211―西方吸血鬼軍決戦⑨
「もしもしヒューゴ君!聞こえる!?」
(はい、ミラ様。)
「状況はもちろん、そこから見えてるよね?」
(ええ。アウレルとローランド、かなり手こずっているようですね。)
「うん。それでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
(何でしょうか?)
「ヒューゴ君の魔能で、あの子の感覚を鈍らせることはできない!?」
(感覚を?どういうことですか?)
あたしは、ルイギさんから聞いたトヴィリンが持ってる魔能について説明した。
◇◇◇
「というワケなんだけど・・・。」
(なるほど。極限にまで高められた潜在意識による無意識下での回避・・・ですか。)
「どうにか無効化できない!?」
(そうですね・・・。有効かどうかやってみないと分かりませんし、もし仮に有効だったとしても彼女の間合いに入っている二人も影響される恐れがありますが・・・やってみる価値はあるかと思います。)
「本当!?分かった!とにかく、一か八かやってみて!!もし何かあったら、あたしが責任取るからッッッ!!!」
(大丈夫です。実行するのは私ですから、責任は私が背負います。それにミラ様のご決断なら、あの二人も文句は言わないでしょう。)
「ヒューゴ君、ごめん・・・。ありがと・・・!!」
ヒューゴ君にお詫びとお礼を言って、あたしは通信を切った。
「何をするか知らんが、お前達が何か賭けに出ようとしておるのは分かったぞ。果たしてそう、上手くいくのか?」
「分かりません・・・。でも、可能性がちょっとでもあるんだったら、あたしはみんなを信じます!!」
「フッ。やはりお前は、中身はちっとも変っとらんのう。」
ルイギさんは安心した笑みを浮かべて、パイプを吸って「プハ~。」と口から煙を吹いた。
さぁ!
頼んだよ、ヒューゴ君ッッッ!!!
◇◇◇
ミラ様との通信を終えた私は、魔能発動のために集中した。
アウレルとローランドに及ぼす影響を僅かでも抑えるために、全神経を研ぎ澄ませて、可能な限り的を絞らないと。
「ふぅ~・・・!」
「ヒューゴ、殿・・・?」
「ノヴァク様、少し黙って頂けませんか?」
「はっ、はいっス!!」
話しかけてきたノヴァク様を、少し強めの口調で注意すると、私は再び集中した。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
あのアウレルとローランドを手こずらせる相手への打開策として、ミラ様は私をお選びになって下さった。
だから私は、何があってもあの方の期待に応えなくては。
集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中、集中・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ッッッ!!!見えた!!」
私は自分の中に高めた集中力が最高潮に達したことを感じた
「地級第一位・全意暗転!」
そうして私は、アウレルとローランドを手こずらせている人間の娘に向かって魔能を行使した。
◇◇◇
「あっ・・・!?」
トヴィリンの動きが少し鈍った!!
「ぐっ・・・!何だ・・・今のは!?」
「視界が、ぐらつく・・・!」
「アウレルさん!!ローランドさん!!」
やっぱり二人にも若干の悪影響が出たか!
でもトヴィリンよりは少しマシに見える。
チャンスは今しかないッッッ!!!
「二人とも!!しんどいだろうけど頑張って!!これが唯一のチャンスだからッッッ!!!」
「ミラ、様・・・。ぐうう・・・!何の、これしきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「僕だって・・・負けてなるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アウレルさんとローランドさんは、ヒューゴ君の魔能の影響を根性で抑え込むと、トヴィリンに対して再度攻撃を仕掛けた。
ローランドさんの拳がトヴィリンの頬に向かって伸び、アウレルさんの剣筋が彼女のスネを捉えた。
トヴィリンは先読みの神感で回避しようした。
だけどさっきと比べると動きが少し遅い!!
