306―第二次ミラ討伐戦⑰・同舟
“敬殺雄・エスプ=ドーレア=イゴス”って、確かトヴィリンやリセと同じく、黎明の開手に新しく入った人間・・・。
何でそんな奴が、私達のところに?
まっ、まさか・・・!!!
私の脳裏に、恐ろしい考えが浮かび、視界がグラついて息遣いも荒くなる。
「貴様、ミラをどうした?」
ソル・ヴェナ様は、私がこの男に一番聞きたい質問を先にした。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「死んだ。」
エスプの口から出たのは、最も恐れていた答え・・・。
ミラ様が・・・死んだ・・・?
そっ、そんな・・・。
「ミラ・・・様・・・。」
グラついていた視界が一気にグニャリと曲がり、私は一気に足の力を無くし、その場で倒れそうになった。
「お前の申すことに嘘偽りはないようだな。でもまだ、終わっていないのだろう?」
ソル・ヴェナ様がエスプに投げかけた問いを聞いた瞬間、失っていた足の力を取り戻すことができて、どうにか踏ん張ることができた。
「何故そう思う?」
「もしお前達がミラを完全に殺すことができたのなら、我らの相手などせず早々に立ち去っていればいいもの・・・。しかしお前達はまだこの国に留まっている。それはつまり、ミラを殺すことはできた。しかし奴の脅威が、完全に過ぎ去った・・・ということではないのであろう?」
「その通りだ。」
エスプはソル・ヴェナ様の洞察力に関心したような声色で答えた。
「導主様の力によって、ミラをどうにか殺したままの状態には保っている。だがひとたびそれが破られれば・・・ミラは息を吹き返すことだろう。」
つまりミラ様には、まだ復活の兆しがあるということ・・・。
これは・・・今までにない朗報だ!!
私の心の奥底から、戦う意思が再びみなぎってきた。
「しかしよく見抜いたな。」
「当然だ。我が兄弟が、貴様らの如き矮小な寄せ集めに負けることなど、天と地が逆転しようが起きまいて。」
ソル・ヴェナ様は最初から分かってたんだ。
ミラ様が、黎明の開手なんかに敵うはずがないって・・・。
それだけあの方のことを信じてるんだ。
友として・・・仲間として・・・。
「それで?先程貴様は、この我と手合わせしたいと言っていたが・・・二言はないな?」
「ああ。竜種と戦う機会など、おそらく生涯かけても巡らぬだろうからな。むしろ胸の高鳴りが止まらんよ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「いいだろう。我も人間と戦うのは久方振りだ。この時代の人間がどれほどの技量を持っているか興味が湧いた。」
「感謝する。ではその吸血鬼の娘から離れて、早速始めるとしよう。」
「よかろう。」
ソル・ヴェナ様がエスプの申し出に異議を全く出さなかったことに、私は慌てた。
「まっ、待って下さい!!私も一緒に・・・!!」
「グレース!!」
ソル・ヴェナ様は私の名前を強く呼んだ後、私に向かって耳打ちをしてきた。
「この人間の実力・・・先程戦った魔獣使いとは比較にならんだろう。この戦いでは、お前を守ってやれる自信はない。」
「だから・・・置いていけってことですか・・・!?」
ソル・ヴェナ様は無言で頷いた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「嫌です・・・。」
「グレース・・・。」
「ソル・ヴェナ様を置いていくなんて絶対に嫌!!あなたはミラ様の大切なご友人です!!だから・・・誰かが一緒に居てあげないといけないんですッッッ!!!」
ここから離れることを断固として拒否する私に、ソル・ヴェナ様は困惑した表情を浮かべた。
その時だった。
「なら君の役割、僕達で代わってあげようか?」
ハッと上を見上げると、二つの人影が屋根から飛び降りてスタっと私達の前に降り立った。
「アウレル様!!ローランド様!!」
「グレースはミラ様に似て、中々強情だな!!強固な意思を持つのは美徳!さりとて時には、誰かに役者を譲る心構えも必要だぞ!?」
「ローランド様・・・。」
「ソル・ヴェナ様を守りたいと思うのは君だけじゃないよ?だって彼はミラ様・・・僕達の大切な人なんだからね。」
「アウレル様・・・。」
二人に説得され、私は決心を固めることができた。
「アウレル様、ローランド様・・・。ソル・ヴェナ様を・・・どうかよろしくお願いしますッッッ!!!」
深々と頭を下げる私に、二人は大きく頷いた。
そして私は、早々にその場を後にするのだった。
3人の無事を心から願って・・・。
◇◇◇
「お前達に果たして我と同じ舟に乗るだけの力があるのかな?」
「見くびらないでくれまいか!?ソル・ヴェナ殿!!」
「そうですとも。あなたが兄弟と慕うお方の臣下の実力・・・とくとご覧下さい!!」
素晴らしい意気込みを見せ、吸血鬼の救世主最強の近衛兵の二人は、目の前の敵に向け、己の血から作った武器を構えるのだった。




