229―朽鬼を束ねる者
馬車がある車庫まであと一歩だという所で、突如デルダーが朽鬼の群れと一緒に2階の窓から降ってきた。
「くっ、来るな!!助け・・・ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
「やっ、止め・・・止めてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいいいいいい!!!!」
朽鬼達に囲まれて、生存者達は成す術もなくどんどん噛まれていき、血を吸い尽くされて奴らの仲間として復活していく・・・。
その光景を見たあたしは、激しい怒りと悲しみに打ちひしがれた。
一体どうなってんだよ!?
何で上から朽鬼がたくさん降ってくんだよ!?
階段を下ってる時にはこんなにも襲って来なかったじゃんか!!
あれ?
階段を下ってる時・・・?
ッッッ!!!
そうか!!
デルダーの野郎・・・!!
こん時を待ってやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
アイツ、3階に立てこもってた連中が避難のためにここまで降りてくるのをずっと待ってたんだ!!
階段で襲ってくる朽鬼の数がまばらだったのは、群れの大半を車庫までの避難ルートであるここの頭上から降らすために控えさせてたんだ!!
あたしとしたことが・・・。
まんまと罠に引っかかっちまった。
あたしのせいで・・・みんな・・・。
「クッソぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
デルダーの策のはまって、ここの人達から犠牲者を出してしまったあたしは、やり場のない怒りから天を仰いで叫んだ。
「ミラ様・・・。」
「本体・・・。」
あたしの慟哭を聞きつけて、後ろで朽鬼達と戦っていたグレースちゃんとドッペルちゃんが駆け寄ってきた。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「二人とも・・・。生き残ってる生存者達を、車庫まで死守して。デルダーの始末は、予定通り、あたしがつける。」
「みっ、ミラさ・・・。」
「つべこべ言わずに早く行け!!これ以上犠牲を出すのは・・・もう御免だッッッ!!!」
「わっ、分かりました!!」
「命令、受諾!!」
ほぼ八つ当たりに近いあたしの指示を聞いて、グレースちゃんとドッペルちゃんは朽鬼に囲まれてる生存者のもとへ急いでダッシュした。
「キュウケツキ、キュウサイ。ニンゲン、ハイジョ。」
赤黒く染まった目で、相変わらずうわ言を言うデルダーを、あたしは殺意のこもった眼光で睨みつけた。
「おい。随分とヒッドイ姿になったね。王都でクーデターやってた方がまだマシに見えるよ。」
あたしの声に反応して、デルダーはユラァっと顔をこっちに向けてきた。
「ワレラ、キュウキ。ナカマ、フヤス。」
「よくも嵌めてくれたじゃん?そこまで知恵絞って、人間を仲間にしたいワケ?」
「ニンゲン、ムカチ。キュウキ、シジョウ。」
無表情でそう言うデルダーの言葉を聞いた途端、とうとうあたしの中でプッツンと何かが切れた。
「へぇ~そう・・・。つまり朽鬼にとって、人間は無価値な存在で、それを自分らと同じような至上の存在に変えてますって?言っとくけど、アンタ等は至上の存在なんかじゃない。吸血鬼もどきなだけの、ただの・・・動く死体だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怒りがついに頂点に達したあたしは、電光石火のスピードでデルダーに斬りかかった。
ところがデルダーはあたしの初撃を剣で防いで、続く連撃を鮮やかな剣捌きでガードし続けた。
どうやら襲う気はないようだけど、やられる気もサラサラないというワケだ。
だけど・・・逃げようたってそうはいかない!!
コイツは絶対・・・あたしが首を刎ねるッッッ!!!
「ギッ・・・!!ホワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
あたしから間合いを取って、デルダーが上を向いて叫ぶと、あたしの周りに朽鬼が一斉に集まってきて、あたしは朽鬼でできた巨大な団子の中に閉じ込められた。
「ぐっ・・・!邪魔すんじゃ・・・ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
あたしの中心に冥府の炎の爆発が起き、あたしを閉じ込めていた大量の朽鬼はあっという間に燃えカスになった。
「ギッ・・・!?グゥゥ・・・!」
けしかけた朽鬼が一瞬で全滅したことに、デルダーは「旗色が悪い。」といった顔を見せた。
「さて・・・。覚悟してもらおうか。」
「キュウキ、ナカマ・・・フヤス!!」
苦々しい顔をしたデルダーだったが、突然踵を返して、生存者を車庫まで誘導していたグレースちゃん達に襲い掛かった。
「さぁ皆さんこちらです!!頑張って・・・ッッッ!!!」
グレースちゃんは寸前でデルダーを剣で抑えたが、力が強すぎて徐々に押されつつあった。
「くっ・・・!」
「アアア・・・。キュウキ、シジョウ。キュウケツキ、キュウサ・・・ギャッ!?」
「ッッッ!!!」
グレースちゃんを押し負かそうとするデルダーの心臓を、あたしの剣が貫いた。
ところがデルダーはそれから逃げようと、甲高い絶叫を上げながらジタバタと暴れた。
「逃げんなよ。ああん?ガリッッッ!!!」
「ッッッ!!!」
あたしはデルダーの頸動脈辺りに噛み付くと、思いっきり噛みちぎり、グラグラになった首を空いてる方の手でブチブチと引き千切った。
そして剣にブッ刺さったままビクビクと痙攣する胴体を、剣を強く振ることによって地面へと捨てた。
「ミラ・・・様・・・。」
「どう?避難終わった?」
「はっ、はい!生き残りの生存者、無事車庫まで避難させました!!」
「そっ。ありがと。それじゃあ・・・行こうか?」
あたしは車庫に入った生存者達、そしてグレースちゃんとドッペルちゃんを馬車に乗り込ませると魔能で使い魔を召喚した。
「地級第二位・岩の勇牛。」
地面からメキメキと生えるように岩でできたゴツい牛が2頭出てきて、それぞれを馬車に繋げると、あたしが念じた通りに、朽鬼達を蹴散らしながら走り出した。
馬車の先頭に行ったあたしは、門を塞ぐ岩の壁を消して、馬車を引く牛達にあたしの領地まで行くように頭の中で指示を送った。
「ミラ様・・・。」
話しかけてきたグレースちゃんの胸に、あたしはそっと顔を埋めて静かに泣いた。
「“全員脱出させる”って言ったのに・・・できなかった。あたし・・・できなかったよぅ・・・。」
すがりついて泣きじゃくるあたしの背中を、グレーちゃんは何も言わずポンポンと優しく叩いた。
そんなグレースちゃんに甘えるように、あたしは夕日が差し込む馬車の中で、いつまでも声を上げずにそっと泣き続けた。




