196―防衛設備と鬼教官
「どうっスか~ミラ隊長~?気持ちいいでしょ~?」
「まぁ、気持ちいいっちゃ~気持ちいいけど~・・・。」
「ありがとうございますっス!!」
どっかから大急ぎでドリンクを持ってくるなり、ノヴァク君はずっ~とソファに座るあたしの肩を揉んでる。
それも手じゃなくてヒジで・・・。
なんか、すっげ~良心痛むんだけど・・・。
これじゃあ、あたしがノヴァク君のこと、めっちゃコキつかってるみたいになっちゃってんじゃないの?
「あっ、あのさノヴァク君・・・。」
「ハイ!何すか!?」
「もうマッサージはいいからさ、そろそろ本題に移ろうよ?」
「ナニ言ってんっスか!?まだこれからじゃないっスか!お次は俺の見事な手さばきで、ミラ隊長の二の腕を揉みほぐして・・・」
「イヤもうホントそういうのいいから!!とりあえず向かいに座って!!ほら!ほらぁ!」
「そっ、そうっスか~?」
ノヴァク君は、何だか渋々な感じで向かいのソファに座ったんだけど、マジで何なのこの子。
ホントにここで一番偉いのか、もはやそれすらも怪しくなってきたんだけど!
「ふぅ~!で、ノヴァク君。ぶっちゃけ今ここはどんな状況なワケさ?」
「ハイ!ミラ隊長が到着するまでに、防衛の準備は完了してまっス!!あとは敵の襲来を待つだけっス!!」
「へぇ~。じゃあもう準備万端って感じなんだ?」
「ハイ!!ただ最後に・・・すこ~しやり残しが・・・。」
「やり残し?」
「兵の体力と戦術の向上・・・っス・・・。」
「どれくらいかかりそうなの?」
「いや~それは・・・指南役次第・・・と申しましょうかぁ・・・。」
「指南役次第?それってどういうこと?」
「えっ~と・・・。とにかく、一度見に行きますっスか?」
「え?うん、分かった。あたし達も、ここの防衛設備がどんなものかちょっと気になってるし!」
「じゃあ、着いて来て下さいっス。」
こうしてあたし達は、ノヴァクさんとベアエスさんに案内されて、西方吸血鬼軍の防衛設備を見学することになった。
ドームの壁に沿って作られた建物の一階に降り、外に出て、そのまま広場の脇に行くと、何やら木でできた扉があった。
扉を開けると向こう側は、5mくらいの短いトンネルになっていて、反対側の出口の光が見えていた。
「こっ、これは・・・。」
トンネルをくぐったあたしが目にしたのは、長い廊下にズラッと並んだいくつもの大砲だった。
「どうっスか~?全部で100門あるんスよ~。」
「ひゃ、100門!?」
「驚くのはまだ早いっス!向こうの壁をご覧下さいっス!」
「向こうの壁?って、うっわ!!」
ノヴァク君の言う通り、反対側の壁を見ると、壁一面に大砲がうじゃうじゃと並んでいた。
「この防衛区画は8階建てになっていて、2階から7階までに大砲がそれぞれ100門ずつあります。」
「ってことは・・・全部で1200門大砲があるってこと!?」
「その通りっス!!」
腰に手をやってノヴァク君は自慢げに返事をした。
めっちゃくちゃ大砲あんじゃんここ!!
「あれ?じゃあ1階と8階はどうなってんのさ?」
「1階は地上戦を行う兵士が急襲するための隠し扉が設けられていて、最上階となる8階にはアレが設置されています。」
ベアエスさんが指を差した8階を見ると、他の階と違って天井がなく、大砲の代わりに巨大なクロスボウが並んでいた。
「ベアエスさん、あれは?」
「あれは・・・“天獣除けの大弓”ですか。中々に興味深いです。」
「ヒューゴ君知ってんの!?」
「ええ。飛翔能力の高い天獣種を撃ち落とすのに使われる兵器です。あれを見て合点がいきました。ノヴァク殿、この防衛区画の設備は全て・・・。」
「ヒューゴ殿ご明察っス!ここにある兵器は全て、かつてここを使っていた岩削人達が残した、フラトームの魔物殲滅用のものっス!!」
なるほど~!
対魔物用だからこんなにゴツイ兵器がたくさんあるんだぁ~。
あれ?
でもちょっと待って。
「でもノヴァク君。今回攻めてくんのは人間の兵士達でしょ?だったらこんな大きな武器は必要ないんじゃ・・・。」
「ミラ隊長!アドニサカの軍の連中には、魔物に乗ってやってくる“グレンモン部隊”なんていう物騒な輩もいるんすから、使わなきゃいけないっス!!」
魔物に乗ってやってくる連中!?
そりゃ~使わなきゃ損だわ~!
