242―ヴェル・ハルド王国滅亡⑥
片腕を斬り飛ばされたフィアナの絶叫は、王室中に響き渡った。
「ああっ・・・!!うっ、腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
落とされた腕の断面を必死に押さえて、フィアナはあたしから距離を置こうとした。
そんなフィアナに、何も言わず、ただゆっくりと歩み寄るあたし。
「みっ、ミラ様・・・!!止め・・・」
「全回復。」
「え・・・?」
あたしがかけた魔能の効果で、フィアナの腕はあっという間に再生した。
「あっ、ありがとうございますミラ様・・・!!お慈悲をかけてくれ・・・ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
お礼を言ってくる前に、あたしは今度、フィアナの右足を斬り飛ばした。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「全回復。」
足が無くなってのたうち回るフィアナに、再び魔能をかけ、無くなった右足を再生させた。
「みっ、ミラ様ッッッ!!!一体・・・どういうつもりなんですか!?!?」
「言っただろ?“手加減しない”って。」
「へ・・・?」
「あっ、具体的なこと言わんかったわ。“手加減しない”つっても、あたしは別に、アンタのことを殺そうだなんて思ってない。それは自分の誓いに反することだからね。だから今から、こうやって、アンタをズタズタにしていって、その度に治してを繰り返す。もちろん、あたしの気が済むまで・・・ね。」
「そっ、そんなぁ・・・!!」
「アンタはあたしを本気で怒らせた・・・。むしろこれくらいで済んでラッキーだったと思って欲しいね。ほら、じゃあ次いっくよ~。爆散。」
「あぎゃ・・・!?あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
尻餅を付くフィアナの左目を、正確に狙って魔能で潰した。
「だっ、代表・・・!!」
「アーヴェン・・・。助けて・・・!」
「救血の乙女様!!どうか・・・お止め下さいッッッ!!!」
「望むべき帰還。」
剣を持って止めようとするアーヴェンを、あたしは魔能を使って故郷に強制送還させた。
「アーヴェン!!」
「関係ない奴には生まれた場所に帰ってもらうわ。感染対策してるんだったら、朽鬼の群れの中に出てきても大丈夫っしょ。」
そう言いながらあたしは、フィアナの潰れた左目に“全回復”をかけて治した。
「さて、次は何をしようか?耳を落とす?鼻を削ぐ?それともはらわたをほじくり出そうか?」
「どうして・・・。」
「ん~?」
「どうして分かってくれないんですか!?吸血鬼の未来は、もはや風前の灯火です!!このままいけば、確実に人間達によって絶滅させられてしまいます!!だからこそ・・・だからこそ私の手で保護しなければならないんですッッッ!!!そうすれば、吸血鬼の未来は、明るくなると約束されます!!ミラ様だって、その道を選ばれた方が幸せなんです!!カリアードだって、絶対にそれを望んで・・・」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
この期に及んでまだそんなことを言うフィアナに我慢できなかったあたしは、素早い剣速で彼女の両手両足を斬り落とした。
「お前!!こんだけのことしておいて、まだカリアード君のことが言えたな!!いいかぁ!あたしとカリアード君との間にはなぁ、夢があったんだよ。カリアード君がこの国の偉い人になって、一緒に人間と吸血鬼の子どもが通える学校を作るって夢が・・・。今でも思うよ。今、カリアード君が生きてたら、どれだけ良かっただろうって・・・。きっとあたしと二人三脚で頑張ってくれてたんだろうなって・・・。そんなカリアード君に、お前は自分の身勝手な思想を植え付けて暴走させて、結果彼から未来を奪ったんだよ。あたしよりもカリアード君と付き合いの長いアンタがね!あたしはお前のことを・・・絶対に許さないッッッ!!!こんな大それたマネをしたことを、何が何でも、死ぬほど後悔させてやるッッッ!!!」
フィアナの胸倉を掴みながら思いをぶちまけると、あたしは彼女の四肢を生やして床に叩きつけた。
「どうしてそこまで、カリアードのことを・・・。まさかミラ様!!彼の事を・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「彼の魂は、今もあたしの心の中にある。約束したんだよ。“人間と吸血鬼が共存する世界を見せる”って。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あなたには・・・心底ガッカリしましたよ。」
「は?」
「吸血鬼を解放に導くはずの救世主が、崇高なる理想を余所に色恋に興じ、そして出来もしない夢物語を掲げている・・・。あなたは・・・救世主の器なんかじゃありません。」
「お前・・・いい加減に・・・ッッッ!!!」
フィアナに詰め寄ろうとしたら、彼女は懐から注射器を取り出した。
中身は発光する、赤黒い液体・・・。
「それって、まさか・・・!!」
「ええ。シヴィに使った者と同じです。ですがあれは試作品・・・。こっちが完成品です。これさえあれば、理性を失うことなく救済の神獣の魂になることができるでしょう。」
「それを使って、何する気だよ!?」
「決まっています。役不足なあなたを引きずり下ろすのですよ。」
フィアナはそう言って、首に注射を刺し、中の液体を身体に入れた。
「うぐっ・・・!!ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
フィアナは全身から出血し、間もなくシヴィさんと同じように身体が赤黒く発光しだした。
「これが救済の力・・・。素晴らしい・・・!!とっても素晴らしいわッッッ!!!あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
理性を持った朽鬼になったフィアナは、天を仰いで狂ったように笑った。
「さぁ御使い達よ!!私の手となり、足となり、翼になるために集いなさいッッッ!!!私はフィアナ=トルガレド!!吸血鬼達を救済する、本当の救血の乙女ッッッ!!!」




