29―ステラフォルト陥落戦②
「・・・・・・・。はぁ・・・」
「どうしたんだヒューゴ?」
「いや、あの二人のことがどうしても気がかりで・・・」
「ミラ殿とリリーナのことか?あの者たちなら案ずることはないと思うが。何せこれまで数多くの苦難を乗り越えてきたのだからな。」
「ええ。それは重々理解しています。しかし、戦況というのは想定外の事態が付き物です。こちらが考えてなかった一手を、敵が用意している可能性は十分にあります。」
「“吸血鬼軍随一の軍師”と言われている其方が言う台詞かそれが。其方が考えた此度の作戦、必ず成功する。ミラ殿とリリーナなら、必ずやってみせてくれる。」
「だと、よろしいのですが・・・」
「そうなるに決まっておる!くよくよ心配することなく、今はこうしてドンッ!と構えておればよいのだっ。」
「・・・・・・・。分かりました。」
◇◇◇
「黎明の、開手・・・。そう・・・。そうなのね。お前が・・・お前達が、ミラお姉様をッッッ!!!」
「あれ?怖がらないどころかブチ切れた?君、中々に面白いねっ。」
「絶対に・・・絶対に許さないッッッッッッッ!!!!!お前を必ず殺して、その血、残さず搾り尽くしてやるッッッッ!!!!」
「おお、コワいコワ~い♪でもね、残念だけど、さっきも言った通り、ここで死ぬのは君の方なんだよ。」
「天級第五位・絶痛絶死ッッッッ!!!!」
「ぐっ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッッ!!!!!!」
「ミラお姉様と同じ苦しみを、存分に味わって死ねッッッッ!!!!」
「ア、アアア・・・ふぅ~。いやぁ、ものすごくキツいね~コレ♪」
「なっ・・・どう、して?この魔能を無効化する方法なんてあるはずがないのにッッッ!!」
「実はあるんだよね~そ・れ・が♪君、この世界で神様の次に力がある存在って何か知ってる?」
「何を言ってるの?」
「分からないの?じゃあ教えてあげるよ。それはね、“時間”だよ。」
「時間?」
「そっ!時間。時間があるからこそ、この世界は歴史を作っていくことができるし、起きた悲劇も忘れて前に進める。人に誰しも平等に与えられている“死”っていう回避不可能な運命も、結局は時間によって引き起こされるものなんだよ。じゃあさ、この時間を好きなように扱うことができるようになったらどうなるのかな?人はね、神様に近いすごい存在になれるんだよ!!」
「その話とさっきアンタがしたことと何の関係があるのよ!?」
「ボクはね、ある魔能を常時自分に対して発動してるんだっ!天級第五位・逆転魔能。魔能が発動した対象物を、魔能が発動する前の状態に戻すことができる効果があるんだ。つまりね、君がボクを殺す魔能をどれだけ放ったところで、ボクはその前の状態に戻っちゃうから、結果的に君にボクは殺せないんだよ。」
「そっ、そんな・・・」
「悔しいよね~。君が怒り心頭でやった攻撃が、結局ムダな努力に終わっちゃったんだから。」
「いいえ、まだよ。」
「ん~?」
ビッ!ブシュウッッッ!!
「何してんの?爪で自分の手首なんか切って。」
「血操師・剣錬成!!」
ビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!!!
「はああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
「へぇ~。魔能が効かないから肉弾戦に打って出ることにしたんだ~。」
ギチ・・・ギチ、ギチ・・・
「でもね、それでもまだまだダメなんだよなぁ~♪地級第一位・先ゆく連撃者。」
ガキン!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・・!!!!
(こっ、こんなの・・・ふっ、防ぎきれ・・・!)
ザシュッッッ!!!
「ぐはぁッッッ!!!うっ・・・!?ぐぼぁッッッ・・・!!」
「あ~あ~あ~!そんなに血吐いちゃって~!貧血なる前にその血の刃、身体の中に戻したら?」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「で、どうだったかな?ボクの時間を先に進めて、攻撃めちゃくちゃしたんだけど。途中まで目で追うなんてすごいよ君!!」
(どうしよう・・・このままじゃ、私、本当に、コイツに、やられてしまう・・・早く、ここから、逃げないと・・・)
「くっ・・・!」
バッ!!
「あれ?逃げるんだ?」
(この防壁魔能だけなら何とか突破できるかもしれない。急いでここから避難して、みんなにコイツのことを報せないと!!)
パッ!
「あ・・・あれ・・・?何で、私、ここに、戻ってる?」
「天級第四位・逆転防壁。防壁に触れた瞬間に前いた場所に強制的戻っちゃうの。勝負の最中に逃げるなんて臆病だなぁ~」
「うっ、ウソでしょ・・・」
「君はここで死ぬんだよ?絶対に逃がすワケないじゃん。」
(い、イヤだ・・・私、こんなところで、死にたくない・・・だって、だって・・・)
『あたし、リリーナちゃんの想いに応えてみせるから。だから一緒に頑張ろ?』
(え・・・?なんで、私、あの人のことなんか・・・記憶を失くした後のミラお姉様のことなんか・・・)
「ッ!?・・・・・・・。ああ、そうか・・・。ホントは私、嬉しかったんだ・・・。」
「ん?何の話してんの?」
(本当は私、ミラお姉様が生き返ってくれて、とても・・・とても嬉しかった。だけど、ミラお姉様の記憶が失くなって、前のように接してくれなくなった事実に目を向けたくなくて、あんな態度を取ってしまっただけなんだ。だから心の中で思うようにした。“これはミラお姉様なんかじゃない”って。だけど、あんな言葉を・・・あんなにも思いやりのある言葉をかけてくれるのは、ミラお姉様しかいないじゃないか。邪険な物言いをしてしまった私を、ミラお姉様は気にかけてくれた。元気づけようとしてくれた。それなのに、私は・・・私は・・・!!)
「はぁッッッッ!!!!」
ゴォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!
「まだやる気なようで良かったよ。だけどさぁ、ボクに魔能は効かないんだよ?」
「分かってるわ。だったら、ステラフォルトごと吹っ飛ばしてやるわ!!」
「は?」
「ボケっとしてないで、空を見てみたら?」
「ッッッ!!なっ、何アレ!?巨大な、炎の輪!?」
「あれを落としたら、当然アンタだってタダじゃ済まないんじゃないの?」
「まっ、待ってよ!!そんなの君だって同じでしょ!?自分ごとボクを倒す気?」
「いらない心配を、どうもありがとう。でも大丈夫。私にはダメージが入らないようになってるから。」
「ッッッ!?ちょ、ちょっと待てよ!!何もそこまでする必要ないだろ!?ねっ。今日のところは逃がしてあげるからさ、ここは穏便に済まそうよぉ~」
「言ったでしょ。絶対に殺してやるって。」
「ッッッ!?りっ、リリーナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
(ミラお姉様、ごめんなさい。私、あなた様にあんな酷いことを言ってしまって・・・私はもう、目の前の現実から目を背けたりなんかしません。私は、ミラお姉様がどんなに変わってしまっても、変わることなく愛し続けますッッッ!!!たとえ何十回死んでも、何百回記憶を失くして生き返ってもあなた様への愛を貫き通しますッッッ!!!私はこれからも、あなた様の愛しの妹の、リリーナで、在り続けて、みせますッッッッッッッ!!!!!!!)
「天級第五位・堕ちる紅焔ッッッッッッ!!!!!」
「よっ、止せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「うぉぉあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!」




