208―西方吸血鬼軍決戦⑥
ルイギさんが2体目の大焔百足種を倒した後、あたしはアウレルさんとローランドさん、そして地上部隊のみんなと一緒にルイギさんのところまで行った。
「ルイギ・・・さん?」
「なんじゃ?」
「すっ、すごかったですさっきの!!大砲すら効かなかったあの超強力な魔物を剣一本で倒しちゃうなんてッッッ!!!」
「そうあまりほじくらさんでもらえんか?これでも若い頃と比べると腕が落ちてしもうたと少しガックリきとるんじゃわい。」
「いや。そうご謙遜をなさらないで下さい。あれほどまでの剣技は私にでも真似できないことでした。ミラ様のお傍で戦う身でありながら、お恥ずかしい限りです・・・。」
「アウレルの言う通りだ!!ルイギ様!我輩、ルイギ様の戦いっぷりを見て感動いたしました!!後生でございますから、是非一度稽古をつけて頂けないでしょうか!?」
落ち込み気味のアウレルさんと、必死に頼み込むローランドさんを見てルイギさんは苦笑いを浮かべた。
「参ったのう・・・。こんな老いぼれがここまで羨望の眼差しで見られるとは・・・。分かった。ではこの戦のカタがついたら、少し面倒を見てやるわい。お主らはミラの臣下であり、大事な戦友じゃからな。」
「「あっ、ありがとうございますッッッ!!!」」
腰を90度に曲げてすごく喜ぶ二人を見て、あたしも何だか心がほわほわした。
たくさんのこと、学べるといいな。
「おっと!感動的なシーンに見惚れてる場合じゃなかった。あたしはあたしはやることやらないと!」
それからあたしは、気絶している大焔百足種の操縦者を魔能で強制転移させると、遅れてやってきたノヴァク君とベアエスさん達とこの後どうするか相談することにした。
「ノヴァク君、どうするよ?こんな超強力な魔物を倒した以上、今度こそ敵に逆転できる見込みはないと思うんだけど。」
「そう言われれば、そうっスね。でも気がかりなのが、“黎明の開手のメンバーが後ろ盾にいる”っていう情報なんスよね~。ベアエス、それらしき奴は確認されたっスか?」
「偵察部隊が確認した敵の軍勢の中に、それらしき人物は確認されなかったとのことです。」
「もしかして!!俺達・・・偽の情報を掴まされたぁ!?」
「ええっ!?」
あっ、いやでも・・・そう考えるのが妥当かもしんない。
圧倒的な戦力を持って、その上さらに“黎明の開手のメンバーがいるぞぉ!!”って脅しをかければ、こっちの恐怖心を煽って戦おうとする意志を削ぎ落すことができる・・・。
つまりは情報操作による心理攻撃か。
「みっ、ミラ隊長!!本当に申し訳ないっス!!せっかくわざわざ遠路はるばる加勢に来て頂けたというのに・・・!!」
「そっ、そんなに謝らないでよ!!むしろあたし達が来たからこそ、こうやって勝つことができたようなもんだし!!結果オーライだってぇ~!!」
必死に謝るノヴァク君に対して、あたしは肩をポンポン叩いて慰めた。
「そっ、そうっスか・・・?」
「そうだって!!そうだって!!じゃあつまり、もう敵は襲って来ないってワケだよね!?だったらさ!向こうの本陣に行って、勝利宣言と降伏勧告でもしに行こうよ!“吸血鬼にケンカ吹っ掛けたらこういうことになるんだぞ~!!”ってガツンと言ってやりゃいいんだよ!」
「そう・・・っスか・・・?・・・・・・・。そうっスよね!!よぅし!!アドニサカの連中に、西方吸血鬼軍の勝利を堂々と言ってやるっスよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ノヴァク君が元気が取り戻し、とりあえずの方針が固まってあたしはホッとした。
「そうと決まれば早速準備・・・ッッッ!!!」
敵の本陣に出かける準備をしようとした瞬間、アウレルさんとローランドさん、そしてルイギさんが洞窟の向こう側を鋭い眼光で睨みつけていることに気付いた。
「どっ、どうしたの・・・?」
「向こうから何かが来ます。」
「まっ、まさか敵!?」
「おそらくな。脅威をあまり感じんが、用心しといた方が良いのう。」
向こうから何かがまたやってきたことを知って、さっきまで浮かれ気味だったあたし達に一気に緊張が走った。
今度は一体何が来るって言うんだ!?
ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン・・・
・・・・・・・。
「あっ、あれ?」
洞窟の向こうから姿を現したものの正体を見て、あたしはちょっと拍子抜けした。
それは、鎧を一切着ていない、見た目が中学1、2生くらいの小柄な女の子だったからだ。
「誰だあれは?敵?」
「分からん。まだ様子を見てみよう。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あっ、あの~・・・!!」
緊張感が周囲を包み込む中、女の子はたどたどしい口調で話し出した。
「わたっ・・・!私はぁ・・・!れっ、黎明の開手・・・!“双心雄・トヴィリン=スカイグ=ドゥアルテ”・・・です!!せっ、西方・・・!吸血鬼軍・・・!本部の皆様に・・・!警告・・・します!!すっ、速やかに・・・!降伏して・・・!下さいッッッ!!!」
「れっ、黎明の開手!?どっ、どうするっスかミラ隊長!?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「みんな安心して。あれは黎明の開手のメンバーじゃない。」
「どっ、どういうことっスか!?」
「実はね、ここに来る前に元黎明の開手のメンバーに今残ってる奴らについて聞いてきたんだよ。その中に、あの子の名前はなかった。多分ニセモノだよ。」
「そっ、そうだったんっスか!?でも、敵は何であんなニセモノをこっちに・・・?」
「大方手詰まりになって適当に連れて来たお世話係とか使ってガセ情報がマジだったって思わせようとしたんでしょうよ。」
「何と!?ふざけたマネをしおって・・・!!」
「ホントそうだよね~!ってワケでアウレルさん。あの子のこと、ちょっと保護してきてくんない?いくら敵側だろうと流石に可哀相だよ。あんなに怖がっちゃってさぁ~。」
「かしこまりました。」
女の子を保護しに行ったアウレルさんを見ながら、あたしは敵の小細工にオコになっていた。
全く!あんな女の子に黎明の開手のフリをさせるなんて、敵のお偉いさんは一体何を考えてんだよ!!
あ~良かった!!
アルーチェさんに現役メンバーのこと事前に聞いといて。
そんなことを思いながら、アウレルを見てみると、女の子と何やら言い合いしてるっぽかった。
アウレルさんあんなに強めに言ったら余計に怖がらせちゃうよ。
やっぱここはあたしが行って・・・ッッッ!!!
そう思って行こうとした次の瞬間、アウレルさんは突然血の斧で女の子を殴りつけた。
「あっ、アウレルさん!?」
いきなりのことでビックリしたあたしは、アウレルさんのところまで走って行った。
「ちょっと!!何考えてんのさ!?一般人の女の子に暴力振るうなんて・・・ッッッ!!!」
アウレルさんを叱りつつ、女の子を見た瞬間、あたしは絶句した。
カタカタと震える女の子の手には小振りのナイフが握られており、そこからポタポタと血が流れていた。
「こっ、降伏しようと、しないから。わた、私は、あなた達の、ためを、思って。」
アウレルさんのお腹からは血が流れており、彼女が刺したのは明白だった。
なっ、なんで?
なんでこの子、アウレルさんのこと、刺したの?
「だっ、大丈夫アウレルさん!?」
「きっ、傷は浅いので、心配なさらずに。」
「そんなの問題じゃないでしょ!!じっとして!!」
あたしはアウレルさんが負った傷を急いで全回復で治した。
「ありがとうございます・・・。」
アウレルさんはあたしにお礼を言うと、ものすごく怒った顔で女の子を睨みつけた。
「ヒッ・・・!」
「お前、どういうつもりだ?」
アウレルさんは怒り収まらずといった感じで、手に持った斧を「ギリリ・・・!」と握りしめた。
「あっ、アウレルさん・・・。あまり手荒なマネは・・・。」
「ご心配なさらずとも大丈夫です。少し・・・眠ってもらうだけですから!!」
アウレルさんは女の子に向かって斧を振り下ろした。
しかし女の子は、何とそれを避けてみせた。
「ッッッ!!!」
「えっ・・・?」
予想外の出来事にあたしとアウレルさんは言葉を失った。
アウレルさんは、両手にナイフを持ったままカタカタと震える女の子に、続けて殺すことができない斧を振った。
ところがどれだけ斬撃を増やそうと、どれだけ早く振ろうとも、女の子は地面でスピンしたり宙を舞ったりしてそれを全部かわしてしまった。
ちょっと待って。
何でこの子、アウレルさんの攻撃を全部回避することができるの?
アウレルさんの剣速は、乙女の永友の中で随一のはずなのに・・・。
「くっ・・・!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
やがて苛立ちが最高潮に達したアウレルさんは、女の子に向かって渾身の力を込めて斧を振った。
すると女の子は天高く跳んで、姿を消した。
どういうことかと思ったあたし達は、その直後に愕然とした。
「らっ、乱暴は、止めて、ください・・・。」
何と女の子は、アウレルさんの斧の上に立っており、身体をブルブル震わせて泣いていた。
アウレルさんが斧を上に振ると、女の子はあたし達二人の前にスタっと着地した。
「いっ、一体・・・何者なんだ!?お前は・・・!!」
「だっ、だから、さっき言った、通りです。私は、トヴィリン。“双心雄・トヴィリン=スカイグ=ドゥアルデ”・・・です。」




