199―誰も死なない戦い方
ノヴァク君とベアエスさんから、西方吸血鬼軍本部の鉄壁の防御力をしっかりと見せられたあたし達は、執将専用の館に戻って、そこの会議室で開かれている各部隊長を集めての作戦会議に参加していた。
といっても、あたし達はノヴァク君や部隊長さん達があーだこーだと作戦を練っているのを聞いて、後からそれが果たして有効かどうか総評するだけなんだけど。
「まずは我々大砲部隊が、地上を侵攻してくる魔導士団、ならびに陸戦型の魔物をこことここ。防衛区画の入口付近において、多方面からの連続砲撃によっての殲滅を図ります。残存兵力は、地上部隊にお任せしてもよろしいでしょうか?」
テーブルの上に、兵器が配備されてる防衛区画の地図を広げながら、あたし達以外のみんなが作戦を話し合っている。
「それについての異論はない。我々はルイギ様直々に、今回の戦に備えての鍛練をしっかりと叩き込まれておる!散り散りになった烏合の衆を片付けることなど造作もない!」
「天獣種をはじめとする飛行型の魔物は、俺達大弓部隊にお任せを。弱点を必ず射貫いて、反撃の隙を与えることなく撃墜してみせます!」
「ありがとうございます!心強いご支援を、期待しております。」
「よし!じゃ、とりあえずはこの方向で防衛戦を進めていきたいと思うっス!!ミラ隊長!ルイギ様!それに永友の皆様方!何か意見はありますでしょうかっス!?」
ノヴァク君は、会議室の一番手前側で話を聞いていたあたし達に意見を求めてきた。
「では、私から。」
「はい!ヒューゴ殿!!」
「乙女の永友参謀役として、意見を述べさせて頂きますと、戦略の方は大体申し分ないと思います。しかし、なるべく慎重かつ確実に進めた方が良いと考えます。」
「と、言うと・・・。」
「大砲部隊の面々は大丈夫でしょう。しかし、残存戦力掃討を担当する地上部隊は、戦力が高い者ほど後方につけた方がいいでしょう。もし反撃に転じられた場合に、前の者を救援できるようにです。その中には、乙女の永友の中でも肉弾戦に長けているローランドとアウレルを手配します。また、空中での敵を撃ち落とす大弓部隊には、より確実に撃墜できるようにリリーナに命中率を向上させる補助魔能を付与させて頂きます。そして私も、防衛区画の規模をより大きくみせるために、敵全てに幻影魔能をかけます。敵勢力を削ぐことはできませんが、かく乱の効果は大きく期待できるでしょう。そして最後に・・・。」
「最後に?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「今回の戦いで最も警戒すべき、黎明の開手の構成員が出現した場合は、地上部隊は直ちに撤退。それ以外の部隊は後方支援として残留。それでも命の危機を感じたら速やかに撤退して下さい。後は、ミラ様の指揮下で我々が総力を以ってこれを迎撃します。」
黎明の開手のメンバーは、たった一人でも戦況を大きくひっくり返せるくらいの桁外れの力を持っている。
それを迎え撃つとなれば、かなり厳しい戦いになることが考えられるし、多くの人が巻き添えを食う危険がある・・・。
このヒューゴ君の意見は、あたしの気持ちを汲んでくれたものだったんだと思う。
「あたしからもお願い!開手のことはあたし達に任せて、ノヴァク君達は自分や居住区の人達のこと一番に考えて!!」
「ミラ、隊長・・・。分かったっス!黎明の開手の奴のことは、ミラ隊長達に任せるっス!!」
ありがたいことに、ノヴァク君はあたしの言うことを聞いてくれた。
良かった~。
これでひとまず、みんなの身の安全は大丈夫、か・・・。
「では作戦会議は以上っス!みんな!敵がいつ攻め込んでもいいようにこれから各配置に・・・。」
「ちょっ、ちょっと待って!」
あたしには、まだ伝えたいことがあったので、会議室を出ようとするみんなを引き留めた。
「どうしたんスか?ミラ隊長。」
「あの、さ・・・!今回の防衛戦についてなんだけど・・・できたらあたしは・・・敵の死者数ゼロでいきたいと、思うんだけど・・・。」
あたしが言いたかったことを言うと、ノヴァク君や西方吸血鬼軍のみんなは目をパチクリさせた。
「なっ、何言ってんスかミラ隊長!?敵側から死者を一人も出さないなんて・・・!!」
「確かに、言ってることめちゃくちゃだよね。でも、今回相手にするのは、人間の国なんでしょ?あたしは、吸血鬼と人間が平和に、お互いに分かり合える世界を作っていきたいと心の底から思ってる。だから、今回の戦いであたしは誰も殺したくない。もちろん、みんなにも死んでほしくないし、誰も殺してほしくない・・・。ワガママ言ってるってのは分かるけど、どうかお願い!!みんな!向こうの人達のことは、誰一人殺さないでッッッ!!!」
深々と頭を下げるあたしに、みんなは何一つ、言葉を返すことはなかった。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ならば方法を述べよ。」
「ッッッ!!」
パッと見ると、ルイギさんが座ったまま、何だかちょっと厳しそうな口調で、目を合わせずにあたしに言ってきた。
「ルイギ・・・さん。」
「要するにミラ、お前は今回の戦において、敵側から犠牲者を出さず、あくまで追い返す程度に済ませたい・・・と、申すのだな?」
「そっ、そうです・・・!」
「ならば、皆にそれを可能にする具体的な案を述べてみよ。綺麗ごとだけのお題目だけでは、兵は動かぬぞ。」
ルイギさんの鋭い眼光が、あたしを捉えて逸らさない。
確かに、ルイギさんの言う通りだ。
抽象的な目標だけじゃ、みんなを納得させることなんてとてもじゃないけどできない・・・。
何か。
何か方法を考えないと・・・!
敵から死人を出さずに、追い返す程度に済ませる具体的な方法を!!
ううっ・・・!
どうしたら・・・。
どうしたらいいんだ!?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ねぇみらちゃん!ター〇ネーター2でさ、シ〇ワちゃんがミニガンとかグレランとかブッパしてんのに、どうして取り囲んでる警官隊に死者が出なかったか知ってる?」
「いや、分かんない。そういえばどうしてなんだろうね?」
「あれってさ、ミニガンをパトカーとか警官スレスレの場所に撃って、グレランも、よく見たら警官が逃げ出した後に撃ってんだよね!」
「そうなんだ~。」
「いや~あのシーンはシビれたねぇ~♪何たって“破壊不可能な完璧な殺人マシンでも、その気になったら誰一人殺さずに敵を追っ払うことができる”ってのを見事に見せつけてくれたんだから!!」
「ってか飛花ちゃん、結構昔の映画見るんだね?てっきり最近のアニメしか見ないと思ってた。」
「面白かったらどんなに古い作品でも網羅する!!これが真のヲタってなもんよ~♪それに則って、ヱヴァン〇リヲンの旧作版もねぇ、ネ〇フリで全部見たんだから!」
「はいはい。それより早くス〇バ行こ。新商品のフラペチーノ飲みたいし・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ッッッ!!!」
「ん?」
「思いつきましたよ。敵から死者を誰一人出さない戦い方が・・・!」
「ほう。それはどういうものじゃ?」
「それはですね~・・・。」




