231―希力を尽くして
5日後の夕方、あたし達は王国北部の巨大都市、オリスギリアムに到着した。
メンバーはあたしとグレースちゃん、ドッペルちゃんにラリーちゃん、そしてパルマさんだ。
王国の一大事だとあたしが言ったら、みんな二つ返事にオーケーしてくれた。
ホントはプルナトさんも付いてきたがっていたけど、誰かが残って街の管理をしなくちゃいけなかったので、泣く泣く残ってもらうことにした。
そんなあたし達が率いる吸血鬼の数は、およそ4000。
北方吸血鬼軍の人員の9割超にも及ぶ。
この布陣で、ファイセアさんの指揮下にある王国軍と協力して、迫り来る朽鬼達を迎え撃つ。
「ここかぁ・・・。川の上にある街なんだぁ~。」
オリスギリアムは、王国を北東から南西に沿って流れるアドゥイン大河と呼ばれる大きな川の中州に造られている。
だけど街の周囲は水位が低くて、強引に渡ろうと思えば容易に突破されてしまうだろう。
街の南側の橋を渡って、足を踏み入れたあたし達は周りを見回し、住民が一人もいないことを確認した。
どうやら住民の避難は既に完了しているようである。
街の中を、北へ北へと進んで行くにつれて、兵士の数が多くなり、彼等の慌ただしさも目立つようになってきた。
そしてついに、街の最北端に着いたあたし達。
防壁の内側には、即席で作られたと思われる足場がたくさん張り巡らされており、上と下で兵士の人達がせわしなく剣の鍛練や、砲台やらの準備をしていた。
「今戻った。総騎士長殿に“ミラ様をお連れした”と伝えてくれ。」
「はっ!」
ゴルグさんが兵士の人にお願いすると、足場の上で指示を出していたファイセアさんが駆けつけてくれた。
「ミラ殿~!!よくぞ来てくれたッッッ!!!」
「ファイセアさん!!」
馬から降りたあたしは、駆け付けに来たファイセアさんに思いっきりハグした。
すると、ファイセアさんは何やら恥ずかしそうにモジモジした。
「ん?どうかしました?」
「あっ・・・いや、その・・・。異種族とは言え、妻以外の女子と抱擁を交わすのはさすがに・・・。」
「なぁ~に言ってんのぉ~!!こんなの全然浮気の内に入んないって♪何だったら、アルーチェさんに聞いてみたら?」
「そっ、それは無茶が過ぎる・・・!!」
ファイセアさんは真っ赤になった表情をあたしに向けてきた。
「大丈夫だってぇ~♪それとも、ファイセアさんって意外と尻に敷かれるタイプぅ?」
「ばっ、馬鹿を申されるな!決してそのような・・・。」
「はぁ~・・・!!オ~イお前ら~。今そんな下んないコト話してる場合かぁ~?」
後ろでラリーちゃんの呆れた声がしたから振り返ると、グレースちゃんもドッペルちゃんも、まるで「同意見。」と言わんばかりのジト目を向けていた。
「ああ、いや・・・。そうで、あったな・・・!でっ、では~雑談もこれくらいにして!こちらの現状をお聞き願おうか?」
「えっ~とぉ・・・そだね!!それで・・・今はどんなカンジ?」
◇◇◇
「であるからにして、現在こちらでは、朽鬼迎撃の準備がもうすでに完了しつつある。」
ファイセアさんに足場の上へと通されたあたし達は、一通りの設備と戦力を見せてもらった。
王国側の戦力は、兵士がおよそ6000、大砲100門、投石器50。
朽鬼と戦えるには十分な数だった。
「それでファイセア様。朽鬼の群れがこの街に到達するのはどれくらいなのですか?」
グレースちゃんが聞くと、ファイセアさんは神妙な顔をしながら答えた。
「早くて明朝・・・。遅くとも明日の正午にはここに来るだろう・・・。」
もうそんなところまで来ていたなんて・・・。
ファイセアさん達の準備がほぼ終わってたことを不幸中の幸いと言えるか・・・。
「王国の連中の準備が粗方終わってるとして・・・ミラ、俺達はどう戦うよ?」
「ラリーちゃん、そのことなら・・・もうとっくに考えてる。ゴルグさん、ここら辺の地図を貸してくれませんか?」
「ええ。どうぞ。」
ゴルグさんから地図を受け取ると、あたしはそれを足場の床にバッと広げた。
「もうすでに知ってると思うけど、今回の朽鬼はあたし達吸血鬼のことは襲わない。だったらあたし達が、壁になるのが一番だと思う。」
「壁になる?」
「つまり、朽鬼が押し寄せてくる街の北側・・・アドゥイン大河の向こう岸にあたし達がズラ~って並んで、襲ってくる奴らをどんどん倒してくの。そんで取りこぼし分を、王国兵士の人達が大砲や弓で片付ける・・・。これだったら街に朽鬼を一体も入れず食い止めることができる・・・そうじゃない?」
「たっ、確かにこの作戦通りにいけば、犠牲者ゼロで奴らを止めることができるけどよぉ、果たしてそう上手くいくかぁ?」
「上手くいく。いや・・・絶対上手くいかせる!エルカルカ監獄の二の舞は、もう御免だから・・・!!」
「ミラ様・・・。」
「本体・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「よし分かった!!ミラ殿が腹を括ったのならば、こちらとしては最早異論はない。朽鬼は其方らに預けた。仕留めきれなかった分は、我ら王国軍が責任を持って排除しよう!!」
「ファイセアさん・・・ありがとうございますッッッ!!!」
「フッ・・・。不思議な物だな・・・。」
「何がですか?」
「吸血鬼と人間・・・。かつてはお互い敵としていがみ合っていた種族が・・・ミラ、其方という一つの御旗の下に集まり、迫り来る脅威に立ち向かおうとしている・・・。長生きはしてみるものだな。」
「ファイセアさん・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「希望は確かにあります!!だったらあたし達はそれに向かって全力を尽くすのみです!この世界に思い知らせてやりましょうよ!吸血鬼と人間だって、力を合わせて戦うことができるんだってことをッッッ!!!」




