315―第二次ミラ討伐戦㉖・届想
増大し続ける戦闘力を有するエスプと、それを搾取することで奴に届かんとするアウレルとの命のやりとりは、次第にその勢いを増してきた。
「があああああああああああああああああああああああああああ!!!ぎはぁ・・・!!!」
「くっ・・・!!!ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
怒りの咆哮を上げながらもアウレルを斬り伏せようとエスプだったが、アウレルの斬撃を食らうごとに力を奪われ、身体のふらつきを覚える。
両者の力量は、拮抗の兆しを見せつつあった。
しかし、どれだけ一撃を与えても、エスプの“狂昂する命”により、エスプmの戦闘能力が僅かながらに増し、決定打を下すことができない。
今ここで、アウレルが魔能付与の攻撃を与えれることができれば話は別になるだろう。
だが、連続で天級第五位の魔能を行使したアウレルには、これ以上魔能を発動できるほどの魔力は残されていなかった。
つまりアウレルは、自らの剣技のみでエスプに立ち向かわなければならなかった。
(早く・・・!!早くケリを付けないといけないのに・・・!!!)
アウレルの顔に焦りの色が出始めた。
今エスプの力を奪っている“吸奪の一撃”は残っているなけなしの魔力を捻出して発動している状態・・・。
魔力が底を尽きれば、アウレルはこの魔能を使うことができなくなってしまう。
アウレルは今、命賭けのタイムアタックに挑んでいるところだった。
(何とか魔力が尽きてしまう前に、コイツを仕留めないと・・・!!!)
アウレルは心の中で祈りながら、エスプに一撃一撃を与え続ける。
だがその願いも虚しく、アウレルの魔力は底を尽き、魔能を行使することができなくなってしまった。
それと同時に、ここまでの攻撃に耐えられなくなったアウレルの片方の双剣が折れてしまった。
「なっ・・・!?」
「あばよぉ!!!こんのクソ弱者があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
双剣が折れたことに狼狽したアウレルの隙を、エスプは見逃さなかった。
ダガーナイフが振り下ろされる刹那、アウレルは死を覚悟した。
(ミラ様・・・。誠に、申し訳ございません・・・。)
迫り来る死を前に、アウレルは役目を最期まで果たせないことを心の底からミラに詫びた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「見せてもらったぞ。お前の矜持!」
もうダメかと思われたその時、ソル・ヴェナが両者の間に割って入り、ダガーナイフを持ったエスプの腕を刃翼で突き刺し両断した。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「アウレル!今だ!!」
痛みに悶え苦しむエスプに、アウレルは刃こぼれしながらもまだ折れてないもう片方の双剣を食らわせた。
アウレルの双剣は刃がなく、殺傷力はない。
だが与える一撃一撃は、エスプの骨を砕くのに十分だった。
エスプから吸い取った体力を全て使い切らんとするばかりの剣戟を、エスプに与え続けるアウレル。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そして一際重たい一撃を脳天に与え、アウレルはエスプを完全に沈黙させた。
この命の比べ合いを制したのは・・・アウレルだった。
彼は確かに、“強者敬殺”を掲げる英雄に、弱者としての意地、プライド、想いをぶつけることができたのだった。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!はぁ・・・!!」
「アウレル!!」
エスプに辛勝したアウレルの許に、リリーナと彼女に治癒してもらったヒューゴとローランド、そしてアローグン国王とドゥミト王子が駆け寄ってきた。
「みんな・・・!!何とか勝ったよ・・・。」
「すごいではないかアウレル!!たった一人で黎明の開手に勝ってみせるとは・・・!!」
「さすがは素の戦闘力はミラ様に迫るだけのことはあります。」
「エヘヘ・・・まぁでも疲れたよ・・・。」
「勘違いしないでよね!?アンタが勝てたのは序盤で私達がアイツの体力を削ったおかげなんだから!!」
「リリーナ、負け惜しみは戦士としてみっともないですよ?」
ヒューゴに指摘されカチンときたリリーナは彼に激しく反論し、そこから相変わらずの言い合いを見せた。
それを見ながらアウレルは、「やれやれ。」と思いつつ、少し安心した。
「アウレル。」
「ソル・ヴェナ殿!」
「良い奮闘ぶりだったぞ。さすがはミラの配下だ。」
「あなたがあそこで助けに入っていなければ、私はやられていました。この勝利は、あなたのものといっても過言ではないでしょう。」
「そうか?しかしこの者らはそうは思ってないようだが?」
謙虚になるアウレルに、アローグンとドゥミトが片膝をついてきた。
「ちょっ!?いきなり何ですか!?」
「ミラの近衛の者よ!!我が国の兵の無念・・・晴らしてくれて・・・感謝する!!」
「かの英雄を騙った蛮族を負かして下さり、大変嬉しゅう思っております。」
誠実に感謝するドゥミトとは対照的に、アローグンは少しぎこちない様子だった。
だがしかし、それでもアウレルはすごく嬉しかった。
褒められたのもあるが、それとともに、自らの主であるミラが目にした光景を、自分も見ることができたと感じたからだ。
出逢いの形はあまり良い物ではなかったが、やはりあの時、ミラに忠誠を誓った自分の選択に間違いはなかった。
これからもこんな光景を、ミラや仲間とともに見ていきたいものだ・・・。
そうアウレルはしみじみ思ったのだった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「最後の最後で慢心したな。“凛然たる牙・アウレル。”」
突如アウレルの後ろにジョルドが現れ、アウレルは咄嗟に振り返ろうとした。
ところが、ジョルドは無情にもアウレルの心臓を手刀で突き、そして勢いよく引き抜いた。
(アレ・・・?何・・・コレ・・・?)
絶命する寸前にアウレルが覚えたのは、突然のことへの困惑。
そして目にした光景は、倒れる自分を見て何かを叫んでいる仲間の姿だった。




