299―第二次ミラ討伐戦⑩・獣使
「はっ!!」
ソル・ヴェナ様が両翼で門を破壊してくれて、私達はエボルの内部に突入した。
「して吸血鬼達よ!まずはどうする?」
「ミラ様と中に入ったヒューゴ様というお方が、国王と王子、そして軍の諸官達とアドニサカ魔政国と黎明の開手への対抗策を考えてくれるそうです!まずは彼等と合流することにしましょう!!」
「よかろう。我が案内する。遅れず付いて来い!!」
ソル・ヴェナ様の先導の元、私達はエボルの重鎮の方々がいる場所まで向かった。
ミラ様が危機に陥っている以上、悠長に作戦なんか立てている余裕なんかないのかもしれない。
だけど永友の方々ですら苦戦してしまう黎明の開手が集結しているのだから、無策に挑むにはあまりに危険すぎる。
だから少しでも知恵はあった方がいい。
とにかく今は、一刻も早くヒューゴ様達と合流しなければッッッ!!!
だけどそろそろエボルの市街地が見えるところに差し掛かった時だった。
一人の人物が、私達の前に立ち塞がった。
「あらぁ。その様子じゃ、もう気付いてしまったのねぇ?」
その人物は、長身の女性だった。
年齢は20代くらいで、髪は紫色。
手には銅色に輝く水晶を持っていた。
程よく顔に乗った化粧も相まって、妖艶さが際立っていた。
「誰だテメェ?俺たちゃ急いでんだ。いいからそこどけよ。」
「残念だけど、それは無理な相談ねぇ。」
ラリーザ様の威圧に、彼女は全く動じる様子を見せず、相変わらずとぼけた態度を取っている。
「このクソ女ぁ・・・!!ふざけんのも大概に・・・」
「グルルルルルルル・・・!!」
「グゥゥゥゥゥゥゥ・・・!!」
ラリーザ様が詰め寄ろうとしたその時だった。
白丸と茶々助が、今までにないくらい殺意に満ちた顔で唸った。
「何かと思ったら、ヴェル・ハルド王国に貸していた禍狼種達じゃなぁい。まさかミラのペットになっていたなんてビックリだわぁ。」
王国に貸していた?
まさかこの人・・・!!
「あなた・・・アドニサカ魔政国の人間ですか?」
「フフッ。ご名答♪」
私の質問に、彼女はケラケラ笑いながら答えた。
「アドニサカ魔政国、魔首十客が一人。天院第三席・カウェン=ニプール=デモヴェスト。ミラ討伐作戦が上手く行くように、あなた達を止めに来たわ。」
アドニサカ魔政国の魔首十客って、確か政治を取り仕切っている魔能士達の集まりじゃ・・・。
よりによって厄介な相手が足止めに来たか・・・!!
「と、言いたいところだけど・・・。」
え?
「別の目的ができちゃったから、あなた達に用はないわ。」
「あらそうなの?じゃあ私達の邪魔はしないってことでいいのかしら?」
「勘違いしないで。奉救遊撃隊のリリーナ。あなた達に用はないけど、邪魔はしないなんて言ってない。」
「それってどういう意味よ?」
カウェンはニヤっと笑うと、杖を高々と掲げた。
「さぁ出ておいで。私の可愛い下僕達♪天級第五位・魔獣よ出でよ♪」
次の瞬間、エボルの街の天井に大穴が開いて、そこから天獣種、地獣種、水獣種といった様々な魔獣が大量に溢れ出た。
「こっ、これは・・・!?」
「驚いたでしょう?こう見えて私、グレンモン部隊の総司令も兼任してるの。だからあらゆる魔獣を操ることができるの♪」
どうやら彼女は魔能によって、魔獣達を意のままに操ることができるらしい。
そして白丸と茶々助も、元は彼女の・・・。
先程の怒りは、かつての飼い主に対する憎悪の現れだったのだろう。
「ほらほら!早くしないと、私の可愛い魔獣達が、この街の岩削人達を、みんな殺しちゃうよ♪」
コイツ・・・何て酷いことを・・・!!
「皆の者・・・。このような下賤な人間に構うことはない。直ちに街に降りて、魔獣を殺すぞ。」
「おおっと。あなたはここに残って。」
「何?」
「私ね、ビックリしちゃった。まさかこの国を裏にいたのが、本当に竜種だったなんて・・・。私・・・あなたが欲しくなっちゃった。絶滅したと思っていた伝説の生物を手に入れれるなんて、魔獣使いとしてこれほど嬉しいことはないじゃない!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「くっ・・・。くくっ・・・!くははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
高らかに響き渡るソル・ヴェナ様の笑い声は、大地を戦慄させるほどに恐ろしかった。
「これは面白い!!我を貴様の駒の一つに数えるだと!?その心意気、気に入ったぞ。人間!」
「してくれるのね、あ・い・て♡♡♡」
「よかろう!我が貴様の腹に収まるかどうか、是非とも見極めるとするか!!」
「いいわぁ♡その世界の威厳を感じさせる程に凛とした顔つき・・・。ますます手に入れたくなっちゃった♡♡♡」
ソル・ヴェナ様が乗る気だと分かって、カウェンは顔を赤くしてなまめかしい声を出した。
「ということだ。この人間の始末は我が着ける。お前達は街で魔獣どもの殲滅に当たってくれ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「一人にはさせません。」
ソル・ヴェナ様の横に付く形で、私も前に出た。
「どういうつもりだ?グレース。」
「私も一緒に戦います。ソル・ヴェナ様。」
「分かってか?お前と奴では、力量の差が明確にあるぞ。あんな小物、我だけでどうとでもなる。」
「ソル・ヴェナ様がお強いのは分かってます。ですがこればかりは譲れません。」
「何故だ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ソル・ヴェナ様、仰いましたよね?私の背中は預かったって。だったら私にも、あなたのことを守らせて下さい。あなたはミラ様の大切なご友人・・・。だからあなたは、私にとっても、大切な方なんです。これがご一緒に戦う理由です。何かご不満がありますか?」
ソル・ヴェナ様は、私の顔を見つめた後、フッと安心した笑みを浮かべた。
「ミラの親友を名乗るに相応しい立派な理由だ。ならばグレース・・・我が友よ!我の背中、お前に託す。ともに戦おう!同じ、ミラを想う者の同士としてな!」




