259―メルフ陸海戦①
指定された戦場まで行ってみると、敵が既に待ち構えていた。
待っている手間が省けたわ。
これならできるだけ時間を短縮できそうね。
正直・・・こんな女たらしな人間のお守りなんて早く終わらせたいもの。
でもミラお姉様に期待されてる分、頑張らなくちゃ♡♡♡
「りっ、リリーナ様!!来ましたぞッッッ!!!」
ローマン公国の防衛大臣が慌てた様子で話しかけてきた。
「何怖がってるの?多分あの数、1000もいかないわよ。」
「しっ、しかし・・・それでも数が多すぎます!!」
「だから大丈夫だって。それより・・・そっちの注文は確か、敵味方問わず犠牲者ゼロ・・・だったわね?大公陛下。」
「そっ、そうだが・・・。」
「でもあなた達の武装を見る限りじゃ、非殺傷用ってワケじゃなさそうね。」
大公は自分と部下の装備を見て、深く唸った。
「う~ん・・・さすがに木剣では攻撃した瞬間に敵の鎧に折られると思ってな・・・。」
「アンタ達なんかにさすがに敵の急所を避けて攻撃する技量の持ち主なんかいるとは思えないし・・・。仕方ない。私が先陣切るから、アンタ達は後ろで援護して。」
「単騎で攻撃するのか!?そんな無茶な・・・!!」
「心配いらないわ。私・・・もっとたくさんの数相手にしたことあるし。」
押し問答している間に、ゆっくり前進していた敵が急に走ってきた。
どうやらこっちの大将に気付いたのね。
「考えてるヒマなんかないわ。さっ!行きましょう!!」
結論が出ないまま、私が敵に向かって突進した。
「なっ・・・!ええい仕方ない!!者共!!彼女に続けぇ!!!」
ようやく決心がついたようだ。
女には迷いなく告白するのに、戦場では優柔不断ね。
「なんだ!?女一人か!?」
「でもよく見ろあの瞳に牙・・・吸血鬼だ!!」
「これはいい!殺して血を頂いてやろうぜ!!」
いい反応するわね、摂政軍は。
だけど私の血は・・・アンタ達なんかには一滴もくれてやらないから!
「ふん!!」
私が杖を一振りすると、何十人もの敵兵が吹き飛ばされて気絶した。
「なっ、何だコイツ!?」
「ただの吸血鬼じゃないぞ!!バカ強ぇ・・・!!」
今更になって気付いたの?
もう遅いわ!!
私が杖を振る度に、敵は吹き飛ばされ、後ろの味方が前進する道が開ける。
でも参ったわぁ~。
これでも手加減している方なんだけど、加減を掴むのが結構難儀ね。
でも!!
ミラお姉様だったら、これくらいそつなくこなしちゃうんだから、私も慣れなくちゃ!!
「すごいですね陛下!!リリーナ様、ほぼ全ての敵兵をたったお一人で・・・!!」
「ああ!自慢の妹分というのは伊達ではなかったようだ。ミラもこんな・・・美しく強い妹を持って鼻が高いだろう。あとで彼女の活躍を大いに語ってやらんとな!」
え!?
そっ、そんなこと言ってくれるなんて・・・。
この人間・・・。
中々に見どころがあるわね♡
「リリーナ様ぁ!!停泊中の艦隊から敵の増援がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
向こうを見ると、浜の方から更に多くの敵がワラワラやってきた。
おそらく敵の本部にもこっちの状況が知れて、控えの兵達も投入してきたのね。
いいわ。
まとめて相手してあげる!
私は浮遊魔能で宙に浮いて、敵の頭上まで行って停止した。
「乙女の永友が一角、“忠愛の花・リリーナ”の技、とくとご覧なさい。」
私は敵の方に杖の先を向けて、先端に魔力を一点集中させた。
「最高昏睡・全範囲!!」
詠唱の直後、突進してきた敵兵のほとんどが卒倒して動かなくなった。
「あなた達は倒れた敵を急いで拘束してッッッ!!!」
「リリーナ様は!?」
「私は後ろを片付けるッッッ!!!」
後のことを大公達に任せて、私は浜で立ちすくんでる敵の前に降り立った。
「なっ、何なんだお前は!?」
「あれほどの数の兵をたった一人で・・・一体何者だ!?」
「あなた達に答えることはないわ。逆にこっちから質問。あなた達・・・バッタって苦手?」
言ってる意味が解らないという顔をする敵の前で、私は杖を浜辺の砂に突き立てた。
「地級第一位・砂蝗の嵐!」
次の瞬間、砂浜から砂でできたバッタが無数に飛び立って、塊になって敵に襲い掛かった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「くっ、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
無数のバッタに群がれて、敵は完全に戦意喪失してしまった。
「地上戦力無力化完了っと♪私の実力のおかげで短時間で済んだわね。あとはあの人間がミラお姉様に私の活躍を吹聴してくれたら、私はミラお姉様と温泉であんなことやこんなことを・・・♡♡♡デュフフ♪楽しみだわぁ~♡♡♡」
ミラお姉様からのご褒美を想像したら、私はヨダレが止まらなくなってしまった。




