207―西方吸血鬼軍決戦⑤
アウレルさんとローランドさんにバトンタッチした途端、彼等はえげつない戦闘能力を遺憾なく発揮し、およそ2000の魔能騎士、たった二人で壊滅状態へと追いやってしまった。
「ふぅ~!!おし!!討ち取った数は、我輩の方が上であったな!」
「君と勝負していたつもりはないけど、討伐数で言えば僕の方が上・・・だったかな?」
「何を言うか!!我輩は1056!貴様は955だったぞ!!」
「あんなごちゃごちゃした中で数なんか数える余裕があるとはとても思えないね。適当なこと言うのやめてくれないかな?」
「なっ、なんだと~!?」
「ほらほら二人とも!!そうケンカしようとすな!」
「もっ、申し訳ございません。」
「みっ、ミラ様の御前で粗末な小競り合いを見せるとは・・・不覚。」
「まぁ~でも、二人ともあたしの言った通り、敵から死者を出さずに制圧してくれてありがと。これからも人間相手には、その調子でお願いね。」
「分かりました。」
「是非ともお任せを!!」
あたしに褒められて嬉しそうな顔を見せた二人に、後のことは歩兵部隊のみんなに任せるように言って下がらせた。
そして、入れ替わる形に歩兵部隊が出てきて、二人がぶっ飛ばした魔能騎士達をふん縛り始めた。
「ふぅ~。あの二人ホントやるなぁ~」
指示を出し終えたあたしは、最終関門の上に戻って一息ついた。
「ミラ隊長、これでまずは一区切り・・・っスかね?」
「どうしてさ?」
「戦いの直前に確認された魔能騎士、魔能士団、グレンモン部隊はここまでの戦闘で壊滅。敵にこれ以上の手勢がいるとは思えないっス。」
確かにノヴァク君の言うコトも一理ある。
あたし達はこれまでに敵の主力部隊を悉く返り討ちにしていった。
だからここらへんでちょっと休憩とかしてもいいのかも・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
いや。
気を抜くのはまだ早い。
追い詰められたからこそ、敵は何かしらの手を打ってくるかもしれないし、何より肝心の“アドニサカ軍のバックにいる黎明の開手メンバー”とやらもまだ確認されてないんだし・・・。
「ノヴァク君、そういうのはね“フラグを立てる”っていうから、あまり口にしない方がいいよ。」
「フラグを・・・。それは一体どういう意味っスか?」
「そうだね~。まぁ分かりやすく言ったら・・・ッッッ!!!」
その時あたしは、洞窟の奥から只ならない気配を感じ取った。
「みんな~!!早くそこから避難して~!!!」
地上にいるみんなを急いで避難させると、あたしは魔能を使って気絶してる魔能騎士達を強制送還させた。
「どうしたんっスかミラ隊長!?」
「分かんないけど、向こうから何か・・・とっても強いのが来る!!」
まさか・・・ついに黎明の開手のメンバーが来たか!?
あたしは集中力を一気に高めて、こっちに向かって来る強大な存在に対して身構えた。
「なっ、何じゃありゃ!?」
姿を現したその存在を見た途端、あたしは目を点にしてビックリした。
何とそれは、固まったマグマのような甲殻に覆われた、全長およそ50mほどあるかと思われる超ビッグサイズのムカデ2匹だった。
お互いの巨体をぶつけ合って、叫び声を上げながらこっちに猛スピードで向かってくるそれらにあたしはものすっごくゾゾってした。
あたし・・・足がいっぱい生えた虫、めっちゃムリなのに・・・!!
「あっ、アレは・・・。」
隣のノヴァク君は、巨大ムカデを見た途端に歯をガチガチ震わせた。
「ノヴァク君!あれが何なのか知ってんの!?」
「アイツ等は・・・大焔百足種。フラトームの地の生態系の最上位にいる、極めて危険な魔物っス!!」
フラトームの生態系の最上位って・・・。
なんでそんな激ヤバな魔物を・・・まさか!!
「あれが・・・グレンモン部隊の、切り札ってコト!?」
ノヴァク君は黙って頷いた。
まさかあんなモンを用意してたなんて・・・。
でっ、でも今は・・・ビビッてなんかいられない!!
「大砲部隊の皆さん!!操縦者に当てないように身体の後ろを集中砲火して下さいッッッ!!!」
「りょっ、了解しました!!全砲手、放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
大砲部隊は、大焔百足種の巨大な身体の後ろにありったけの大砲を撃ちまくった。
よし!これで・・・ッッッ!!!
弾幕が晴れて身体の後ろを見た瞬間、あたしは愕然とした。
何と傷一つ付いていなかったからだ。
「なっ、何で!?何で無傷なワケ!?」
「大焔百足種の甲殻は、溶岩の熱に耐えられるほどに強力なんス!それを利用して奴らは溶岩の中に身を潜めて獲物を捕まえるんス。身体に纏わり付いた溶岩が固まって甲殻に重なるっスから・・・頑丈さは魔物の中でも屈指なんスよッッッ!!!」
なっ、何百発の砲撃に耐えられるってどんだけ固いんだよアイツ等の身体。
あたしが唖然としていると、2体の大焔百足種は触覚をキチキチと鳴らしながら周囲をキョロキョロした。
そして・・・。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
耳をつんざくような絶叫を上げると、何と地上部隊が避難している一階の廊下に向かって火を吐いた。
幸いにも、一階の廊下には壁があったから、避難している地上部隊には被害が出なかった。
「何アイツ等!?ムカデなのに火ぃ吹けんの!?」
「何せ火山地帯に棲んでるっスからね・・・!!」
イヤイヤイヤイヤ!!!
