254―ロクデナシ大公
「皆様!あれがローマン公国の首都、“イスラド”です!!」
丘を越えると、海沿いの大きな街が見えた。
街の数ヵ所からは湯気が立ち昇っていて、温泉の名所であることが窺える。
今日あたし達は、改めての内戦干渉の申し出と具体的な方針を立てるために、ローマン公国の大公、つまり王様のところに挨拶に出かけた。
ちなみに今回は、みんな馬での移動だ。
禍狼種である白丸と茶々助は、人間の街ではさすがに目立つから・・・。
「あっ!少々お待ちを!」
街まであと少しというところで、オーストさんがあたし達を引き留めた。
「どうかしましたか?」
「これから向かう首都なんですが、中には大公の吸血鬼擁護論に反対している者もいます。なるべく騒ぎを起こしたくないので、全員吸血鬼であることを悟られないよう、フードを目深に被ってお進み下さい!」
「待って!!そんなことよりもっと効果的な方法がありますよ!見てて下さい!!」
そういうとあたしは、擬態魔能で人間の姿に化けた。
「おお!異種擬態ですか!!これほど高度な術を見るのは初めてです!!」
「みんなにもかけてあげますよ!!」
そういってあたしは、順番に同じ魔能をかけて、人間の姿に変身させた。
「ッッッ・・・!」
ソニアさんに魔能をかけようとしたら、昨日のヒューゴ君とのやり取りがフラッシュバックして、かざした手がピタッと止まった。
「どうかしましたかミラ様?」
「んっ!?あっ・・・ううん別に!!何でもありません!!」
気を取り直してあたしはソニアさんに魔能をかけてあげた。
「これで準備万端だね!!さっ!行こう!!」
身バレ・・・いや、種族バレ対策もバッチリしたところであたし達はローマン公国首都、イスラドの門をくぐった。
建物は全て石のブロックを重ねたような造りをしていて、そこを古代エジプト人が着ていた服に似てる格好をした人達が行き交っていた。
「イスラド名物、オオヅノウミガメ甘辛揚げだよ~!!良かったらお一つどうぞ~!!」
へぇ~あんなのあるんだ~。
テイクアウトしよっかな~?
「精力付けるんだったらこれが一番!!旦那さんへの土産に買ってって~!!」
げっ!!
あれスッポンみたいなモンなんかよ!?
ギョッとしてると、横にいたリリーが目をキラキラさせてこっちを見ていることに気付いた。
「ミラお姉様。今晩アレ食べま・・・」
「買わないからね!」
「ううっ~!!殺生なぁ~!!」
「皆様~!!もうすぐですよ~!!」
ハッと前を見ると、目の前に立派な石造りの宮殿が堂々と建っていた。
どうやら大公様の住まいに到着したようだ。
「わたくしは衛兵の者と話を通して参りますので少々お待ちを。」
オーストさんが話を付けてる間に、あたしは周囲をキョロキョロ見回した。
“庭園浴場”、“洞窟浴場”、“海岸浴場”かぁ~。
ホントにここって有名な温泉地みたいだな・・・。
仕事が終わった後でいいから、色々と巡ってみたいなぁ~♡
と、その時、馬に乗って待ってるヒューゴ君とソニアさんの姿が目に入った。
あれから、二人の間にプライベートな会話は一切ない。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
もしかしたら本物のミラは、ヒューゴ君と東方吸血鬼の人達の仲を引き裂くようなマネをしてしまったのかもしれない・・・。
そう考えると、無性に罪悪感に駆られてしまう。
だって・・・今はあたしが、ミラなんだから。
二人を仲直りさせるのは、あたしの責任なのかもしれない。
でもどうやって?
どうやって二人の仲を取り持つ?
そもそもあたしに、そんなことできるんだろうか・・・?
「話を通してきました!!」
「ミラお姉様?行きますよ?」
「えっ?うっ、うん!分かった!」
ボーっと考えてる間に話はまとまり、あたし達は宮殿の敷地内に足を踏み入れた。
馬を預けて宮殿の中に入ってみると、中はたくさんの花や噴水で大層華やかだった。
「ようこそお越し下さいました。ソニア殿。」
「アウヴァ様。」
宮殿の玄関であたし達を、40代前半くらいの色黒の人が出迎えた。
「紹介します。こちら、ローマン公国防衛大臣のアウヴァ=ユーヴォス様です。アウヴァ様、こちらは救血の乙女・ミラ様です。」
「ではあなたが・・・。お会いできて大変嬉しゅうございます!」
いきなり握手されて若干戸惑った。
どうやらこの国では、救血の乙女はウェルカムらしい・・・。
「こっ、こちらこそ・・・よろしくお願いします!!」
「そうお固くなさらずに。さぁ、こちらです。」
あたし達は、アウヴァさん案内の元、宮殿の客間に通された。
「へぇ・・・。これは・・・。」
客間の内装もとっても綺麗で、天井をすんごく高く、とても応接室には見えないものだった。
「すぐに陛下をお呼びしますので少々お待ち下さいませ。」
そう言ってアウヴァさんは部屋を後にした。
そういえば、ここの大公様ってどんな人なんだろ?
ヴェル・ハルドの王様みたいな人だったら話しやすいんだけどな。
気難しい性格でなければいいんだけど・・・。
「はぁ・・・。」
ん?
今ソニアさんため息ついた?
「大公殿下、お連れ致しました!!」
アウヴァさんが連れて来た人を見て、あたしは呆気に取られた。
入ってきたのは・・・頭に冠を被って、立派な白い衣装に身を包んだ、見た目は10代後半。つまり見た目はあたしとほぼ同い年くらいの、中々にイケメンな男の子だった。
ただ、一つ問題があった。
両手に美女同伴だったということ・・・。
「やぁソニア。愛しの同盟者よ。それで、私に話ってぇ〜・・・何かな?」




