218―西方吸血鬼軍決戦⑯
ゆっ・・・!ゆゆっ・・・!融合したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
間違いない!!
あの姿・・・。
主人格と別人格、あの時お互いが触れ合った瞬間に一つになったんだッッッ!!!
あんなことまでできるなんてあたし・・・全く思ってなかったんだけど!?
そう驚きつつ他のみんなの様子を見てみたら、何が起こったのか未だに理解できていないようで額に汗を滲ませながら、一つになったトヴィリンを凝視していた。
「なっ、何なのだ!?アレは・・・。」
「分からん。じゃが・・・気配が尋常ではない。心してかからんと、死ぬぞ。」
「ですね!そうならないために、死力を尽くさないと・・・!!」
アウレルさんとローランドさん、そしてルイギさんは状況を把握できていなかったようだけど、目の間にいるのが、“強大な力を持った敵”とだけは認識していて、武器を構えた。
ところがトヴィリンは戦う気満々の三人をチラ見しただけで、すぐに視線を最終関門の上から見下ろしているリリーとヒューゴ君をジッと見つめた。
そして膝を大きく曲げてジャンプすると、何とリリーとヒューゴ君のところまで届いて、驚いているヒューゴ君の頭を掴んで地面に向かってブン投げた。
「ッッッ!!!ヒューゴ君!?」
あたしは急いでダッシュして、落下するヒューゴ君を地面を滑りながらギリギリのところでキャッチした。
「はぁ・・・!はぁ・・・!大丈夫!?」
「みっ、ミラ様・・・!」
上を見上げると、最終関門のバルコニーの縁に立ったトヴィリンとリリーが睨み合っていた。
「ちょっとアンタ!何やってくれてんの!?」
「ヒューゴは私達にとって脅威だからな。一番に殺そうとしたが失敗した。」
「私達って・・・!何ワケ分かんないこと言ってんのッッッ!!!」
リリーは複数の火球をトヴィリンにぶつけようと撃ったが、トヴィリンは縁の上で軽やかな身のこなしで全部避けてしまうと、リリーの頭を蹴り飛ばし、ヒューゴ君と同じようにバルコニーから落とした。
だけどリリーは浮遊魔能のおかげで命拾いした。
「クソ!コイツ・・・!!」
「ッッッ!!!リリーだめ!!急いでそいつから離れてッッッ!!!」
トヴィリンに攻撃を仕掛けようとするリリーを制止した途端、トヴィリンは手の平に真っ黒な、影の槍を出現させて、リリーに向かって投擲した。
リリーはそれを避けたが、何と槍は、逃げた先のリリーの方へ軌道が曲がった。
あたしは咄嗟にリリーに球形防壁を展開して、リリーは串刺しにならずに済んだが、衝撃であたし達のところまで吹き飛ばされた。
「きゃあッッッ!!!」
「リリー!!」
「みっ、ミラお姉様・・・。助けて下さり、ありがとうございます。」
「いいってことよ!それよりみんな、こっからはお互いフォローし合って、絶対に気を抜かないようにして!アイツ・・・かなりヤバイ・・・!!」
「一体どういうことですか!?」
「リリー、何で逃げた先に槍が向かってきたか、分かる?」
「まっ、まさか・・・!!」
「うん。リリーがどこに逃げるか分かってあの槍を投げたんだよ。」
「そっ、そんなのまるで・・・!!」
「“先読みの神感。”そう・・・。一つになったんだよ、主人格と別人格は・・・。」
あたしが導き出した結論に、みんな衝撃を受けた。
ところがルイギさんだけ、合点がいったような顔を見せた。
「天級第三位魔能・光影の絆・・・!」
「何ですか、それは?」
「影の使魂を極めた者のみが行使できる魔能でな、己が作り出した影の人格と同調することができるのじゃ。」
「じゃあ・・・!今の奴は・・・!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「今まで交わることがなかった主人格と別人格が一つになった存在・・・。言わば・・・“真・双心雄”・・・じゃな。」
真・双心雄・・・。
ストレートだけど、かなりお腹に響く呼び名だな・・・。
「とりあえずのところ、奴は主人格が持っていた攻撃の先読みと、別人格が持っていた戦闘力を同時に使える、極めて厄介な相手ってこと。」
「そっ、そんな厄介な相手・・・勝算はあるですか!?ミラ様!!」
勝算・・・か・・・。
さすがのあたしでも、“今度こそダメかも・・・”って思えてきたわ・・・。
だってオート回避だけでも厄介な代物なのに、それに別人格のバチクソな戦闘力まで追加されたら、正直もう手も足も出ないじゃん!!
向こうがまさかこんな奥の手まで用意してるなんて想定できるはずなんかないのに!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
いや、ぶっちゃけ向こうも、無自覚に一つになることができる魔能を使うことができたんだと思う。
だってあの二人・・・正反対な性格していたけど、お互いのことをすごく思い合ってたように見えてたもん・・・。
つまりあの姿は、お互いの想いが重なり合ったことによって生まれた姿。
まさに、“絆の奇跡”ってワケだ・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
そう考えると・・・なんかめっちゃくちゃ・・・腹立ってきたッッッ!!!
絆の強さなら、こっちだって負けてない!!
むしろあたし達の方が強い!
だってあたし達は・・・仲間と、居住区域にいる吸血鬼達の命をしょってこの場に立ってるんだ!!
アンタに・・・アンタ達に負けるワケには、絶対にいかないんだよッッッ!!!
深呼吸をしてあたしは、仲間に対して方針を伝えることにした。
「みんな・・・ここから先は力を合わせて、全力で・・・アイツと、アイツ等と戦おう!!遠慮なんか一切いらない!!アイツ等に、吸血鬼の絆の強さ・・・見せつけてやろうぜッッッ!!!」
檄を飛ばしたあたしに向かって、みんな力強く頷いた。
「ノヴァク君聞こえる!?」
(はっ、はい!!)
「こっから先はあたし達が引き受ける。ノヴァク君達は、万が一のために備えて居住区域の守りに入って!!」
(ミラ隊長・・・。分かったっス!!ご武運お祈りしてるっスよ!!)
「おう!!任せとけッッッ!!!」
ノヴァク君達が居住区域に引き上げ始めると、あたしは最終関門のバルコニーの上に立っているトヴィリンに呼びかけた。
「ねぇ!!いつまでそんなところに突っ立ってないで降りてきたら!?それともさっきみたいに怖くなっちゃったぁ!?」
あたしの挑発に、トヴィリンは少しムスッとしたような顔をして、ドン!っと最終関門の前に降り立った。
「私達は・・・今や一つ。お前達に勝ち目はない。」
「へぇ~!だったら証明してやるよ!!アンタ達の絆よりも、あたし達の絆の方が、よっぽど強いってことをねッッッ!!!」




