27―進軍開始前日
「全員揃ったな。ヒューゴ、私に教えた作戦内容を皆にも教えてもらえぬか?」
「分かりましたイヴラヒム様。ではこれより、私が考案した明日のステラフォルトへの進軍方法をお伝えします。」
「・・・・・・。」
「ミラ様、大丈夫ですか?お顔が優れないようですが?」
「うんっ?あっ、大丈夫だよセドヴィグさんっ。明日のことでちょっと緊張してるだけだから。」
「そうですか・・・?」
「うん!それだけだからっ。ゴメンねヒューゴ君、話の腰折っちゃって。」
「いえ、ご気分が宜しくないようでしたらご無理をなさらないで下さい。」
「ほっ、ホントにそんなことないから気にしないでっ。ほら、早く教えて?」
「かしこまりました。まず最初に、砦への直接攻撃は少人数で行なってもらいます。」
「少人数?」
「ええ。そうすれば兵の動きの小回りが利きますし、向こうもそんな規模で攻め込んでくるとはとても思っていないでしょうから。」
「しかしヒューゴ様、ステラフォルトの守りは人間軍の拠点の中でも随一。小規模の兵力で攻め落とすことなどさすがに不可能ではないでしょうか?」
「そんなことなどとうに考えがついておる、セドヴィグ。そこで絶対に攻め落とすことができる者達にこの役目を担ってもらうのだ。」
「そっ、それって、まさか・・・!?」
「その通りです。砦への攻撃は、ミラ様とリリーナに行なってもらいます。」
「あっ、あたしに?」
「当初の予定では、リリーナとイヴラヒム様が選抜した精鋭部隊の方々にお任せすることになっていたのですが、ミラ様がご帰還なされたことで、より少数かつより高戦力なお二人に変更することを決めたのです。それでお二人が砦の主要戦力を叩いた後、イヴラヒム様が指揮する本隊が正門から侵入し、一気に制圧、という流れになっております。」
「なるほどぉ~。確かにこの方法なら、場合によってはこちらの犠牲をゼロで砦を攻め落とすことができるでしょう!」
「いかがでしょうかミラ様。ミラ様であれば、おそらく問題ないとは思うのですが、やっていただけないでしょうか?」
「うん、分かった。みんなの安全は、あたし達でなんとか確保するから。」
「ありがとうございます!では、その方向で作戦を・・・」
「ヒューゴ、悪いけど砦に入るのは、私一人でやらせてくれない?」
「えっ?どうしたのですかリリーナ。ミラ様との作戦、普段のあなたでしたら喜々として臨むはずでしょう?」
「見たら分かるけど、ミラお姉様は記憶がなくて魔能の使い方もまだ本調子じゃないから、そんなリスクの高い役割は負担が大きい気がするんじゃないの?だったら私一人でやった方が成功率が高い気がしない?」
「リリーナ、様?」
「確かに、あなたの言い分も分かります。しかし、ミラ様のここに来る前の功績、そして未だ不確定要素が残る向こう戦力を鑑みれば、やはりあなた一人で任せるのは不安があります。万が一こちらの想定外の事態が起こった場合、カバーできる戦力を用意しておいた方がいいと思いますよ?」
「ヒューゴは心配性なんだよ。あんな砦、私一人で全然落とせるし。」
「何言ってるんですか!そういう慢心は致命的な命取りに繋がります。悪いですが、あなたの提案を受け入れることはできません。」
「・・・・・・・。分かったよ・・・」
「リリーナちゃん・・・」
◇◇◇
ガチャ・・・
「あっ、ミラ様。どうでしたか?明日の進軍計画。」
「うん。あたし、砦を攻め落とす大役を任されちゃった。」
「本当ですか!?すごいですね!!」
「プレッシャー半端ないんだけどね・・・」
「ご安心下さいっ!私が精一杯サポートさせて頂きますからっ!」
