296―第二次ミラ討伐戦⑦・絶闇
なんで?
どうしてノイエフが、こんなところに・・・。
色々な考えをぐるぐると巡らせたが、だんだんと、心臓に受けた矢の痛みに、頭の中を塗りつぶされていった。
胸が・・・痛い・・・。
そして熱い・・・。
口の奥から何か温かいモノが・・・せり上がって、くる・・・。
「うっ・・・!?ゴボォ・・・!!!」
とうとう我慢できなくなったあたしは、口から勢いよく真っ赤な血をたくさん吐き出した。
「ゴホッ・・・!!ゴホォ・・・!!うぶっ・・・!!」
「痛いか?苦しいか?」
苦しみながら吐血するあたしを、ノイエフはニヤニヤしながら煽ってきた。
「最高に気分がいいよ。お前のそんな酷い姿を見ることができて。」
「どう、して・・・?」
「んん?」
「なんで、アンタが、こんな、ところに・・・。」
「名誉なことに、俺はこの黎明の開手の方々の一員として選ばれたんだよ。」
「アンタが、コイツ等の、仲間に・・・?」
「そのことについては、僕から説明させてもらう。」
あたしとノイエフとのやり取りに、アクメルが割って入ってきた。
「彼は王国で反乱を起こした後、アドニサカ魔政国に流れ着いた。そこで名の知れた魔能士達をたくさん殺してきた。ひとえにミラ、お前への復讐を果たすべく、己の腕を磨くため。彼に興味を持った我々は、彼に試練を与え、彼はそれをやり遂げ、見事僕の仲間に迎えられた。今の彼は、“裁弓雄・ノイエフ=オーネス”だ。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ファイセアさんは・・・。」
「何だって?」
「アンタのお兄さんと、アルーチェさんは・・・アドニサカまでアンタを探しに行ったんだよ!!アンタは大切な家族だから、無事に連れ帰るために・・・!アンタ!!二人の気持ちを踏みにじって、こんなことして満足かよ!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「アイツ等なら殺したよ。」
「え・・・?」
「あの二人を殺すこと・・・。それこそが俺が黎明の開手の方々に認められるための試練だったんだよ。大して苦には感じなかったよ。アイツ等はお前に惑わされて、人間を裏切った面汚し・・・。むしろ清々したよ。」
言ってることの意味が・・・解らない・・・。
「ハッタリだと思ってるなら、これを見てみろよ。」
ノイエフが懐から取り出したモノを見た瞬間、あたしは愕然とした。
それは・・・人の指の骨だった。
二つの細さは違っていたけど、両方ともに指輪がはめてあった。
それは・・・ファイセアさんと、アルーチェさんの、婚約指輪・・・。
「俺が試練を乗り越えた戦利品として取ったんだ。しかしアイツ等には虫唾が走るよ。俺がお前を倒して、殺された仲間の無念を晴らそうと戦っている時に、子どもなんか作りやがって。あの二人の幸せな顔を考えようとしただけで、頭が痛くなる!」
今・・・なんて・・・?
ファイセアさんと、アルーチェさんに・・・子ども・・・?
「まぁいい。穢れた子種もろとも、俺が絶やしてやったんだから。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あ・・・ああ・・・!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
怒りで痛みも何もかもブッ飛んだあたしは、剣を持ってノイエフに突進していった。
「お前はぁ・・・!!!お前だけはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!あ゛・・・!?」
ノイエフに剣を振り下ろそうとした瞬間、あたしの右胸に藍色の矢がもう二本撃ち込まれて、足元がグラついたあたしは、地面に倒れ込んだ。
「はぁ・・・。はぁ・・・。」
目の前がぼやける。
息が上手く吸えない。
この感覚、前にも感じた?
ああ、そうだ。
前世で通り魔に刺された時だ。
あたし・・・ここで・・・死ぬ?
こっちの世界で、自分のやりたいこと、するべきこと、まだできてないのに・・・。
動け。
あたしの身体・・・!!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ああ、ダメ・・・だ・・・。
全然・・・動かない・・・や・・・。
全身の感覚が完全に消えた時、あたしの視界はブツっと途切れ、意識は闇に沈んで行った。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
◇◇◇
動かなくなったミラを見て、アクメルはフッと微かな笑みを浮かべた。
「第二次ミラ討伐作戦・・・成功。」




