215―西方吸血鬼軍決戦⑬
「みんな聞いて!!リリーが主人格のトヴィリンを執将館に閉じ込めたって連絡が入った!あとは、ヒューゴ君と一緒に対処する手はずになってるから。」
「作用ですか。では我輩らは?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「もう余計な巻き添えを心配する必要もなくなったし、こっからは全力・・・何でもアリで行くよ!!」
あたしからの言葉を聞いて、全員がニヤリと笑った。
「その言葉・・・しかと待っていましたぞ!!」
「ミラ様がそう言ってくれるんだったら、私・・・張り切っちゃいますよ!」
「仕方ないのう・・・。久しぶりに、ちと本気を出すとするかのう。」
やる気MAXになったみんなを見て、あたしも俄然やる気が出てきた。
一方で影の方も、あたし達の戦意を感じ取ったのか、「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」と口を大きく開けて吠えかかった。
「さて。一番槍は、誰が務めるかぇ?」
「では、ここは僕が・・・行かせてもらうよ。」
あたし達の前に出たアウレルさんは、歯を剥き出しにしながら威嚇してくるトヴィリンの影に対して、斧を大きく振り上げた。
「風にもまれて切り刻まれろ。地級第一位・旋風刃獄!!」
アウレルさんが斧を振り下ろすと、巨大なつむじ風が発生し、トヴィリンの影を飲み込んだ。
つむじ風の中から、トヴィリンの影が無数の風の刃で切り刻まれる音がして、時おりどうにか逃げようとする手が出てきた。
そしてつむじ風が晴れると、全身に切り傷を負ったトヴィリンの影が、息が絶え絶えになりながら膝を付いていた。
「なんだぁトヴィリン!!大して傷を負わせておらんではないかぁ!!」
ローランドさんからダメだしされて、アウレルさんはムッとした。
「では二番手・・・我輩がッッッ!!!」
ローランドさんは、鎚を構えながら、膝を付くトヴィリンの影に突撃した。
「地級第一位・地砕き!!」
ローランドさんがトヴィリンの頭に鎚を叩き込むと、彼女がいた場所が陥没してあたし達が立っているところまでの地面が一気に割れた。
「うおっ!?すっごい衝撃!!」
「アウレルってば・・・ホントに力任せなんだから。」
いやその一言で済ませられる!?
たった一人でプチ天変地異起こしてんだよ!?
「フン!勝負ありだ・・・ッッッ!?」
ローランドさんが技を叩き込んだところから、上半身がほとんど潰れたトヴィリンの影がローランドの腕を「グググググ・・・!!」と握りながらゆっくり立ち上がった。
「あれを食らってもまだ形を保ってられるなんて・・・!!」
「どうしよ!?このままじゃローランドさんが・・・!!」
一気になったローランドさんに慌てるあたしとアウレルさんだったけど、唯一ルイギさんだけが平静を保っていた。
「やれやれ。若い者はただ闇雲に突っ込むしか能がないから世話が焼けるわい。」
そういうとルイギさんは、右腕に持った剣を下向きに構えて呼吸を整えた。
「天級第五位・不動空斬。」
ルイギさんが大きく剣を大きく振り上げた瞬間、トヴィリンの影が袈裟斬りにされてローランドさんは窮地を脱することができ、あたし達のところまで戻ってきた。
「かっ、かたじけのうございます!!ルイギ様!」
「ローランドよ。お前はまず、動くより先に考える術を身に付けた方が良さそうじゃのう。」
「もっ、猛省いたします!!」
「ねっ、ねぇルイギさん!!今のどうやったの!?一歩も動いてなかったのにどうして・・・!」
「単純な話じゃわい。ただ動かず、己の精神を平静に保ち、虚空を斬るのと同じくして、奴に斬撃を与えたのじゃ。」
へぇ~そうなんだぁ~。
ってそんな説明で納得できるかぁ!!
それ最早剣技ねんて言葉で収まる技じゃないよ!!
やっぱ半端ねぇなこの人ッッッ!!!
「まっ、まぁしかし!!この調子でいけばどうにかなりそうですね!?」
「いや、そう一筋縄にはいかんじゃろう。見ろ、どうやら奴を怒らせたようじゃ。」
どういうことかと思ってトヴィリンの影を見てみると、地面に這いつくばりながら身体を大きく震わせている。
次の瞬間、失った部位がみるみる内に再生していき、そればかりか、身体のサイズが大きくなり、腕が4本になった。
「なっ、なんなのアレは!?」
「地面の影を吸い取り己を強化したようじゃ。おそらく、攻撃力と再生速度も先程より増しておろうて。」
マジか・・・そんなこともできんのかよ・・・。
「ギィィィィィィィ・・・!!グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
4本になった腕を全部ブレード状にして、トヴィリンの影は更に殺意マシマシな目をしてあたし達に向かって叫んだ。
お願いだから、出来るだけ急いでぇ~!
リリー、ヒューゴ君~。
◇◇◇
「ヒューゴ!!」
執将館に入った私は、同じく中に入ったヒューゴと合流した。
「リリーナ、あなたにしては良い作戦を考えましたね。」
「私のアイデアじゃないよ。ミラお姉様が考えてくれたんだ♪あの方が考えた案を瞬時に読み取るなんて、やっぱりミラお姉様は私と固い絆で結び合っているのだわぁ~♡♡♡」
「あなたの変態思考が、獣並に研ぎ澄まされているだけなのでは・・・。」
「あ!?何か言った?」
「いえ、別に。それでは・・・我々も始めましょうか。外ではミラ様達が奮闘されています。遅れを取るワケには参りません。」
「そうね!とっとと捕まえましょう。泣き虫で、逃げることしか能がない英雄さんをね♪」