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
ローランドさんの拳はトヴィリンの鼻筋を、アウレルさんの斬れない斧の切っ先が彼女のスネに当たって、攻撃を受けたトヴィリンはゴロゴロと地面を転がった。
「やっ、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「おお。寸でのところで一撃を与えるとは。お前達の賭けは、どうやら上手くいったようじゃの。」
ピョンピョン飛びながらはしゃぐあたしをよそに、ルイギさんは感心しながらパイプの中の草を捨てて、懐にしまった。
「はぁ・・・!はぁ・・・!」
「うっ・・・!ぐっ・・・!」
喜び終えるとあたしは、まだ少しフラついてる二人のところに急いで駆け寄った。
「だっ、大丈夫!?」
「なっ、何とか。しかし、どういうことですか?先程まで私達の攻撃を見切っていた奴の動きが突然・・・。」
「実はさ・・・ヒューゴ君の魔能で、あの子の感覚を鈍らせたんだよ・・・。」
「なっ、何ですと!?」
「ホントごめん!!攻めるんならヒューゴ君じゃなくてあたしにして!さっきのは二人に何かしらの影響がでるのも承知の上でやるように言っちゃったから!どうかこの通り!!」
両手を「パン!」と合わせてお願いするあたしに、二人は顔を見合わせて深いため息を吐いた。
「ミラ様にそこまでお願いされたら、私達も言葉が無くなります。ですから今回のことは不問にします。」
「アウレルさん・・・ありがと!」
「我輩も、別に誰も責めたりなんぞしません!!ミラ様の知恵のおかげで、こうして敵に一矢報いることができたのですから!!ただ、欲を言えば・・・またこのような博打に出る際は一言掛けてもらえんでしょうか・・・?」
「あはは・・・すいません。」
苦笑いするローランドさんに、あたしも苦笑いで返した。
とにかくまぁ・・・何とか結果オーライだよね。
「さてと・・・。」
あたし達は、鼻とスネを攻撃されて痛がってるトヴィリンのところまで歩いていった。
「痛い・・・。痛いよぅ・・・。」
地面に転がるトヴィリンは、攻撃されたところを手で押さえながら涙を流していた。
あれだけの一撃だけでこれだけ痛がるってことは、おそらくこの子、今までロクな攻撃も食らってなかったんだろうなぁ・・・。
でもなんか、見てて痛々しくなってきたから、とりあえず全回復で治してやるか。
「ほらほら分かったから。今痛み取ってやるからじっとして。」
「痛い・・・痛・・・ッッッ!!!」
近寄ろうとしたその時、トヴィリンはいきなりガバっと起き上がって四つん這いになりながら地面をさすり始めた。
「ちっ、違うよ!?あんまり痛くないから!!だから落ち着いてね!!ねっ!?」
おいおいどうしたんこの子?
痛がってるかと思ったら突然起き上がって・・・。
「いや本当にもう大丈夫だから!!だからお願い・・・お願いだから、出てこようとしないで!!」
地面をさすっていたトヴィリンだったけど、いつしか大泣きしながら地面をバンバンと叩き始めた。
っていうかこの子、さっきから誰に向かって話しかけてんだ?
「お願いだから彼等を傷つけないでッッッ!!!トヴィリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!」
何言ってんの?
トヴィリンはアン・・・タ・・・。
ワケの分からない彼女の言動がいよいよ怖くなってきたところで、四つん這いになってる彼女と向かい合わせになってる影から・・・何かが出てきた。
「なっ、何・・・」
ビックリしていると、トヴィリンの影から出てきたソイツは大焔百足種の亡骸目がけて吹っ飛んでった。
「るっ、ルイギさん・・・!!」
見るとさっきまで呑気に構えていたルイギさんが明らかに緊張した顔をしながら剣を構えていた。
「年は取るものではないのう。抜かったわい。」
「えっ?どういう意味・・・」
ハッと前を見ると、大焔百足種の死骸をバリバリと破りながら、何かが這い出てきた。
それは・・・トヴィリンと顔は瓜二つだけど、筋肉隆々で目が赤く血走ってて、まるで影みたいに全身真っ黒な少女だった。
「グルル・・・。グルル・・・。グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「まさか影に・・・もう一人いたとはのう。」




