210―西方吸血鬼軍決戦⑧
「あの娘が操る魔能・・・それは、“天級第三位・先読みの神感”じゃ。」
「先読みの神感・・・。」
「己に危害を与えようとする存在の気配を、極限にまで高められた潜在意識が知覚することによって、その者から繰り出される攻撃を無意識下でいなす、“防御魔能の極致”・・・とも呼べる代物じゃな。」
ちょっと待って。
それって・・・こっちがどんなに攻撃しようともあの子が反射的に全部かわしちゃうってコト!?
間違いなく守りにおいて最強の魔能じゃんそれぇ~!!
「ん?ちょっと待って下さいルイギさん。さっき“生まれながらに中々に良い魔能を引き当てた”って言ってたじゃないですか?あれってどういう意味なんですか?」
「あの魔能はな・・・固生魔能の内の一つに数えられるのじゃ。」
「固生・・・魔能?」
「要するに、生まれつき持っている魔能じゃ。アルスワルドに住まう者達はの、己の種族の特性に合わせた魔能を先天的に持ち合わせておるのじゃ。一番身近なのは、儂ら吸血鬼の血操師がそうじゃ。しかし人間だけは、固生魔能を持ち合わせておらず、後から修得することでしか魔能を扱うことができん。じゃがごく稀に、五感や意識に関係する魔能を持った状態で生まれる人間が存在するのじゃ。その中でも・・・先読みの神感は上玉中の上玉と呼べる代物だわな。」
ってことはつまり・・・あの子はこの世界の人間の中で激レア中の激レア。
特異体質中の特異体質ってワケ!?
「そりゃ黎明の開手にもスカウトされるよ!!そんな逸材!!」
「いや。そうとは限らんかもしれんぞ。」
「え?」
あたしの一人ツッコみにルイギさんが異を唱えて、あたしは少しビックリした。
「どういうことですか?」
「確かに先読みの神感は防御魔能、ひいては固生魔能の中でも規格外の代物じゃ。じゃがそれは、あくまで敵の攻撃の防ぐという点においてのみじゃ。あの魔能が真価を発揮するには、ある程度の戦いの技量を身に付ける必要がある。しかし見ろ。あの娘を。泣き喚いて逃げ回るのみで一向に反撃しようとしないではないか。」
「たっ、確かに・・・。ってことは・・・!あの子にはあれ以外の何かしらの隠し玉があるってことですか!?」
「う~む・・・。」
ルイギさんはあたしの指摘に、まだ納得していないと言わんばかりに難しそうな顔をして頭をポリポリと掻いた。
「儂にはどうにも、あの娘の底が知れんのだ。」
「底が知れない?」
「先程も言うたが、あの娘からは殺意どころか一片の戦意すらも感じられんのじゃ。じゃから儂にとってあの娘は、“ただ逃げ回るのみが尋常ならざるだけの、ただの臆病な人間”にしか見えんのじゃ。そんなか弱い者がミラを殺すために存在している者達の仲間に選ばれるなんぞ考えられんし、ましてや“吸血鬼軍本部の壊滅”などという大役を任されるとは到底有り得ん。儂も長い間あらゆる敵と事を構えてきたが、ここまで得体の知れん者は初めてじゃ。」
百戦錬磨のルイギさんですら見極めることが出来ない相手って・・・。
なんかあたしまで怖くなってきた。
「ひぐっ・・・!ぐすっ・・・!もう、諦めて、下さいよぉ・・・。」
「はぁ・・・!はぁ・・・!そういうワケには、いくかぁ・・・!!」
「はぁ・・・!はぁ・・・!貴様こそ・・・いい加減にせんかぁ・・・!!」
そうこうしてる間に、トヴィリンの相手をしていたアウレルさんとローランドさんに限界が近づいていることに気付いた。
(ミラお姉様!!私、なんか段々じれったくなってきました!ここはもういっそ、全員退避させた上で防衛区画ごと吹っ飛ばすってのは・・・!?)
「ダメだってリリー!!そんなことしち、ゃあの子の命の保証は100パーできないでしょうがッッッ!!!」
(はっ・・・!あぅぅ・・・すいません。)
かなり物騒なことを言うリリーを叱ったけど、歯がゆい気持ちなのはあたしも同じだった。
このままじゃこっちが一方的に疲弊するばかりだ。
何か・・・何か考えないと。
この状況を打破することができるかつ、あの子の身の安全がひとまず守れるような手を・・・!
「ルイギさん!その・・・何かないんですか!?先読みの神感を破る方法は!?」
「残念じゃが・・・ないの。あの魔能は、己が身に宿る潜在意識が感じ取る攻撃を全て回避してしまうことができるからの・・・。」
潜在意識が、感じ取る・・・。
潜在意識・・・潜在意識・・・。
そっ、そうだ!!
もしかして・・・!!
「ってことは、あの子の意識に直接働きかければ何らかの効果が見込めるってことですよね!?」
「理屈を言えばそうなるじゃろうが、しかし上手くいくのか?」
「絶対上手くいきますよ!!なんせこっちには、精神支配系魔能のスペシャリストがいるじゃないですかッッッ!!!」