「いやごめん。砦に侵入するのはあたしとリリーナちゃんの二人だけってなったから。」
「そうですかぁ・・・でもリリーナ様とご一緒だったら私としても心配することは何もございません。」
「そうなん、だけどさぁ・・・はぁ・・・」
「ミラ様、どうかなさったのですか?」
「あたし、あの子に関わるべきじゃないのかなぁって・・・」
「どういうことですか?」
「あたし、生き返ることはできたけど、記憶がなくなって中身は全く違くなっちゃったから、あたしのことをあんなに大好きだったあの子にめちゃくちゃひどいことをしちゃったんじゃないのかなって・・・だからあたし、これ以上リリーナちゃんと一緒になっちゃいけない気がして・・・」
「・・・・・・・。ミラ様、不躾な言葉で大変申し訳ないのですが、今のミラ様はリリーナ様のことを好いてはないのですか?」
「えっ!?そっ、そんなことないよ!確かに好きって気持ちが激しくてちょっと困っちゃうけど、でもあたしも、あの子のこと好きになりたいし、もっともっと一緒にいたいって思ってるよ!!」
「ならばそのお気持ちに、正直になればよろしいのではないのですか?」
「気持ちに、正直?」
「ミラ様がそう思ってるということは、たとえ記憶をなくされても、その心に、リリーナ様を大切にしていたかつてのミラ様の感情が残っている確かな証です。これは私の持論なのですが、人が人を想う気持ちは、どんなに記憶を失っても、その身体に、その血に、その心に絶対にいつまでも残り続けると信じています。なのでミラ様は、その気持ちに身を委ねればよろしいと思いますよ。その内リリーナ様もミラ様のそのお気持ちに気付いて・・・いや、もしかすると、リリーナ様のことですからミラ様のそのお気持ちにとっくに気付いているかもしれませんよ。だってあの方は、ミラ様の妹分だったお方なのですから。」
「グレース、ちゃん・・・」
「すいません。私のような者が、ミラ様にこのような失言をしてしまって・・・」
「いや、全然そんなことないよ。でも正直、ちょっと悔しいかな?」
「悔しい、ですか?」
「だって、グレースちゃん励ますのめっちゃ上手くなってんだから。これじゃあ立場逆転だよ。」
「わっ、私の言うことなんかミラ様の素晴らしいお言葉に比べるまでもないですよぉ~!」
「え~そうかなぁ~?ホントは“あっ、今すごくいいコト言った。”ってドヤってるんじゃないのぉ~?」
「ドヤってる?なんですか、それ?」
「いい気になってるってことだよ。で、どうなの?正直。」
「めっ、滅相もない!!お戯れも程々にして下さいよぉ~!!」
「えへへ~♪ゴメン~♪」
◇◇◇
カチャ・・・カチャ・・・
「ではミラ様。武装の方が完了しましたら、街の大門にお越しください。」
「分かりました。」
ガチャ、バタン・・・
「あっ、これはこれはリリーナ様。」
「私の装備をここで着るようにって言われたんだけど。」
「はい、こちらにございます。では私はこれで失礼いたしますっ。」
ガチャ、バタン・・・
「リリーナちゃん・・・」
「早く着替えましょう。出陣まであまり時間がないので。」
カチャ・・・カチャ・・・
「リリーナちゃん。」
「何ですか?」
「あたし、リリーナちゃんの想いに絶対応えてみせるから。リリーナちゃんが好きになった、本物のミラに、必ずなってみせるから。」
「・・・・・・・。」
「じゃああたしは着替え終わったから先行くね。今日は一緒にガンバろうね、リリーナちゃん!」
ガチャ・・・バタン!
「・・・・・・・。」
『お互い一緒に頑張りましょう。私も、あなたの期待に必ず応えてみせますからね、リリー。」
「・・・・・・・。なんで、覚えてないクセに、同じことを言うの・・・?」




