287―執着と決着
威勢のいいセリフを言ってのけたあたしのことを、ソル・ヴェナは鼻で笑ってみせた。
「フン!つまらぬ虚勢を張りおって。今のお前が我に敵わぬことは、もはや覆らぬ事実よ。」
「ハッタリだと思うんなら勝手にそう思ってれば?結果はまだ見えてないのに、随分とめでたい脳ミソしてるんだね。」
「何ぃ・・・?」
あたしの挑発にカチンときたソル・ヴェナは、牙を剥き出しにして威嚇してきた。
「さっきまでのアンタの行動を見てよ~く分かったよ。アンタは本気であたしを殺しにかかってる。それは何故か?それだけ知りたいってことでしょ?あたしが以前のミラのままでいるか・・・。だったら見せてあげるよ。アンタをブチのめしてね。」
あたしは自分の中をめぐってる魔力を、最大まで引き出した。
そして行なったのが・・・。
「地級第一位・全回復、天級第五位・狂星の剣、天級第二位・脈動の叡智者・・・常時発動。」
“高位、超高位魔能の複数同時固定発動。”
「なっ・・・!?これは・・・。」
さっきまで明らかに気配が段違いになったあたしを見て、ソル・ヴェナの顔に初めて緊張が走った。
「アンタはあたしを殺しにかかった・・・。だったらあたしも、本気で相手をさせてもらう。アンタの殺意に、吸血鬼の救世主に相応しい力と手数の多さを以って、とことんまで抗ってやる。」
「面白い・・・。やれるものなら、やってみろ!!ミラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
翼の刃の連続攻撃を浴びせてきたソル・ヴェナの動きを、脈動の叡智者で完璧に見切ったあたしが次々といなしていき、狂星の剣で逆に翼をバラバラにしていく。
「それで全て見切ったつもりか!?だが我の動きはまだまだこれほどのものじゃないぞ!!」
ソル・ヴェナは傷ついた翼を瞬時に再生させ、脈動の叡智者の読みの隙間をぬって、あたしに攻撃を浴びせてきた。
刃翼の叩きつけ、槍尾での突き刺し、etc.
攻撃を食らう度にあたしの身体に穴が開き、指や足といったパーツが吹っ飛んでいく。
「残念だったね。」
「何?」
「やられる端から治っていくのは、アンタの専売特許じゃないっつうの!!」
「ッッッ!!!」
常時発動になっている全回復で傷は詠唱無しに治癒していき、同時に常時発動になっている魔能のおかげで、すぐさま反撃に転じることができる・・・。
気が付けばあたしとソル・ヴェナの戦いは、お互いの身体を文字通り削り合う熾烈なものへと変化していった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
あたしの身体を傷つけ、その後すぐに傷ついていくソル・ヴェナ。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ソル・ヴェナからの攻撃を食らい、そのダメージをオート治癒して反撃していくあたし。
いつしかあたし達の戦いの余波のせいで、周囲の岩盤は砕け散りだした。
その頃には、あたしとソル・ヴェナは息が上がって、一旦間合いを取って見合っていた。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!はぁ・・・!!」
「ふぅ・・・!!ふぅ・・・!!ミラ・・・!!」
「何!?」
「今の・・・お前・・・からは・・・!!凄まじい・・・生への執着を・・・感じる・・・。何故、そこまで、生きようとする?何故、そこまで・・・諦めようとせぬ?」
「そんなの・・・決まってんじゃん・・・!!あたしには・・・大切な仲間・・・友達を救うっていう、とっても大切な役目が・・・あるから・・・!!だから・・・あたしは・・・!こんなところで死んだりなんか、しないッッッ!!!生きて帰って、必ずその役目を・・・果たすッッッ!!!」
「ッッッ!!!」
ソル・ヴェナは一瞬驚いた表情を浮かべ、その後とても穏やかな顔付きになった。
「そうか・・・。我の、欲する証明は・・・ここで、手にされた・・・。」
次の瞬間、ソル・ヴェナはあたしに向かって体当たりをしてきた。
あたしは一瞬身構えたけど、次に彼がとった行動は思いもよらぬものだった。
「え・・・!?ちょっ・・・!?!?」
何とソル・ヴェナはあたしの胸に飛び込んできて、前足であたしを包み込んだ。
「会いたかった・・・!!会いたかったぞミラッッッ!!!我が兄弟よッッッ!!!」
あたしを抱きしめておいおいと泣くソル・ヴェナに、あたしは混乱しまくって頭がパンクしそうになった。
何コレ・・・?
一体、どういうコトぉ・・・?