「ノヴァク殿!」
「何すか!?ローランド殿!」
「この大砲、撃つための紐がついてないではないか!どうやって撃つのだ!?」
「それはっスねぇ~ここを見て下さいっス!」
「なっ、何だこれは!?」
ローランドさんが素っ頓狂な声を上げたので、大砲をよく見てみるとなんと引き金が付いていた。
「岩削人の技術で作られた代物ですからね。我々も、扱いにかなり苦労しました。」
「すごい!この大砲トリガー式じゃん!!しかもグリップまで付いてる!」
「ミラお姉様・・・何だかすごくカッコいいです!!♡♡♡」
添え付きのイスに座って、右手で引き金を持って、左手でグリップを握るあたしは、リリーの言う通り確かに絵になっていた。
これ撃ったらめっちゃ気持ち~かもなぁ~♪
「よろしかったら、最終関門に設置されてる“六連式稼働砲”も触ってみますか?」
「六連式、稼働砲?」
ふと見ると、防衛区画の、あたし達が出てきたトンネル側の壁に巨大な門があって、そこから六つの砲門があるリボルバー式の大砲が縦に5つ、横に6つの計30門が顔を出していた。
「何アレ!?すごっ!!」
「あの大砲が、この防衛区画の最後の要です。あの大門が突破されると、敵が街になだれ込み、この本部は壊滅する・・・。」
「だから、俺達の役目は責任重大っス!!何としても、連中をここで食い止めないといけないんっスからッッッ!!!」
そう宣言するノヴァク君の顔は、とても責任感に満ちた表情をしていた。
そうだ。
腰が低くて、ヘコヘコしてるけど、彼はここのトップとしてみんなの命を預かってるのは変わりないんだ・・・。
「ノヴァク君・・・絶対防衛を成功させて、ここのみんなを守ろうね!あたし達も精一杯協力するからさ!!」
「ミラ・・・隊長・・・。べっ、別に!ミラ隊長達の手なんか借りずとも、俺達がアドニサカの連中をちゃちゃっと片付けてやるっスよ!!」
ノヴァク君の顔は、嬉しそうにしながらも、なんだか照れ臭そうに見えた。
「ちゃちゃっと・・・のう。」
「ッッッ!!!」
突然後ろから声がしたから振り返ると、あたし達が通ってきたトンネルの出口に一人の男の人が立っていた。
見た目は20代後半くらいで、少しボサついたロン毛で、顔は福〇雅治を洋風にしたようなイケメン顔だった。
目は赤かったから吸血鬼には違いないんだけど・・・。
ってかこの人・・・いつからここにいた?
気配全く感じなかったんだけど・・・。
「おっ、お疲れ様っス!!どうっスか?稽古の方は。」
「儂が来た時よりはだいぶマシになっただろう。あれなら前線に立たせても死にはせんだろう。」
「おおそれはそれは!!ありがとうございますっスッッッ!!!」
「それより、先程の其方の言葉・・・自惚れるのも大概にせい!将たる者がそのような態度では兵も総崩れになろう。」
「もっ、申し訳ないっスッッッ!!!」
うっわ~!
すんごい説教されてるよ~。
でもこの人一体何者なんだろう・・・。
あれ?
よく見たらこの人・・・左腕が、ない・・・。
「む?」
あっ!目が合った・・・。
とりあえず、ここは挨拶を。
「どっ、どうもはじめまして~!私・・・」
ヒュン!
え?消え・・・
ガキン!!
「ッッッ!!!」
突然消えたと思ったその人は、私のすぐそばまでやってきて、血でできた剣であたしのことを斬ろうとした。
だけどアウレルさんの即座の判断で、その一撃はどうにか回避された。
「ミラ様に何をする貴様。」
「フッ。儂の動きに反応してみせるとは・・・中々に良い手練れを見つけたな、ミラ。」
え?
この人、あたしと知り合い?
「えっと・・・その・・・。」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「その顔・・・。どうやら甦りの際に、記憶が抜け落ちたというのは誠であったか・・・。儂のことは覚えていると少しは期待してはいたのだが・・・。いや、甦っただけでも僥倖、と思うべきか。」
「あっ、あなた!一体何なんです!?人の顔見るなり急に斬りかかったりして・・・!!」
「おっとすまんな。では改めて、名乗らせてもらおう。儂の名前はルイギ。よく覚えておくがよい。」
「「「「るっ、ルイギ!?」」」」
ルイギさんの名前を聞いた瞬間、永友のみんなが揃って跪いた。
「ちょっ!どうしたのみんな!?」
「先程は、無礼な口を利いて申し訳ございませんでした。」
「よいよい。そち、名は?中々に筋が良かったぞ。」
「アウレルと申します。偉大なるあなた様に会えただけでなく、お褒めに預かるなんて、感激の極みです。」
「ちょっ、ちょっとリリー!この人、一体何者なのさ?」
「このルイギ様は、吸血鬼軍創設に携わった“三将”のお一人であり、ミラお姉様が現れるまでは“吸血鬼軍伝説の戦士”と呼ばれた、私達にとって、伝説の方なんです!!」
えっ!?
吸血鬼軍創設メンバーの一人!?
そんな凄い人だったの!?
「こっ、これはこれは!!大変失礼しましたッッッ!!!」
「はっ、ははっ!やはり、そちは丸くなったの~!出会った頃は、鬼の如き眼光で儂らを殺そうとばかりの面構えだったのいうのに!」
出会った頃?
それってどういう・・・?
「しかしルイギ様。あなた様は確か、ミラ様が“救血の乙女”と呼ばれる発端となった戦で左腕を失い、それ以来は各地の拠点を放浪し、剣術の指南をすることで、後継の育成をしていたはずでは・・・。」
「実はの、このノヴァクに、己の軍の技を磨いてほしいと頼まれての。」
「ルイギ様には、現役時代から大変お世話になってるもんで、思い切って頼んでみたっス。しかしこれが超厳しぃ~!!ったら・・・。」
「隻腕の儂に遅れを取っているおるのは、うぬの教育がなっていない証拠であろう!この局面を乗り越えた次は、もっと兵の鍛練に精を出さんか!」
「めっ、面目ございませんっス・・・。」
ルイギさんに一喝されて、またもやノヴァク君はシュンとしてしまった。
しかし・・・この人がまだ現役だった頃にノヴァク君がお世話になってるってことと、さっきのあのセリフ・・・。
もしかしたらこのルイギさん、本物のミラの過去を知ってる超重要人物なのかもしれない・・・。




