244―ヴェル・ハルド王国滅亡⑧
「っしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
巨大朽鬼フィアナを倒すべく、あたしは飛行する彼女の身体の上を、頭部に向かって全力でダッシュした。
すると間もなく、あたしのことを弾き落とそうと、何十本もの朽鬼でできた触手が生えてきて襲い掛かってきた。
「うおりゃ!!はっ!!それッッッ!!!」
襲ってくる触手を悉く斬り飛ばしていくが、頭部に近づくにつれて触手の本数が増えてくる。
どうやら是が非でもあたしに倒されたくはないようだ。
「そっちがその気なら・・・こっちもブーストかけるよ!!風刃の猛進!!」
風の刃を全身に纏ったあたしの前では、朽鬼の触手は近づくだけでバラバラになっていく。
「よし!!このまま頭まで一直線・・・ッッッ!!!」
順調に行くかと思ってたその時、今度は背中から8mくらいの、やや大型の朽鬼のフィアナが10体出てきた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ギガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「あぐっ!?」
そいつらは両腕が鎧をグチャグチャにすり潰して作ったかのような歪なブレードになっていて、あたしが全身に纏った風の刃ごと弾き飛ばしてきた。
弾かれたあたしは巨大朽鬼フィアナの身体をゴロゴロと転がり、危うく落下しそうになったが、どうにか崖っぷちのところでストップした。
「コノサキ、イケナイ!ミラサマ、ワタシ、タオセナイ!!」
「シンノキュウサイ、ミトドケル。キュウケツキノ、リソウキョウ。」
ガード朽鬼フィアナが、笑いながら口々にふざけたことを抜かしてくる。
「へっ!!今の内に言ってろ!!どうせできやしないんだから!!」
「グッ!?ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」
あたしが挑発すると、ガード朽鬼フィアナみんなが、ものすごい怒りの表情を向けてきた。
「認めるのがイヤ?なら出し惜しみすることなく妨害してみろよ。あたしなら、それを全部破って、このデカブツの脳みそ、つまりアンタんところまで行ってやるから。」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ほざけぇ~!!」と言わんばかりに、ガード朽鬼フィアナがブレードを構えて一斉に向かってきた。
あたしは右手に持った剣を大きく振る予備動作に入った。
天級第五位・三日月の破刃!!」
月明かりが剣に集約されていき、勢いよく振った途端、剣から三日月状の大きな斬撃が飛び、全部のガード朽鬼フィアナの上半身と下半身が真っ二つになって、真っ逆さまになって落ちて行った。
余計な敵を片付けたあたしは再び頭部を目指した。
そしてついに首の辺りまでたどり着くことができた。
「よし!!あとちょっ・・・」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
突然本体が凄まじい咆哮を上げたと思ったら、今まで使ってなかった右手を伸ばしてきて、あたしを捕まえた。
「クッソ・・・!!!離せッッッ!!!」
あたしは何とか振りほどこうとしたが、巨大朽鬼フィアナはあたしを顔の前まで持ってきて、ニヤリと笑った。
「なっ、何・・・?あっ、ああっ・・・!!」
後ろを振り返ると、あたしの領地が遥か向こうの方角だけど見えた。
もうこんなところまで・・・。
「グッ!グッ!グッ!グッ!」
巨大朽鬼フィアナが大きく低い声で笑うと、おでこの部分が開いて、中に入ってた脳みそ・・・つまりフィアナ本体が露わになった。
「残念でしたね。私の勝ちです。あなたは結局・・・誰も守れなかった。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「っざけんな・・・。」
「はい?」
「これ以上、アンタに・・・アンタみたいな“自分の考え押し付けクソ活動家”なんかに、あたしの大切な人を殺されてたまるか!!救世主を・・・なめるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そう叫ぶと、あたしは自分のことを握っていた巨大フィアナの右手を風の刃でバラバラに吹き飛ばした。
「ッッッ!!!」
巨大朽鬼フィアナはヤバいと思って頭を胴体に引っ込めようとしたが、あたしは決して逃がさなかった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あたしが繰り出した紅蓮の剣筋は、巨大朽鬼フィアナの頭を横に真っ二つにし、脳が入ってる上半分は地面に向かって落下していき、脳を失った身体は空中分解した。
あたしは巨大朽鬼フィアナの身体がバラバラに散るのを見届けて、脳が入った部分が落下した地点に降りて行った。
「あれ!?」
頭の中にフィアナは入ってなかったが、辺りを見回すと地面を這いながら一生懸命逃げようとする彼女の姿があった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!」
「フィアナちゃん。」
「ッッッ!!!」
あたしがフィアナちゃんに剣を突き付けると、彼女は近くにあった岩に背中越しにもたれかかった。
「どうやらあたしの勝ち・・・みたいだね。アンタのねじ曲がった理想は、これで・・・終わり。」
「どうして・・・。」
「ん?」
「どうして心変わりをしてしまったんですか!?私の知ってる、以前のミラ様は、吸血鬼を救うためならば、人間に対して容赦をすることはなかったじゃないですか!!なのに何で、“人間と吸血鬼がともに歩める世を作る”という、腑抜けた理想を掲げるようになったのですか!!以前のミラ様だったら、私の考えを・・・こんなにも全否定することなんか、なかったはず・・・!!」
「聞いてると思うけど、あたしは甦ったショックで記憶を失ったの。主義や思想が変わるのは当たり前。それに、前のあたしがアンタの考えに賛成してくれるとは正直思えないけどね。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「違う・・・。」
「違うって、何が?」
「本当は甦ったショックで記憶を失ったんじゃない!!甦る時に、ミラ様じゃない誰かが、ミラ様の身体の中に入り込んだんだ!!お前はミラ様なんかじゃない!!本物のミラ様だったら、絶対に私の抱く理想に絶対賛同してくれるッッッ!!!お前・・・誰だ!?ミラ様を・・・ミラ様を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
鬼のような形相で襲って来たフィアナちゃんの首を、あたしは何も言わず斬り飛ばした。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「フィアナちゃん・・・最後の最後で、痛いトコ突く捨てゼリフ、遺すんじゃねぇよ・・・。」
ピピッ!
「はい、もしもし。」
(ミラ様!!グレースです!!オリスギリアム・・・突破されましたッッッ!!!言われた通り、できるだけ多くの人を連れて、ミラ様の領地に避難します!!)
「分かった。ちょうど近くまで来てるからさ、受け入れ準備・・・始めとくわ。」
(それでミラ様!!王都はどうでしたか!?大事ありませんでしたか!?)
・・・・・・・。
・・・・・・・。
(ミラ様?どうなさったのですか!?ミラさ・・・)
グレースちゃんとの通信をガチャ切りして、あたしはしばらくその場に立ち尽くした。
こうしてヴェル・ハルド王国は、たった一人の歪んだ理想を持った少女の手によって・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
滅亡した。




