか?」


質問をするソウリンに、イヴラヒムは重い口を開いた。


「街で先程から、極めて高位の魔能が使用され続けている。それと同様に、街に向かった者と連絡が取れん・・・。」


南方吸血鬼の者達に一気に緊張が走った。


「“連絡が取れない。”って、まさか・・・!!もうすでにミラ様はやられて連中次は、永友の方々を・・・!!」


「おいネザミ!!ふざけたことを言うな!!ミラ様が・・・あの方々が・・・敗れることなど、万に一つもあるかッッッ!!!」


いつものおちゃらけたやり取りとはまるで違い、アドレはとても厳しい口調で弟を叱責した。


しかしネザミの不吉な発言を皮切りに、全員が沈黙した。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


「なワケねぇ・・・。ミラが・・・!!アイツ等が・・・!!負けるワケねぇ!!!アイツ等は、俺達よりもよっぽど強ぇんだ!!こんなトコでくたばるタマなんかじゃねぇよ!!!」


「ラリーザ殿・・・。ああそうだ!!ミラ殿達がとても強い方々だ!!我らが勝利を信じずして、誰が信ずるか!!今は我々ができること、そしてすべきことを精一杯成し遂げよう!!」


ラリーザとイヴラヒムに鼓舞され、南方吸血鬼軍達から歓声が上がった。


「そうだ!!やってやろうぜ俺達も!!」


「ミラ様達のお役に立てるよう全力を尽くさなくては!!」


「皆・・・。ありがとう!!」


目頭が熱くなったイヴラヒムは、南方吸血鬼軍の代表として兵達に頭を下げた。


「よ~し!!それじゃあ街の魔獣をとっとと片付けてアイツ等を助けに行こうぜ!!まずは人員の配置についてだがな・・・」


「よっぽど慕われているな、ミラは。」


「「「ッッッ!!!」」」


全員が上を見上げると、エボルの街の空に、アクメルが浮いており、吸血鬼達を見下ろしていた。


「誰だテメェは!?」


「初めまして。僕は黎明の開手が導主、“全能雄・アクメル=フォーレン=フレイザー。」


その名前を聞いた瞬間、全員にかつてないほどの動揺・・・そして恐怖が襲ってきた。


(コイツが黎明の開手の主・・・!!“全能雄”・・・!!!)


(ミラ様とは似て非なる絶対的強者の気配・・・!!!)


(ヤバい・・・!!ヤバいヤバいヤバい!!!胸の鼓動が・・・収まらねぇ・・・。)


黎明の開手を束ねる者と相対し、吸血鬼達は戦慄し、その場から動くことができなかった。


「なっ、何しに、来た・・・!?」


恐怖を必死に押し殺し、ラリーザがアクメルに問いただした。


()()()()()()()()()()。それだけ分かればいい。」


アクメルの言っていることに全員が困惑した。


こちらの兵力はおよそ4000。


対するアクメルはたったの一人。


到底敵うはずがない。


しかし()()とは?


この男、一体何をしようとしているのか?


答えを導き出す余裕もなく、アクメルは両掌を横に合わせた。


「安心しろ。すぐにミラもそっちに送ってやるから。」


次の瞬間、合わせた両掌の間に青黒い玉が出現した。


祖級(ディゾン)第零位・黒宙の禍(ブラック・カラミティ)。」


アクメルが詠唱すると、青黒い玉は吸血鬼とエボルの岩削人(ドワーフ)達を吸い込み始めた。


まるでブラックホールのように。


「うっ・・・!?うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「たっ、助け・・・!!助けてくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


吸血鬼と岩削人(ドワーフ)達は成す術もなく、アクメルの手の中の玉の中に取り込まれていった。


しかし、必死に耐え抜いている者達もいた。


「あっ・・・!!ああっ・・・!!」


「あっ、兄貴ぃ・・・!!!」


ネザミは街灯に掴まりながら、吹き飛びそうなアドレの手を懸命に繋いでいた。


しかし、柱に掴まるネザミの腕の力は徐々に弱くなっていった。


「もっ、もう止せネザミ。このままじゃお前も・・・。」


「何弱音吐いてんだよ・・・!!兄貴を絶対に、死なせるモンかぁ・・・!!!」


巻き添えになりそうになりながらも、兄を死なせまいとする弟に、兄は心打たれた。


そして・・・。


「お前は・・・死ぬんじゃないぞ・・・。」


自ら手を離し、玉の中に飲み込まれていった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


兄に向けて手を伸ばし、弟は悲しい叫びを上げた。


やがて4分ほどが経過し、南方・北方吸血鬼軍の吸血鬼と、避難していたエボルの非戦闘員のほぼ全てが飲み込まれてしまった。


「時間通りだったな。じゃあそろそろ・・・。」


アクメルは手の中の玉に力を込めた。


「全てを・・・無に帰せ!!」


アクメルが両手をグッと一気に引くと、全てを飲み込む青黒い玉は天を焦がすほどの光を発して爆発した。


その結果、山は吹き飛び、エボルの第一階層は剥き出しになった。





◇◇◇





時を同じくして、エボルの第二階層にいたリセは、自分の背後に大きなゲートを作っていた。


「屍どもよ!!血を啜れ!!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「グゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


リセの背後のゲートから、朽鬼が大量に溢れ出し、第二階層に避難しているエボルの住民を一斉に襲い出した。


第三階層にも同様のゲートが用意されており、これで計5000体の朽鬼がエボルに解き放たれた。





◇◇◇





「ああ。ご苦労だったリセ。」


リセから任務完了の報せを受けたアクメルは、崩壊したエボルの街を見下ろして、微かな笑みを浮かべた。


()()()()か・・・。その目でしっかり見ておくんだな。」


次の瞬間、アクメルの横に黒いゲートが出現し、一人の者が出てきた。


プラチナブロンドの髪に、深紅の瞳・・・。


それは、吸血鬼の救世主。


“救血の乙女・ミラ”その人だった。

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