いくら生息地が火山だからって、ムカデが火を吹くなんて反則だわ!!
ムカデなんだからせめて毒使って攻撃しろよ!!
と、そんなツッコみを入れてる内に大焔百足種達は、上を見上げてギチギチと牙を鳴らした。
なっ、何してんの?
まっ、まさか・・・!!
「アイツ等!!大砲部隊のところまで登ってくるつもりっス・・・!!!」
あたしの頭によぎったことを、ノヴァク君が声を震わせながら先に言った。
「みっ、みんな!!早く・・・!早く逃げてッッッ!!!」
大砲部隊のみんなが退避するよりも早く、大焔百足種は二階に到達して再び火を吹く溜め動作に入った。
だっ、ダメだ・・・!!!
間に合わない・・・!!!
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ギッ!?ギシャアアアアアア・・・」
諦めかけていたその時、左の一階の出入り口から一つの影が飛び出し、大焔百足種の身体を真っ二つにした。
一体・・・誰が・・・。
「ふむ、まだこれくらいの芸当はできそうじゃな。」
「るっ、ルイギさんッッッ!!!」
何とルイギさんが、大砲すらもろともしないあの巨大ムカデの身体をぶった斬ってみせたのだ。
ルイギさんは、地面に落ちて意識が朦朧としてる操縦者のところに歩み寄ると手刀で気絶させ、もう一体の方へと向いた。
「てっ、テメェ・・・!どうやって倒しやがった!?グレンモン部隊の切り札をよ!!」
全くの予想外の展開に、もう一体の操縦者は驚きと怒りを隠せなかった。
「これが主らの切り札とは・・・。あまり大したことないのぉ。」
「なっ、何ぃ・・・!?」
「若いの、一つ言わせてもらおう。愚直に剣技を極めた者の前では、どのような頑強な岩や鎧はただの紙切れ同然になってしまう。ただ、隻腕となり戦場を長らく儂も先程のは博打であった。じゃが確信した。“大焔百足種は、大したことがない。”とな。」
「ふっ、ふざけやがって!!ジジイ吸血鬼がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ルイギさんの煽りに激怒した操縦者は大焔百足種を操って火を吹かせた。
だがルイギさんはそれを、おそらくアウレルさん以上のスピードで回避し、大焔百足種のズラッと並んだ右足を斬り飛ばしていった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「やはり腕一本では全ての足を飛ばすのは無理か。」
「くっ、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
操縦者は動きが鈍くなった大焔百足種を無理やり後ろに向かせてルイギさんを殺そうとするが、ルイギさんはスタっと大焔百足種の上に立って、操縦者のいる頭部付近まで一気に距離を詰めた。
「やっ、止めろ!!来るなッッッ!!!」
「案ずるなお主は殺さない。」
そう言うとルイギさんは、操縦者の顔を蹴り飛ばし、彼が乗っていたところに立った。
「じゃが、大焔百足種は別じゃ。」
ルイギさんは、大焔百足種の頭を斬り飛ばし、颯爽と地面に着地した。
あたしは、それを見てすっかりポカンとしてしまった。
だって、大砲すらも効かなかった強大な魔物をルイギさんは剣一本、しかも片腕で倒してしまったからだ。
これが・・・かつて“吸血鬼軍最強の戦士”と言われた人の実力ってワケね。
こりゃ・・・ガチでただモンじゃないわ・・・。
◇◇◇
「それは・・・本当なんだな?」
「はい。先程撤退してきた魔能士団の証言によりますと、西方吸血鬼軍本部は“救血の乙女・ミラ”に助力を要請。ミラは配下の者を複数引き連れ、敵方の支援に着いたとのことです。」
「グレンモン部隊の大多数が錯乱した状態で帰って来たのも奴の手の者による仕業・・・か。それで、残存魔能騎士、および魔能士団の方は?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「皆・・・魔能で祖国へ強制転移されたと報せが・・・。」
「そうか・・・。」
報告を受けた司令官は、重い腰を上げてイスから立ち上がり、一つのテントへと向かった。
「ひっ!しっ、司令官・・・さん。」
「敵側にミラがいるとの情報がありました。最早我らに残された希望は、あなた様だけです。」
「みっ、ミラ・・・!?」
「驚かれるのも無理はありません。ですが、かの吸血鬼を殺すことは求めておりません。あなた様に任されたのは、西方吸血鬼軍本部の壊滅に他ならないのですから。」
「でっ、でもぉ・・・。」
今にも泣き出しそうになる少女に対して、司令官は跪いて懇願した。
「どうか我が軍に勝利をお与え下さい!!“双心雄・トヴィリン=スカイグ=ドゥアルテ”殿ッッッ!!!」




