263―メルフ陸海戦⑤
出撃開始のメッセージを受け取った私達は、直ちに島に向けて船を進ませた。
すぐ向こうでは、ミラ様がたった一人で加勢に来るはずだった敵の艦隊を足止めしている。
あれほどの強大な魔能をたった一人で操り、敵を蹂躙してしまえるのだから、やはりあの方の力は凄まじい・・・といったところか。
敵がミラ様に苦戦・・・いや。
一方的にやられているおかげで、私達は拍子抜けするくらい楽に島の港に着岸することができた。
「よし、着きました。全員、私の後に続くように。」
配下の兵士およそ100人を率いて、私は敵の本丸であるメルフ砦島へと上陸した。
港には控えの兵士はおろか味方すらいなかった。
皆、ミラ様を迎え撃つために借り出されてしまったのだろう。
「キャッホぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
まるで海で遊戯に興ずる子どものように、ミラ様は魔能で海水から生み出したクジラの化け物に乗って、艦隊を圧倒している。
私達が、敵の指揮系統停止という重要任務を与えられている側で呑気な物である。
力を持つ者には分からないでしょうね。
私達の苦労なんて・・・。
でも何故だろう?
あんなミラ様を見て、羨ましいと思う自分がいた。
私もあんなに強かったら、彼も、残って、くれたのかな・・・?
「執将様、どうかしましたか?」
ミラ様を眺める内に、ボーっとしていた私は、またもやオーストの呼ぶ声で我に返った。
「なんでもないです。行きましょう。」
気を取り直した私は、再び皆の先頭に立って、敵の本部へと続く階段を駆け上がった。
何をしているの私。
今は余計な考えなんか捨てて、作戦に集中しなきゃでしょ。
山の上に向かって真っ直ぐ伸びている階段を駆け上っている内に、本部の門が見えてきた。
その瞬間、私は手をパッと上げて、後ろの兵士達を制止した。
門兵が2人、立っていたからだ。
「どうしましょうか?」
小さな声で、オーストが尋ねてきた。
相手は2人。
制圧が不可能なことはまずないだろう。
だがミラ様から錬成を教えられた、敵を殺さず無力化する剣を、皆はまだ使いこなせていない。
制圧に手間取って、中に控えている残りの敵兵が駆けつければ、襲撃態勢は総崩れだ。
よし、ここは・・・。
「私が魔能を行使しながら先陣を切ります。全員は後援を頼みます。」
「ですがそれでは、執将様にご負担が・・・!」
「私のことは構わず。指示に従いなさい。」
「ぐっ・・・!分かりました!」
オーストを制すると、私はまず門兵を無力化するために、彼等の前に姿を現した。
「なっ、何だお前!?」
「敵襲か!?」
「あなた達なんかには答えません。少し痛い目に遭ってもらいます。」
そう告げると、私は森全体に魔力を響かせるように流した。
「地級第一位魔能・生き物よ我に。」
次の瞬間、森の中から無数の地虫や羽虫が現れて、門兵達に纏わり付いた。
「ひぃ・・・!!何だよこりゃ!?!?」
「止めろ!!頼むから離れてくれぇ!!!」
大量の虫に体を埋め尽くされ、門兵達は身動きが取れずその場でうずくまってしまった。
「今です!!突撃!!」
これを好機と見た私達は門に向かって一斉に走り出した。
「てっ、敵襲!!」
「総員迎撃!!」
私達の存在を知った敵兵達が、武器を構えて迎え撃とうとしてきた。
しかし私達が踏み込む直前に、森の脇から猪や鹿、熊などの獣が飛び出してきた。
「押さえろ!!」
獣達は、私の命令に従って、敵兵達に突進したり、噛み付きながら地面に押さえつけた。
これが私が、子どもの頃から得意にしている魔能、“生き物よ我に”
自然界に生息する動物を、意のままに操ることができる。
私の制御下になった獣達によって、本部内は完全に混乱状態と化した。
「弓隊構えぃ!!」
本部の2階の塀から、敵の弓兵達がこっちに向けて矢を構えていた。
「撃てッッッ!!!」
「ちっ・・・!防御!!」
私が命じると、敵兵を襲っていた熊達が、弓兵を背にして壁になってくれた。
「なっ・・・!?」
「諦めの悪い連中ですね。墜撃!!」
空を飛んでいた鷹や鷲、フクロウが弓兵に向かって急降下してきた。
「うわぁ~!!」
「この・・・!!止め・・・ああっ!!」
弓兵がやられた時点で、ここの護りは完全に機能を失った。
「総員、司令部に向かいましょう。これで王手です。」
獣達が敵兵を襲っている間に、私達は悠然と総司令官である摂政の許へ向かった。
司令部のドアを破り押し入ると、司令の席で摂政が怒りで顔を紅潮させながら座っていた。
「ローマン公国摂政・スマテト=ヴァシレアス様。ごきげんよう。わたくし、東方吸血鬼軍執将のソニアと申します。単刀直入ですが、この島を・・・攻め落としに参りました。」




