2―困難は突然に
一族を救うって、何の話してんのこの子・・・
「あっ、あのさ・・・イマイチ言ってるコトの中身が見えてこないんスけど・・・」
「貴方も既にお分かりかと思いますが、私達は命を失っており、ここは死後の世界です。」
ああ、やっぱりそっか。
それはもうほとんど分かりきってたんだけどな。
「ですが、貴方には、まだチャンスが残っています。」
え、チャンス?
「私のいた世界に、私の身体を使って生まれ直すのです。」
「え!?それってあたしに今めちゃくちゃ流行ってる異世界転生をしろってコト!?」
「ん、イセカイテンセイ?」
「ああ知らないだっけ。え〜と何て説明すればいいかなぁ・・・要するに、一旦死んでその後に何かしらのキャラ、人なりモンスターなりに別の世界に生まれ変わって冒険したりスローライフ送ったりする作品があたし達の世界で流行ってんの!」
「世界には様々な娯楽の形があるのですね。」
「まあ、そういうコト!」
「それで話を戻しますが、先程も言ったように貴方には私のいた世界に私として生まれ変わって頂き、滅亡の危機に瀕している一族の者たちをどうか救って頂きたいのです。」
うっわ〜
中々にディープな頼み事だなぁ〜
「えっとさ、一つ聞いてもいい?」
「何でしょうか。」
「何であたしなワケ?ここあの世なんだからさ、他にももっと候補いるでしょ。そりゃまぁ、あたしとアンタはなんか知らんけど双子かっつうくらい似てるけどさ・・・」
「確かに、そうですね。あの声が言っていたように、私と貴方は本当によく似ていらっしゃる。」
「声?」
「私は、途方もない無念を抱いたまま死にました。私が死んだせいで、一族は安息の時を迎えることなく最後の一人まで死に絶えてしまうと・・・それはもう、悲しくて、悔しくて、胸が押し潰されてしまいそうな思いでした・・・そんな私の念が天に届いたのでしょうか?目の前が暗闇に包まれた瞬間にその声が聞こえてきたのです。“其方の役目、死した後に出会う生き写しの者に託せ。”と。」
ん〜なんかそれって腑に落ちないなぁ・・・
この子の言う『声』って絶対神様的な何かだと思うけど、でもだからっていきなり会った見ず知らずのそっくりさんにそんな大役代わりにやってもらえってなんかなぁ。
「言われた直後は私も納得がいきませんでした。ただ似ているというだけで、私が果たすべき・・・いえ、果たすべきだった責務を押し付けるなんて・・・」
良かった。
彼女、ちゃんと常識人だ!
「あっ別に、貴方のことを頼りないなんて言ってるつもりじゃありません!無責任に責務を引き継がせることが、ただ申し訳なくて・・・」
大丈夫だよ。
その反応はいたってイージーだからさ!
「しかし、この世界から貴方の死んだ瞬間を見て気が変わりました。“この方しかいない。”と。」
あたしが、死んだ、瞬間・・・?
「貴方は、自らの命を顧みず、小さな命を守ってくれましたね。」
そうだ。
あたしが死んだ理由。
学校帰りの通学路で、通り魔に巻き込まれたからだ。
あたしは、今にも男がナイフで刺そうとする、近所の保育園に通う見ず知らずの女の子を守るために、あの子の盾になって代わりに刺されたんだっけ・・・
正直めっちゃくちゃ痛かった。
刺すたびにお腹に広がる激痛と、傷口から大量の血が、まるで滝のように流れるのを見て、気が狂いそうだった。
でも、通り魔の男が警官に取り押さえられて、女の子が保護されるのをボヤけた視界で見た時は、“助かって本当に良かった。”って思った。
その光景が、あたしがあっちの世界で見た最後の景色だったけなぁ・・・
「私には分かります。貴方は他の者を助ける為なら決して恐れることはない、いと勇敢で、いと慈悲深い強い人間だと。」
え、そうかな〜
ヤバッ、なんか照れてきた。
エヘヘ♪
「今一度お願いします。どうか、私に代わって、一族の為に戦って下さい!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「やはり、無理、でしょうか・・・」
「いいよ。引き受けた!」
「え、本当、ですか!?」
「だってこんなにも必死に頼まれたらさ、断るのなんか可哀想じゃん!こうしてアンタとあたしが似てんのもなんかの縁だしさ。それに、異世界転生なんてすっごくワクワクするじゃん!!」
「あ、ありがとうございます!!貴方のその決断力と勇気に、大いなる敬意を払います。」
「いいっていいって♪困った人がいたら、助けてあげないとっ。それで、次にあたしはどうしたらいいの?」
「私が来たこちらの方を歩いて行くと、死んだ後の私の身体に貴方の魂が宿るようなので、そうして頂ければ。」
「うっし!分かった。そんじゃ早速行ってくるわ。」
「どうか、お気をつけて。」
「オッケー!あっ、そうだ。そういえばまだ聞いてなかったね、名前。」
「申し遅れました。ミラと申します。貴方のお名前は?」
「あたしの名前なんて、もういいじゃん。だってここからは、あたしがアンタになるんでしょ。」
「そうでしたね。失礼しました。」
よし!
じゃあ行くかっ。
あ〜いよいよ異世界に転生すんのか〜
どんな世界なんだろう・・・
ワクワクする!
「待って下さい、ミラ。」
ん、どうしたんだろ?
「何〜!?」
「最後に一つだけ!どうか、自分の事を大切にして下さい!!」
あれ、さっき「気をつけて」って言わなかったっけ?
ま、いっか。
「分かったよ〜!!元気でね〜!!」
全くミラは心配症だなぁ。
自分の身くらい自分で守れるよ。
ん〜と。
だいぶ歩いたけど、まだなのかな?
アレ?
なん、か・・・
頭の中、グラグラ、して、きた・・・
◇◇◇
「・・・・・・し・・か!」
「・・・てる・!そ・・か・・。」
ん、誰かなんか話してる?
よく聞き取れないな・・・
「お前・・・・この・・とやってんだよ!?」
「仕方な・だろ!他の・・・血鬼と違う・・・らさ。」
え、何?
何の話してんの?
ビビってきたんだけど・・・
ていうかさっきから木の匂いがするんだけど。
それに、身体が、なんかスースーする?
まっ、まさか!?
あたし今裸で木のベッドに寝かせられてるぅぅぅぅぅぅ!?
ちょっと勘弁してよぉ〜!!
何で念願の異世界転生一発目のイベントが、『変態たちに襲われる』になるワケ〜!?
マジっ、くっ、有り得ないん、だけど・・・
もう〜!!
意識ハッキリしてんのに何で身体だけ動かせないのよぉ!?
別に縛られてないのに!!
「おい!いい加減さっさとしろよ!!」
「だから仕方ないだろ!!コイツはあの“吸血鬼の英雄様”何だろ?手元狂ったらどうすんだよ!?」
あっ!!
声ようやくちゃんと聞こえてきた!!
やい変態ども!
急いであたしを解放しな・・・
「急いで死にたてのコイツから全身の血を抜き取って王都に届けるんだよ!そしたら俺たちは大出世間違いなしなんだからさぁ!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?